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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ


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第26回「潮風と肌、悩ましい海辺の歌。夏物語」

2022.06.07 upload

『夏物語』 (1996年:フランス)
原題:Conte d'été
監督・脚本:エリック・ロメール
キャスト:メルヴィル・プポー/アマンダ・ラングレ/オーレリア・ノラン/グウェナウェル・シモン ほか
公式サイト:https://rohmer-quatresaisons.jp
「エリック・ロメール監督特集上映 四季の物語シリーズ」
『春のソナタ』『夏物語』『恋の秋』『冬物語』
※上映館は公式サイトをご確認ください。


みなさん、こんにちは。
あっという間に6月。もうすぐ梅雨なのかな?
昼夜の気温変化に体がついていかない今日この頃です。お元気でしょうか?
さて、今月は久しぶりに旧作。
エリック・ロメール監督の特集上映をやっていたので観に行ってきました。今回観たのはこちら。

『夏物語』(『Conte d'été』)
1996年、フランスの作品。
監督はエリック・ロメール、出演はメルヴィル・プポー、アマンダ・ラングレ、オーレリア・ノラン、グウェナウェル・シモンなど。

主人公ガスパール(メルヴィル・プポー)は、恋人のレナ(オーレリア・ノラン)とバカンスを過ごすため、海辺のリゾート地ディナールへやってきます。レナは妹とスペインを旅行してから彼と合流するはずが、一向に姿を現しません。
彼女を待つ間、クレープ屋さんで働くマルゴ(アマンダ・ラングレ)と親しくなり、毎日のように二人で浜辺を散歩するように。
そのうえディスコで知り合った美女ソレーヌ(グウェナウェル・シモン)とも急激に親しくなります。
そこへレナが現れ、どの女性も捨てきれず彼は右往左往することに……。
エリック・ロメール監督による「四季の物語」シリーズの第3作、真夏のリゾート地を舞台に、日記のようにめくる恋のお話です。

いやー、面白かったなぁ。
ていうか、いいなぁこんな生活。毎日浜辺でぷらぷら、おしゃべり。
エリック・ロメール監督、もちろん名前は聞いたことがあったのですが、作品を観るのは今回が初めて。
穏やかで知的な会話とキュートな登場人物たちに、想像以上に引き込まれてとても楽しかった!
主人公ガスパールを演じるメルヴィル・プポーは、のちに『わたしはロランス』でロランスを演じていたあの人でした!(滝ほど泣いた記憶が……)

ガスパールのくるくるの髪、きれいな鼻筋、どこか子どもみたいな瞳。
数学専攻でインテリっぽくて、組織や集団が嫌い。
クラシックギターを弾きながら謎の自作の歌を作っている。
そしてなぜか一気に三人の女の子が現れ、揺れ動きまくりでどうしようもなく優柔不断。
女性から見たら終始「はぁ?」と言いたくなるような言動ばかりなのですが、これがなぜか憎めない。むしろかわいさすら感じてしまいます……。

マルゴと二人で毎日浜辺を歩きながら延々と会話するのすごく良かったな。
やっぱり、気になるひととの散歩って特別な時間ですよね。
マルゴは彼が待っている恋人リナのことを、写真見せてよ、この人とは釣り合わないわ、相思相愛じゃないのよ、私だったら他の娘を探すわ、あの娘はどう?なんていう。
彼女には遠く離れたところに住む恋人がいるのだけど、きっとガスパールのことがちょっと気になっている。
でも彼が親密な態度を取るとサッと離れる、怒ったと思ったら許しちゃう。
そんなくるくると変わる表情がとても魅力的でした。灼けた肌、ショートボブ、ミニスカート。
ボロボロのハイエースみたいなのを運転してるのも良かったなー。
(ガスパールは一度も運転しない、必ず女の子が運転してるのも笑えました)

あとはソレーヌと一緒に自作の歌を歌うシーンが最高。
初めて聞かせる自分の曲なのに、「この歌知ってる?」とか言って。
そのあと船の上でみんなで歌うのです。謎の歌なんだけどなんかくせになっちゃう。

とにかく会話が面白かったな。ガスパールは、
「僕は愛されなければ愛さないんだ。」
「集団の中にいると死にたくなるんだ、組織に属したくないんだ。」
「偶然に左右されたいんだ。」
などとロマンチックだけど自分に酔ってるというか、若いなぁって感じ。

対して女性たち三人は、彼のどっちつかずな態度にかなり辛辣な言葉でビシッと切り込んでいて最高でした。
「男ってなんてバカなの?」「あなたの自業自得よ。」「私は代役ってわけね。代役の代役かしら。」「自己否定は傲慢さの裏返しよ。」などなど。
めっちゃ言われてるじゃん……でもなんだかんだ彼は魅力的なんだろうなぁ。

それぞれのファッションもとても素敵でした!
水着の赤、シャツの淡い青、パンツの白。薄手のシャツ、ぺたんこの靴。
彼と彼女たちの肌や髪や服を見ているだけでもとても楽しかったな。
海辺の街並み、野外での食事、あぁバカンス……。

ガスパールは気難しくて孤独な自分を気取ってはいるものの、女性たちのことに真剣に悩んだりめっちゃ困ったりしていて、ほんとは寂しがり屋のナイーブ青年でなんかほんとに面白かったな。
最後の結末には笑います。でもそれでよかった。
女性たちもまぁどっちもどっちなところもあって、とにかくみんな素直だし自由でいいなぁと思いました。若いっていいね。(おばさん)

恋してるのって最高、ってマルゴが言ってたけど、本当にそうよね。
きっとあとから思い出したらすごく素敵な夏だろうな。
この映画そのものもそんな感じ。あとからなんとなく彼らの姿を思い出す。
あの歌と、潮風に少し色あせたような明るい画面の中の彼と彼女。
なんだかんだで、最後は穏やかでさわやかなとてもいい気持ち。
ダラーっと、ぼーっと、夏に観たい作品でした。

個人的に暑いの苦手なのですがちょっとだけ、早く夏こないかな、と思ったよ。
甘くて、やや苦くて、うーん、よかったなぁ。

それではまたねー!
今年の夏は暑いのかな。みなさんお元気で。

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