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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ

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第37回「その夜のすきまに、星は見える? 白鍵と黒鍵の間に」

2023.10.20 upload

『白鍵と黒鍵の間に』(2023年:日本)
監督:冨永昌敬
脚本:冨永昌敬/高橋知由
原作:南博
キャスト:池松壮亮/仲里依紗/森田剛/クリスタル・ケイ/松丸契/川瀬陽太 ほか
公式サイト:https://hakkentokokken.com
全国順次公開中


みなさん、こんにちは。
前回から少し間が空いてしまいました、お元気でしょうか?
すっかり秋の空気ですねー。毎日気持ちよくて心穏やかに過ごしております。

秋はちょっとゆったり大人な気分に浸ったり、したくなりませんかね。なりますよね。
というわけで今月はそんなムードにもぴったりな日本の映画を観てきましたー。

『白鍵と黒鍵の間に』2023年、日本の作品です。
監督・脚本は冨永昌敬。出演は池松壮亮、仲里依紗、森田剛、クリスタル・ケイなど。
原作はジャズミュージシャンである南博のエッセイ『白鍵と黒鍵の間に -ジャズピアニスト・エレジー銀座編-』。
今作では原作がアレンジされ、池松壮亮さんが一人二役を演じています。

舞台は昭和63年、東京・銀座。ジャズピアニスト志望の博(池松壮亮)は場末のキャバレーで酔客相手にピアノを弾いていました。
ある日、ふらりと訪れた謎のチンピラ(森田剛)に「ゴッドファーザー 愛のテーマ」をリクエストされ、その曲は弾くな!とバンマスに忠告されるもそれを聞かずに演奏してしまいます。
ですが実はその曲をリクエストしてよいのは銀座を牛耳る熊野会長(松尾貴史)だけ、弾いてよいのも会長お気に入りの敏腕ピアニスト、南(池松壮亮)だけという暗黙のルールがあったのです。
二人のピアニスト、バンドマン達、クラブの従業員やお客さん、さまざまな人の思いがもつれあう、予測不能な一夜の物語です。

とてもよかったです、面白くてグッときた……。
重厚なムードと、どこか夢の中のような一晩の出来事に、すっかり引き込まれました。

昭和63年の銀座の街、それも年の瀬。
楽器をケースにも入れず裸で担いだまま夜の街を闊歩するジャズメン達、本当にいたんだろうなぁ。
たまり場のカフェで次の演奏まで時間をつぶしたり、新たなお店の仕事を探したり。
クラブのホステスやお客さん、ボーイやドアマン達の何気ない会話もなんだかリアルで、本当にこんな空気があったんだろうなと嬉しく、ドキドキしました。

そしてキャラクターがみんな本当に魅力的でした……。
一人二役を演じた池松さんの「南」と「博」。
ビシッと背広を着たクールな南と、夢のためにもがく博、どちらのピアノを弾く姿も素敵でした。
博は南の過去でもあるような。
仲里依紗さんのほどよい80年代感のある出立ちと振る舞いもかっこよかったし、クリスタル・ケイさんの歌うジャズのスタンダードナンバーは言わずもがな最高でした!
森田剛さんのニヤッと笑う感じもめちゃくちゃハマっていたなぁ。
個人的には高橋和也さん演じるクラブのバンマス三木がとても良かった……。
ギャンブル好きで適当なように見えて、本当は仲間や家族のために強く振る舞ってるような、そして誰より音楽を愛してるのが表情で伝わってくる、粋でした。

お金や欲望や暗黙のルールがうごめいている銀座の街で、クラブやキャバレーのバンドマンはBGMを演奏すればいい、お飾りのようなもの。
誰も真剣に演奏は聴かないし、自己表現をする者ははじかれてしまいます。
博、そして南はかつての恩師に言われた「ノンシャラント」(訳すと「軽妙に」)な演奏にたどり着くために、それぞれにここではないどこかを求めてモヤモヤした思いを抱えながら、ピアノを弾いています。

南が路上に捨てられていたチューニングの狂ったピアノでK助(松丸契)とセッションするシーン、かっこよかったなぁ。たばこをくわえてニヤッと笑う南の表情、そして初めて「ノンシャラント」の意味を理解したようにハッとした瞬間。

そして終盤、物語は夜が更けるにつれ、どんどんカオスな状態になっていきます……。
ちょっとシュールで夢の中みたいな演出、役者さんたちのどこか力の抜けた演技が現実から少し浮いているようでもあり、不思議な心地よさでした。
色彩も深みがあって、素敵だったな。

タイトルである「白鍵と黒鍵の間」。
この物語に出てくる、そしてこの街にいる全員にきっと色々な思いが渦巻いていて、そんな人と人の間、ビルとビルの間のあいまいで言葉にできない、正確な音にならないようなところに泥臭い真理がある、ということのような……そんな気もしました。
そしてそんな隙間にある虚しさを、音楽はきっと埋めてくれるんだろうなと思いました。
心から音楽に救われた人や音楽を信じている人たちの物語だなぁと、最後のバンドの演奏を聴いて感じました。
鳥肌立ったなぁ。

そしてこの映画のキーになっている、「ゴッドファーザー 愛のテーマ」。
この演奏がまた最高でした……。他にもやっぱり名曲は色褪せないなぁと感じる場面ばかり。
音楽を演奏する人はもちろん、そうでなくても、この不思議な一夜の物語にはまること間違いなしです。
「まぶたの裏に星が見えなきゃジャズじゃない。」なんてロマンチック!

それではまた。寒くなってきたので体調には気をつけてくださいねー。


© 2023 DONUT



中野ミホ「Breath」インタビューを掲載

INFORMATION


配信シングル「TAPES」
2023年3月29日(水)リリース
収録曲:01.国境/02.Turn



1stEP『Breath』
2022年8月17日(水)リリース
収録曲:01.My friend/02.不思議なぼくら/03.電源/04.Good morning to you/05.ハウ・アー・ユー/06.Mabataki
販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/

■ ライブ、イベントの最新情報は公式サイトをご確認ください。
https://nakanomiho.tumblr.com

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