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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Drop's)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/2009年に北海道・札幌で結成されたDrop’sのvo&gt。Favorite→映画、喫茶店、Tom Waits、Chet Baker。
公式サイト:http://drops-official.com
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第6回「どうしようもなくても、そばにいて。ハニーボーイ。」

2020.08.17 upload

『ハニーボーイ』 (2019年/アメリカ)
原題:『Honey Boy』
監督:アルマ・ハレル
脚本:シャイア・ラブーフ
キャスト:ルーカス・ヘッジズ、ノア・ジュプ、シャイア・ラブーフほか
公式サイト:https://gaga.ne.jp/honeyboy/
—————

みなさんこんにちはー。八月、ついに来たか夏……。お元気ですか?
わたしは暑いのがとても苦手で、気力も体力もぐっと低下してしまっています……あぁ。涙
でもね、フェスも夏祭りもないけれど、今年の夏は一度きり!
健康に、おおらかに過ごしたいものですね。

さてさて。今回はあまり前情報なしにふらっと映画館へ行ってみました。
公開翌日に行ったら、満員でした!(もちろん、1席ずつ間隔を空けてですが)
みんなの期待度も高かったであろうこちらの作品をご紹介します。

『ハニーボーイ』(『Honey Boy』)
2019年、アメリカの作品。
監督は、イスラエル系アメリカ人の女性監督アルマ・ハレル。
出演はルーカス・ヘッジズ、ノア・ジュプ、そして脚本も手がけたシャイア・ラブーフ。

2005年、ハリウッドの若きスターとして活躍する22歳のオーティス(ルーカス・ヘッジズ)は、忙しさからくるストレスによってアルコールに溺れる日々を送っていました。
ある日泥酔して運転していた車が事故を起こしてしまい、更生施設へ送られます。
そこでPTSD(心的外傷後ストレス障害)の兆候があると診断された彼は、過去の思い出をノートに書き出すよう言われます。
思い出すのはおよそ10年前、父ジェームズ(シャイア・ラブーフ)との生活。
子役として仕事をしていた12歳のオーティス(ノア・ジュプ)は、前科者で無職、突然感情を爆発させてしまう不安定な父に振り回されていました。
唯一安らぎを与えてくれる隣人の少女、彼を気にかけてくれる保護観察員、でも切っても切れない父とのつながり。
少年時代と、大人になってからの二つの視点で描かれる、シャイア・ラブーフ自身の親子の物語です。

うーむ。よかった。なんていうか、一言では言い表せないこの気持ち。
それはきっとこの映画の登場人物が、一つではないいろんな気持ちを抱えてる様子がすごくリアルだったからなんじゃないかなと思いました。

冒頭から、特に説明もなく流れ込んでくる音と映像、目まぐるしさと、少しの息苦しさ。
予告編で観ていたあったかい空気とはちょっと違うぞ……!? となり引き込まれます。

子供時代のオーティス(ノア・ジュプ)は、12歳。
子役として仕事をして、そして父ジェームズの不安定な言動に振り回されていて、普通の子どもとは違う生活をしているように見えます。
でも本当は愛されたい、手をつないで、そばにいてほしいって思っている普通の男の子なんだよね。
表情が本当に魅力的だったなぁ。
潤んだ目、やわらかそうな肌とか髪とか、愛らしくて同時にとても切なかったです。

父はオーティスに優しく接してくれる保護観察員のトムにも大声で怒鳴ったり、離れて暮らす母親との電話の度にブチ切れたり、12歳の彼にとってはとてもつらかったと思う。
そして叩かれたり、タバコを投げられたり……もありました。
でもなぜか一緒にいることをやめない。逆らえなくてやめられない、という感じではなくて、どうしようもないけど、それでも一緒にいたいっていう気持ちがどちらにもあるんだなって気がした。

ジェームズは不安定で、楽しく会話したり遊んでいたと思ったら突然怒り出してしまう。
きっと彼はそんな自分が嫌で、後悔もして、努力もしようとして、でもまた苛立ってしまって……ってもがいていたんだろうなと思った。
最後の方で彼自身が、「わからないだろう、息子に養ってもらってる俺の気持ちが」と言って涙するシーンは本当に切なかったなあ。

あと、隣人の女の子“シャイ・ガール”(FKAツイッグス)とのシーンがどれもほんっとうに素敵だった! 涙
柔らかくて、優しくて、すばらしくて鳥肌立った。泣きそうなくらいのやわらかさ。
何にもない二人の、夜の中のピンク色の光、プール。
ふれて、抱きしめるひとつひとつの動作が自然な愛にあふれてた。

大人になったオーティスが導き出すラストも、とてもよかったな。
二人はバイクに乗ってるとき、どんな気持ちだったんだろう。
親であること、子どもであることは時にしんどいけど、やっぱりつながっている、そんな風に見えました。

ひとの気持ちって本当に複雑で、一つじゃなくて、誰が悪いとか、何のせいだとかそんなんじゃないんだよね。
優しいこと、弱いこと、なんだかバランス保つのが難しくて、少し見失うと崩れてしまう。
そしてだれかを傷つけてしまったりして、また後悔して、そうやってもがきながら生きてく。
でも愛があれば、きっと光は見える気がする!
きれいごとに聞こえるかもしれないけど、なんか漠然とほんとにそう思えた作品でした。

音楽もとてもよかったな、サブスクなどでサントラも聴けます!
自然とか水とか、空気を感じられるみずみずしい音楽たちでした。
そしてエンドロールで流れるボブ・ディランが優しくて、あぁ、ってなる。
ものすごいハッピーではないけれど、まだいけるよっていう、少しの光みたいな。

この何とも言えないけど不思議とあったかい気持ち、ぜひ感じてほしいです……!

まだまだ暑い日が続くと思いますが、体には気をつけてグッドな夏を!

ではまたねー。

© 2020 DONUT


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