DONUT

DONUT TOPICS from DONUT FREE vol.8

Interview

加藤ひさし×古市コータロー(THE COLLECTORS)
THE WHO “TOMMY”を語る

2017年4月1日、THE WHOは『TOMMY』の完全再現ライブをロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行った。その模様を映像化したのが『Tommy Live At The Royal Albert Hall』。一体『TOMMY』とは何か? THE WHOのフォロワーにどういう影響を与えたのか? それを探るために日本のモッズ・シーンの中心、THE COLLECTORSの加藤ひさしと古市コータローに『TOMMY』について語ってもらった。




photo by Christie Goodwin

――『トミー』との出会いは?

加藤ひさし 僕が『トミー』の存在を知るのが1969年に行われたウッドストック。その映画を深夜放送のテレビで見るんだけど。たしか中2か中3だったかな。凄く長い映画で、正直退屈だったのね。でもフーが出てきて、最初に「シー・ミー・フィール・ミー」を歌ったんだよ。その瞬間、のめり込んだね。その時に字幕で「『トミー』からの抜粋」って英語で書いてあって、『トミー』って何だろう?って。これが『トミー』との初めての出会い。『トミー』からフーをさかのぼる感じだね。

――『トミー』がザ・フーへの入口なんですね。

加藤 ところがなかなかあの当時、熊谷のド田舎じゃ『トミー』が売ってないんだよ。で、しばらくして『ザ・ストーリー・オブ・ザ・フー』っていう2枚組のレコードを買ったらC面が『トミー』からのベスト選曲だったの。「すてきな旅行」で始まって、最後は「俺達はしないよ」「シー・ミー・フィール・ミー」で終わる。その間には「ピンボールの魔術師」や「アシッド・クイーン」も入ってる。まさに「ベスト・オブ・トミー」。そこでまずノックアウトだよ。何これ!?って。ビートルズより凄いんじゃない?って。コータロー君も同じなんだよね。

古市コータロー 『トミー』は持ってるんだけど、俺もいつもこっちを聴いちゃうんだよね。

加藤 あとね、「ロックオペラ」なんて言葉がレコードの帯に付いてたから、凄く頭がいいバンドみたいに思えたんだよ(笑)。

古市 そうそうそう(笑)。

加藤 見た目はレッド・ツェッペリンのできそこないみたいなルックス。それとオペラっていう言葉のミスマッチが、また余計に魅力的でミステリアスでよかったんだよね。

古市 オペラって付いたりすると、やっぱりね……

加藤 背伸びしたアカデミックな感じがするよね。

古市 他のやつより一歩先に行ってる気になるもんね。

加藤 そしたら英国映画界の巨匠ケン・ラッセルが『トミー』を映画化するっていう話が出てきて。そこにはエリック・クラプトンやエルトン・ジョンも参加すると。フーって何者なんだ?っていうね。『トミー』のストーリーは目も耳も口も不自由な少年がピンボールの世界チャンピオンになって、いろんな病を抱えた連中がそんなことがやれるトミーこそ神じゃないかと過信する。で、自分の病も治してくれんじゃないかと思い込み、トミーのホリーデーキャンプにやってくる。でも、結局トミーは何も出来なくて。「何だよ、こいつ、偽教祖か」って感じで裏切られていくんだけど、その着眼点が面白いよね。だけど、「シー・ミー・フィール・ミー・タッチ・ミー・ヒール・ミー(見て感じて触って癒やして)」というのは実は多感な頃の若者の気持ちを表しているというか。例えば、何で若い連中が暴れるかっていうと、やっぱり自分のことを見て欲しいし、わかって欲しいんだよね。だから実は『トミー』って『マイ・ジェネレイション』とさほど遠いところにはいないのかなって、今になって思う。あとね、トータル・アルバムだとか何だとか言われてるけど、なんだかんだ言っても曲の出来だと思う。

古市 そうね。

加藤 曲がいいか悪いかなんだよ。

古市 あとサウンドね。ピート・タウンゼントのギターってそんなに歪んじゃないんだけど、全体的に聴くと物凄くロックを感じるわけよ。

加藤 わかる。

古市 それ、今でも思うね。果たしてベースがああだからこうなのか、とか。俺、あんまりギターの音を物凄く歪ませることに興味がないのは、『トミー』の影響を受けてる。

加藤 『トミー』から教わってるよね。ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の方がよっぽどギターの音が歪んでるもんね。ピートのギターはほとんどナチュラルな音なんだけど、あのハードな印象はどこから来るんだろう。凄く不思議だよね。

古市 ギターを歪ませれば派手だってことではないってことを、俺、フーに学んだからね。これは本当によかった。

――そう言えば、コレクターズでもオペラ風の「ぼくを苦悩させるさまざまな怪物たちのオペラ」をやっています。

加藤 あれはフーのセカンド・アルバム『ア・クイック・ワン』の中に、『トミー』に向けての練習のような10分程度のストーリー性のある楽曲があって、それをちょっと真似てみようかなと思って作った曲なんだよ。『トミー』のロックオペラとは同じものではない。というのは、『トミー』は俺の中でも物凄くレベルの高いアルバムなんだよ。俺は20歳ぐらいから本格的に曲を書くんだけど、その時点で、この『トミー』のようなロックオペラを書くのが、人生の中でひとつの目標になった。20歳の頃、40歳までには書こうと思ってた。その時点で20年計画なんだよね。で、俺、今、56歳だけど、まだ書けてない。そんなアルバムなの、『トミー』っていうのは。

――まだ当分かかりそうですか?

加藤 『トミー』と同じレベルの主人公が実はまだ見つかってない。だけど、その時が来たら、コータロー君に「従兄弟のケヴィン」役をやってもらうかもね。コータロー君のボーカルをフィーチャーしてね。その時のために、今もステージでは1曲はコータロー君が歌っているんだよ。

古市 あれは『トミー』のための練習だから。

加藤 コータロー君のインストのパートもね。

古市 「スパークス」(『トミー』収録曲)をやってるから。

加藤 つまり、俺たちは自分たちの『トミー』のための練習をすでに30年やってるんだよ。

――フーにとって『トミー』とはどういう位置付けだったんですかね。

加藤 フーはステージでドラムもギターもぶっ壊してた。それだけで凄い出費だったらしい。もし『トミー』の世界的な成功がなかったらフーは経済的に自滅してたっていう話だね。あと、当時、バンドもゴタゴタしてて。ソングライターはピート・タウンゼントなのに、ロジャー・ダルトリーがあまりにも親分風を吹かせるもんだから、辞めてもらおうと思ってたらしい。ロジャーは喧嘩がめっぽう強いヤクザのような男だから。ところが、75年に『トミー』の映画でケン・ラッセルがロジャー・ダルトリーを主演に選んだことで、『トミー』=ロジャーになっちゃった。当時はフー=『トミー』だから、ロジャーを外せなくなった。だから『トミー』がなかったら、ロジャーは追い出されていたかもしれないね。そもそも『トミー』のヒットがなかったら、フーはいなかったかもしれない。だから『トミー』はフーにとっては絶対的なモノなんだよ。89年にフーが再結成するんだけど、その再結成ライブの狼煙も『トミー』だったからね。

古市 そうだったね。

加藤 『トミー』でリスタートなんだよ。それを見て、また余計、俺たちも盛り上がっちゃったんだけど。

古市 盛り上がったよね。

加藤 96年に『四重人格』(『トミー』の次のロックオペラ)のライブをロンドンに見に行ったんだけど、ピート・タウンゼントが『トミー』をブロードウェイで舞台化していて、それがロンドンにやってきた年だったんだよ。それで『トミー』の舞台をロンドンで見たら、これが素晴らしくてね。今までいろんなタイプの舞台をロンドンで見たけど、こんなに面白い舞台があったんだって思うぐらい、びっくりした。その舞台の上で映し出されたコラージュ映像をずっと覚えてて、コレクターズの日本武道館公演の冒頭で使ったの。

――『トミー』からいろいろ繋がっていきますね。

加藤 そうなんだよ。俺たちがやったことは『トミー』に比べたら、まだ本当に小さなことだけどね。90年には日清パワーステーションで「西暦2065年のオペラ」っていうのもやった。自分たちが作った歌の中に出てくる「プリズナー345号」を主人公に、2065年を舞台にしてね。それが面白かったんだよ。その時は、それまでリリースした曲を繋ぎ合わせてやったんだけど、最初からオリジナルのストーリーで作りたいなって、その時にも思って。さらにロックオペラへの憧れが、『トミー』への憧れが強くなった。

――その『トミー』を今もフーはステージでやっているんですよね。このDVDにはその完全再現が収録されています。

加藤 ポール・マッカートニーがステージで『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を頭から全部やろうって言い出さないもんね。

古市 たしかに。

――それを考えると、凄いですよね。ここ数年のライブもDVDで見ると、かっこいいですよね。

加藤 この歳になってもライブでは客に「ファックして早く寝ろ」とかさ、ステージの上から言うんだよ。「いい歳こいてモッズとか言ってんな」とか。日本のロック・バンドでそんなこと言うやついないじゃん。それで「アイ・キャント・エクスプレイン」が始まるんだから。それがなんか、生粋のロンドン子って感じがするの、俺は。ちょっと客を舐めたところがあるっていうか。サービス精神が全くないっていうか。そういうところが励みになる。これが「粋」ってやつなんだな、と。だから自分たちも歳をとっていく中で、ロック・バンドとしての、この粋さは真似していきたいな、と。

――今でも参考になる面が多いんですね。

加藤 コータロー君なんか、もう完全にフーの影響を受けてて、野音でいきなりかますわけですよ(笑)。

古市 「お前ら、誰、見に来たんだ?」(笑)。

加藤 「誰、見に来たんだ?」って言われても、ワンマンでしょ?みたいな(笑)。「あ、この人、フーのハイド・パークのライブDVDを見ちゃったな〜」みたいな(笑)。

古市 もちろん買いましたよ。いや、だからさ、なんか、東京ドームでやる外タレみたいな、ああいうMCはちょっと恥ずかしくてできないっていうかね。

加藤 「カンパイ」とか「スシ」とか言わないよね、絶対。

古市 そういうところが共感できるよね。だから、何て言うの、がっついてないんだよね。何か取りに行こうって、ないわけよ。

加藤 嘘くさい褒め言葉もないしね。感謝はしてるんだろうけど、そういうクールなところがフーってかっこいいなって、いつも思う。

古市 たぶん、ピートにライブの度に心からお礼とか言われたら、ファンも冷めると思うんだよね。

加藤 「ライブが終わったら、ファックして寝ろ」だから。

古市 あと、今のロジャーなんて特にかっこいいね。あのサングラスの色のチョイスとか、相当なもんだよ。

加藤 かっこいい。

古市 今、ピークとさえ言えるよね。昔もかっこよかったんだけど、今は別のかっこよさがある。

加藤 この国にはこのかっこよさが一生わかんないやつがいっぱいいる。そいつらはこのかっこよさを知らずして死んでいくんだよ? 残念な人生だと思うよ。あとね、コレクターズの武道館公演の最後の曲が自分たちの曲じゃなくて(カバー曲)「ヒート・ウェーブ」だった。こういうところもフーから学んだよね。

古市 そうね。あれはフーを聴いていたからこそだよね。

加藤 この粋さやかっこよさをわかってくれないと。それをやるのに30年かかっちゃったけど、なんとかしてこの『トミー』の素晴らしさを、今は言葉でしかみんなに伝えられないけど、いずれコレクターズが同質のロックオペラを発表して、ロックオペラ・ブームがやってくるように、目標を持ってやっていきたいね。

(取材:秋元美乃/森内淳)

>>この記事はDONUT編集部が編集しているフリーペーパーDONUT FREEからの転載です。配布場所はこちらをご覧ください。DONUT FREE



THE COLLECTORS(ザ・コレクターズ):1986年初頭、加藤ひさし(vo)と古市コータロー(gt)が中心となって結成。翌87年11月にアルバム『僕はコレクター』でメジャーデビュー。2017年3月1日、バンド結成30周年とメジャーデビュー30周年を記念し、日本武道館で初めて単独公演を行い、大成功に終わらせる。現メンバーは、加藤ひさし(vo)古市コータロー(gt)山森“JEFF”正之(ba)古沢“cozi”岳之。

THE WHO TOMMY LIVE AT THE ROYAL ALBERT HALL

1 イントロダクション 2 序曲 3 イッツ・ア・ボーイ 4 1921 5 すてきな旅行 6 スパークス 7 光を与えて 8 クリスマス 9 従兄弟のケヴィン 10 アシッド・クイーン 11 大丈夫かい 12 フィドル・アバウト 13 ピンボールの魔術師 14 ドクター 15 ミラー・ボーイ 16 トミー、聞こえるかい 17 鏡をこわせ 18 アンダーチュア 19 僕は自由だ 20 奇跡の治療 21 センセイション 22 サリー・シンプソン 23 歓迎 24 トミーズ・ホリデイ・キャンプ 25 俺達はしないよ 〈アンコール〉 26 アイ・キャント・エクスプレイン 27 ジョイン・トゥゲザー 28 恋のマジック・アイ 29 フー・アー・ユー 30 愛の支配 31 ババ・オライリィ 32 無法の世界 / 【DVD+2CD】(日本のみ) 【Blu-ray+2CD】(日本のみ) 【2CD】の3形態でリリース

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