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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ

>> まほうの映画館1のアーカイブへ(別ウィンドで開きます)

第39回「自分なりのしあわせと、これから。枯れ葉」

2024.1.29 upload

『枯れ葉』(2023年:フィンランド、ドイツ)
原題:KUOLLEET LEHDET/英語題:FALLEN LEAVES
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
キャスト:アルマ・ポウスティ/ユッシ・ヴァタネン/ヤンネ・フーティアイネン/ヌップ・コイヴ ほか
公式サイト:https://kareha-movie.com
全国順次公開中


みなさん、こんにちは。2024年はじめての「まほうの映画館2」です。
今年もマイペースに、わたしの好きな映画について書いていこうと思います。
よろしくお願いします。

さて、今月は昨年末に公開されたこちらの作品。
やっと観に行くことができました。

アキ・カウリスマキ監督『枯れ葉』です。
2023年、フィンランド・ドイツの作品。
出演はアルマ・ポウスティ、ユッシ・ヴァタネンなど。

カウリスマキ監督の作品といえば、ひとめで彼の映画と分かるような独特の光や色の感じ、登場人物たちの最小限の表情とセリフ、そしてほぼ毎回ある演奏シーンなど、唯一無二の世界観がとても好きで何本か観ていました。
前作の『希望のかなた』もすごく素敵だった記憶があり、今回もとても楽しみにしていました。

舞台はヘルシンキの街。スーパーで働くアンサ(アルマ・ポウスティ)と、工事現場で働くホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)。ふたりはカラオケバーで偶然出会い、惹かれ合います。
ですが名前も連絡先も知らないまま、すれ違ったり、それぞれの生活を送ったりします。
二人は未来を共にすることができるのか、そんなラブストーリーです。

いやー、鑑賞中何回も心の中で、「良い〜わぁ……」とつぶやきました。
しみじみと、静かにぐっとくる……。

まず冒頭、スーパーで働く主人公アンサが家に帰ってラジオをつけると、ロシアによるウクライナ侵攻のニュースが流れてきます。
これまでのわたしが観たカウリスマキ監督の作品にはおそらくなかった、はっきりとした現実、に少し驚きました。その後も物語の中で度々、ラジオから聞こえてくる戦争のニュース。
「ひどい戦争!」とアンサが唯一強めにいうシーン。
確実にカウリスマキ監督のあの世界なんだけど、その中で今までよりも強いメッセージを感じて、胸うたれました。

だけどカウリスマキ監督の映画はいつも、普通に働いて生活をする人々の物語で、理不尽だったり、世知辛くてやるせないような日常も描かれていて。
実際に私たちも戦争のニュースを耳にして、つらくて、心が痛かった。
でも自分の生活も精一杯だし、続けていかなくちゃならない、生きていかなくちゃならない。
そこを本当に、そのまま目を逸らさずに描いていることがすごいなぁと感じました。

今回の主人公のふたりも、それぞれ少ししんどい日常を送っています。
アンサは理不尽な理由でスーパーをクビになってしまい、ホラッパは酒浸りで半ば自暴自棄になりながらもどうにか働いています。
(最終的には仕事中の飲酒がばれてクビになる)
そんなふたりが偶然カラオケバーで出会うシーン。
お互い控えめに視線をあわせ、そらすあの感じ、良いぃっ……!ってなりました。
ものすごく劇的というわけではないけれど、きっとあの瞬間は世界に二人だけだと感じるだろうなー。

そして映画館の前でのキス。これも良いいぃ……。良すぎる。
ちなみに二人が劇中で一緒に観る映画はまさかのジム・ジャームッシュ監督『デッド・ドント・ダイ』!笑 映画館の外に貼られたポスターとか、細かいところも愛にあふれていて嬉しくなります。

今回も人々はほぼ笑わないし、セリフも表情も最小限なのだけど、やっぱり音楽によって代弁されているのが良いのです。
絶妙な歌詞とノスタルジックなメロディーの数々。
そして人物にぐっと寄った時のその眼差しと光に、なぜか何度も涙が出そうになりました。
アンサが微笑んだあのシーンは嬉しくなったなぁ。

シュールでクスッと笑えるユーモアもあり。友だちのキャラクターがまた良い。
現代で、現実なんだけどやっぱりみんなちょっとカウリスマキ世界の住人という感じで。
洋服や部屋の色彩も、質素だけれど毎回すごく印象的で素敵です。

基本的に灰色で、薄雲っているような街の中、しんどいことの方が多いような生活の中で、ほんとにちょっとしたこと、音楽や、映画や、ほっぺたへのキスや、わんこ(犬)や、そんなことが少しだけ日々を明るく照らすということ。
戦争は続いているし、不器用でうまくいかないことばかり。
でもきっと小さな光はいつもそばにあるよなぁと感じさせてくれる作品でした。
最後のアンサのウインクがすべてな気がする。素晴らしかったです。
じわじわロマンチック!

去年からいい映画たくさん観られて嬉しいー。
なんていうか、より親密で、リアルで、実はみんなが感じているであろう光や影をじっと見つめている作品が最近いっぱい評価されている気がします。わかんないけど。笑

今年もこんな感じで、よろしくお願いしますね。
ではまたね。


© 2024 DONUT



中野ミホ「Breath」インタビューを掲載

INFORMATION


配信シングル「TAPES」
2023年3月29日(水)リリース
収録曲:01.国境/02.Turn



1stEP『Breath』
2022年8月17日(水)リリース
収録曲:01.My friend/02.不思議なぼくら/03.電源/04.Good morning to you/05.ハウ・アー・ユー/06.Mabataki
販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/

■ ライブ、イベントの最新情報は公式サイトをご確認ください。
https://nakanomiho.tumblr.com

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