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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ

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第36回「キラキラしてなくてもいい、わたしはわたしなだけ! バービー」

2023.08.22 upload

『バービー』(2023年:アメリカ)
原題:Barbie
監督:グレタ・ガーウィグ
脚本:グレタ・ガーウィグ/ノア・バームバック
キャスト:マーゴット・ロビー/ライアン・ゴズリング/シム・リウ/デュア・リパ ほか
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/
全国順次公開中


みなさん、こんにちはー。
まだまだ暑い日が続いてますが、お元気ですか?
私は正直、夏、もういいです……とバテております。

だがしかし。去年からずっと楽しみにしていたこの作品がついに公開されたので意気込んで映画館へ行ってきました!
もちろん、唯一持ってるピンク色の服を着ていきました。

『バービー』(『Barbie』)
2023年、アメリカの作品。監督はグレタ・ガーウィグ。
主演はマーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリングなど。

60年以上も前から世界中で愛されるファッションドール「バービー」。
さまざまな職業や人種のバービーがつくられて、「なりたいものにはなんでもなれる」と女性たちにパワーを与えてきた存在。
実は彼女たちはピンクに彩られた夢のような世界「バービーランド」で暮らしていました。
そこにいる一体の定番バービー(マーゴット・ロビー)とボーイフレンドのケン(ライアン・ゴズリング)が主人公。
毎日がハッピーで、完璧だったはずのある日、バービーの体に異変が起こります。
その原因を突き止めるため、彼女はケンとともに人間の世界へ旅立つことに……。
ですが人間の世界を知らない二人は思わぬ騒動に巻き込まれてしまいます。
彼女は元の平和な世界に戻ることができるのか!? というお話。

もう2時間ずっと最高でした……。あともう2時間くらい観ていたかった!
子どものころ私もバービーで遊んでいたので、嬉しかったなー。
まさかバービーで、こんなに笑ってこんなに泣くなんて! 本当に今年一番でした。
内容、かなり攻めててかっこいいです!

オープニングでの登場シーンから、ピンク色のバービーランドで目覚めて、いろんなバービーたちが活躍する華やかな世界にまずもう圧倒されてずっとニヤニヤ、ワクワク。
貝殻の形のベッド、ピンク色のオープンカー、どこに行くにも洋服やヘアスタイルがいちいち全部かわいすぎる!
夢が詰まってて最高、今日も明日もハッピーしかないバービーランド。

ダンスのシーンもめちゃくちゃかっこよくて、それぞれの表情がキラキラ輝いています。
だけどなんだか少し、完璧すぎてハッピーすぎて、怖くなってくる……というところでマーゴット演じるバービーが、「死ぬことって考えたことある?」というのです。
するとみんなの動きが止まって気まずい空気が流れます。
彼女はバービーの世界にはありえない「死」について考え始めてしまって、バービー人形としての完璧さが少しずつ狂い始めてしまったということらしく、その歪みを直すため、持ち主のいる人間界へ行くというまさかの展開へ……。

そこでバービーが人間(おもに男性たち)から向けられる視線、かけられる言葉。
しかもバービーを作っている会社の社員も重役も全員男性(!)
そして持ち主だった少女サーシャから浴びせられる衝撃の言葉。
「あなたのせいで女は苦労して、嫌われてきた。なれっこないその体型を理想化して、フェミニズムを50年遅らせた。(略)ファシストだ!」
とまで言われてしまいます。これには、そう来るか……と思い悲しくなってしまいました……。
女性に対する世間の軽さ、地位のなさと、サーシャの言葉に大きな悲しみに暮れるバービー。
マーゴット・ロビーの涙はいつも、すごく印象に残るなー。

そんなバービーとは逆に、バービーランドでは彼女たちのおまけとしてただハンサムなだけのケンは男性優位の人間界に感動をおぼえます(そしてなぜか馬も同じくらい偉いと思い込むところがかわいい)。
「男である」というだけで偉い、なんにでもなれると思い込んだ彼は、バービーランドに帰ってその考えを広めてしまうのです。
でもなんかライアン・ゴズリングのキュートさで、嫌な感じはあまりしなかったなぁ。
典型的で、古典的なアメリカのマッチョな男性像が、ユーモアというかけっこう皮肉って描かれていて笑えました。攻めてるなぁ。
上裸にミンクのロングコート、大きなハマー、アメリカンロックに絵柄の入ったギター、浜辺で焚き火して歌う歌……。
アメリカの人もこういうのが「ザ・男!!」なんだなと思いおもしろかったー。
もちろんけなしてるのではなく、楽しさと愛はあるのだけど。

そしてケンに支配されそうになっているバービーランドを救うため、サーシャとその母親グロリアとバービーは立ち上がるのですが、やる気をなくしたバービーにかけるグロリアの言葉にすべてが詰まっていたなぁ。
「女であることは苦行。美しくなければいけないけど、モテすぎはダメ。キャリアは必要だけど、傲慢なのはダメ。スレンダーな方がいいけど痩せすぎはダメ。常に感謝しなければダメ。(略)もううんざり!」 これには全ての女性がハッとするところがあったはず……。
男性にかけられる言葉でなんとなく違和感とか、嫌な気持ちになったり、性別が逆だったらありえないことだったり、「女性だから」なんとなくできないことや逆にやらなくてはいけないこと、意外と日々あるかもなぁ。
「女はこうあるべき」逆に、「男はこうあるべき」というのも染みついていて、ある意味男女が逆転したバービーランドだからこそ、その当たり前、完璧がなくなった時にそのおかしさに気づくのかもと感じました。
きっと男性でも、「男らしさ」みたいなものに苦しめられている人も多くいるだろうな。

バービーランドでのケンの最初の扱いは人間界での女性の扱いということなのかな。
なんというか、観る人によって感じることがすごく違いそう。良いなぁ。

でも全編にわたって本当に、嫌な人とか悪い人はいなくて、とにかく笑ってました。
バービーを作っているマテル社の人たちも、ちょっと抜けててかわいい。バービーへの愛はちゃんとあるところが良いな。
そしてやっぱり、長く生きてきた女性たちの美しさと説得力はすごい。
バス停でおばあちゃんと会話するシーン、そしてバービーの生みの親であるルースとのシーンはすごく、泣けました。
(関係ないけどマトリックスオマージュ?にもちょっとテンションが上がります)
現代社会を生きてるティーンエイジャーのサーシャの気持ちもわかるし、グロリアのリアルな苦労もとても刺さったなぁ。

最後に彼女が上層部に提案する、「なんでもないバービー」これにはかなり、唸りました……。 医者や弁護士や大統領になって、地位を獲得する女性たちは確かにかっこいいけれど、肩書きやキャリアがないといけない、輝けないっていうのは女性にとって、また同じように男性にとっても苦しいし、その感じも少し前時代的なのかもとも思いました(もちろん自分の意思で好きな仕事をする人たちは当たり前にとても素敵なのだけれど)。
恋してもしなくてもいい、夢があってもなくてもいい、ありのままでいい。っていうのはとても自然だし、変化することも全て受け入れて、男性も女性もなく自分として生きていくことを肯定してくれるのはとても救われたなぁ。
最後にバービーはどうなるのか、というのは確かにとても大きくて少し苦しい問い。
ハイヒールとビルケンシュトック、最後に彼女が履いてる靴をよく見てほしいなー。

ここまでポップに、あたたかく、そして最終的にはハッピーにみんなを包み込んでこんなテーマを描いてくれているのは本当にすごいと思いました!
というか今までこんなに「ケン」に焦点が当たったことはなかっただろうなぁ。
色々あっても結局はバービーと一緒にいたい、というのもキュンときました。
ライアン・ゴズリングもっと好きになったなぁ。

色々言いましだが、とにかく音楽・ファッション・美術が最高だったのでそれだけもう嬉しい。
Lizzo、Dua Lipa、Billie Eilishなどと50年代〜現代までのバービーのコスチュームが合わさって最強。
バービーの歴史も深く掘りたくなりました。
なんだかんだで、私はアメリカのカルチャーが大好きなのでずっと楽しかったー。
もしユニバーサルスタジオにバービーランドができたら真っ先に行っちゃうなぁ。笑

作品に関わっているすべての人の愛と情熱がビシビシ感じられて、それがあるからこそここまでみんなをハッピーにできるんだろうなという感じ。
自分と性別や年代が違う人にも感想を聞いてみたいな。
みんなに観てほしいし、語り合いたい作品でした。めちゃくちゃ骨太で最高にかっこよかったです!

というわけでまたね。
みなさん体調にはお気をつけてー。


© 2023 DONUT



中野ミホ「Breath」インタビューを掲載

LIVE INFORMATION

中野ミホ(弾き語り)ワンマンライブ
2023年9月30日(土)神田POLARIS

■ ライブ、イベントの最新情報は公式サイトをご確認ください。
https://nakanomiho.tumblr.com

INFORMATION


配信シングル「TAPES」
2023年3月29日(水)リリース
収録曲:01.国境/02.Turn



1stEP『Breath』
2022年8月17日(水)リリース
収録曲:01.My friend/02.不思議なぼくら/03.電源/04.Good morning to you/05.ハウ・アー・ユー/06.Mabataki
販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/

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