DONUT

ザ・クロマニヨンズ インタビュー
レコーディングをやってる最中のスタジオに流れてた空気に一切のよどみはなかった
――甲本ヒロト

ザ・クロマニヨンズのニューアルバム『レインボーサンダー』は最初から最後まで躍動感と生命感を宿した楽曲が鳴り響く。1曲ずつの歌詞とサウンドを検証していけば、このアルバムの躍動感の正体がわかるのかもしれないが、何も考えずにアルバム全体が放つ明るさと逞しさをただただ楽しみたい気分になる作品でもある。リスナーが求めるクロマニヨンズ像というのはまさにこんな感じではないだろうか。『レインボーサンダー』というタイトルもいい。レインボーとサンダー。虹と雷。子供でもわかるような単語の羅列。レインボー&サンダーと「&」をつけると、そこに意味が出てくるが、レインボーとサンダーの羅列には意味がない。意味がないからこそ、リスナーの想像力によって無限の意味を見いだせる。『レインボーサンダー』は尽きることのない想像力の奥底へ誘ってくれる。リスナーがこの作品にどういう意味付けをしようと、全部が「正解」。そういう懐の深さをも持つ作品だ。DONUT FREEの完全版インタビューをここに掲載。

―― 毎年、コンスタントに作品を出していますが、毎年1枚はリリースしようっていう決めごとみたいなものはあるんですか?

真島昌利 そんな決めごとはないんだよ、別に。ただ、他にやることがないから(笑)。

甲本ヒロト ほっとけば、1年に2枚とか出ちゃうよ。

―― え、そうなんですか?

甲本 そりゃあ、出ちゃうよ。でも、そんなことしたら、みんなお小遣いがないだろう。それから1年に1枚だと俺たちだってツアーがちょうどいい感じにできる。そういうスパンがあるわけですよ。夏はイベントをやろうよ、とかさ。変なときに、ぽんぽんアルバムを出してたらわかりにくいんだよ。そこはちゃんと社会との迎合もしていかないと駄目なんだよ。俺たち、芸術家じゃないんだから。ちゃんとポップ作品を作ってちゃんと商売をやる人たちだからさ、そこは。そういう面もあるよ。

―― 前回のツアーが春に終わって、すぐにレコーディングして、夏のイベントの前には完成して、秋にリリースしてツアーというパターンですよね。

真島 いい感じだね。

甲本 フェスに出ている時期さ、ノーテンキだもん。楽しく演奏するだけ。そこになんか「次のアルバムのことも考えなきゃ」とかいうことが平行してあるわけじゃない。マスタリングまで全部終わって、ジャケットのデザインも上がって。11月から始まるツアーの内容もこれによって見えてくる。それによってTシャツのデザインも決まってくるわけで。次も楽しくやれるって保証された上で、夏は馬鹿みたいに演奏するだけっていうさ。このノーテンキな、本当のただのバンドマンという感じが夏のイベントのステージにはあって、それはそれで楽しいんだよ。

―― 夏のイベントでは新曲をやらなくてもいいですし。

真島 そうそう。

甲本 ただの演奏馬鹿になってりゃいい。

―― 今作が完成したときの手応えはどうでしたか?

甲本 できあがった瞬間が、そりゃ最高だよ。「いいのができたー!」って毎回、毎回思うよ。そこからはこう、あんまり聴くと粗も見えるし、だんだんと聴かなくなる。

真島 聴かないよね。だんだん記憶が薄れて行く(笑)。

甲本 だって普段、聴くものがいっぱいあるもん。それこそ、ブルースを聴かなきゃいけないし。

真島 録音して、TDやって、マスタリングやって、「いぇーい!」みたいな感じで。そこからは一応テストプレス盤みたいなのをもらうから通して聴いてみて、「バッチリだ!」って。それ以降はあんまり聴かないよ。

甲本 ライブのリハーサルの前は聴くね。だってコピーしなきゃなんないもん。

真島 うん。もう忘れてるからさ、何をやったのか。

甲本 あのね、クロマニヨンズは作業が速いから、曲が身体に入る前にもうできあがっちゃうの。普通はさ、何ヶ月も練習してりゃ身体に入り込んでるじゃん、曲が。で、「よし、録音しよう!」ってなるじゃん。我々はスタジオにやって来ました、曲を聴きました、「あ、こんな感じ? じゃ録っちゃおう!」みたいな感じでやるから、みんな曲を覚えてないんだよね。作った本人も。僕も歌詞を忘れてるもん、自分の曲の。歌い込んでないから。テイクも2〜3回やってOKになっちゃうし。だからこのアルバムを聴いて、これから(ツアーのために)コピーする。

―― 瞬間をレコーディングするって感じなんですね。

甲本 それがいいんだよ。なんかね、音楽的な高見を目指す気は最初からないわけで。そのとき、その日が楽しければいいわけで。

真島 だけどレコーディングの前のリハはそれなりにやってるよね。

甲本 他人から見たら少ないんだろうね、たぶん。

真島 あ、そうなのか(笑)。

甲本 アレンジとか、そんなにしないもん。普通のレコーディングの基準がどこにあるかわかんないけど、僕らは僕らなりに頑張ってる。「そろそろ帰ってもいいんじゃねぇかな?」って頃に、ちゃんと帰ってる。「もういいよね?」っていうところで。「よくやったよ、俺たち」って、毎日思ってるよ。その思う時間が、だいたいまだ明るいんだよね(笑)。

――「恋のハイパーメタモルフォーゼ」の合唱のところとか、ああいうアイディアもその場で出てくるんですか?

甲本 4人で一発撮りするじゃん。そのときは「ギター弾きます」「ベース弾きます」「ドラム叩きます」「歌うたいます」って4人でバンって音を出して、そこに「じゃマーシー、ギターソロを入れてよ」って、「じゃ勝治がタンバリンを叩きます」ってやって行くと楽しくなってくる。そうすると「みんなで歌おう!」なんて時間があるんだよね。めっちゃくちゃ楽しいんだよ。1個のマイクの前で、みんなが肩を組むように寄り添って、同じ歌詞を同じメロディでワーって歌うことのバカバカしい楽しさ。男の世界。今までそういう経験がなかった我々としては、すっごい楽しいんですよ。学校で「みんなで一緒にやろう!」なんてことを全然やって来なかった我々にとっては、これがね、楽しいんだな。「お遊戯、楽しい!」っていう(笑)。そんな時間なの。だからそういうのをやってると「あれもやろう、これもやってみよう。ここにも入れてみよう」ってなる。

―― この曲に合唱がすごくハマってますよね。

甲本 うん、そうそう。ハマったね。世界観がいい。なんか面白いね、やっぱ声って独特で。他の人たちがひとつのマイクに向かってバッと出した声と、僕らが出した声は絶対に一緒にならないじゃん。やっぱりここにはクロマニヨンズの4人の声っていうのがあってね。それがなんかね、すごくいいんですよ、バカっぽくて。一生懸命やってるんだよ、やってるときは。でも録音したのを聴くと、爆笑するぐらい面白い(笑)。

真島 たしかに(笑)。

甲本 超マジでやってんだけどね、やってるときは。

―― 前作は2人とも気分的にゆったりした曲を出し合ったんですが、今回は前作とは違う躍動感のある楽曲ばかりが出揃いました。

甲本 それも偶然だったり成り行きだったり。意識はしてないよ。

真島 うん。

甲本 躍動感があるかどうかなんて、よくわかってないし。

真島 僕らが一番、判断材料とするのは、曲調というよりも「せーの」で録音するときに勢いがあったかどうか。バンド全体がガーンと来てるかどうかなんだ。そこで多少、間違えてたとしても、あんまり気にしない。間違えた本人が気にして、もう1回やろうっていうんだったら、やるけど。

甲本 そうそう。いくら自分が上手く歌えてても、誰かが「あ、間違えちゃった、もう1回!」って言ったら、それはもう1回やる。それがバンド。

真島 それでバンドの勢いが録れてたら、「あ、いいじゃん」っていう。

甲本 毎回そうだよ。だから曲調とかテンポとか関係ない。全部勢い。全部ロックンロール。僕らはレコーディングが楽しかったっていうことしかない。できあがった瞬間に「あ、いいのができた!」っていう、そこで終わってる。

―― 普遍性のカタマリのような作品ができたぜ、という感想はないんですか?

甲本 いやいや、それはわかんない、俺たちは。そんなことはだって、わかんないよ。

―― クロマニヨンズのど真ん中を鳴らした作品だ、とか。

真島 自分たちでクロマニヨンズのど真ん中ってわかってないからね(笑)。

甲本 それこそ前回のアルバムの話に戻ると、あのアルバムがちょっとなんか落ち着いた曲調が多いかなって思い始めたのって、録音してる途中だからね(笑)。だいぶ経ってから「あれ? 今回ちょっとテンポが緩い曲、多いね」って気づいて、そんで最終段階で、じゃシングル曲をどうしようかとかいろいろ考えた。最終段階でちょっと気づいたぐらいで。今回も何も意識してないよ。

―― 普通、気づくのでは。

甲本 気づき、ない(笑)。

真島 何も気づかない(笑)。だからといって「なんだかな」って感じのアルバムじゃないよ。それはもちろん毎回そうだけど、「最高にかっこいいものができたぜ!」って思ってる。

―― この作品は最高ですよ。

甲本 よかった。報われるよ。そういう風に言われて思うことは、レコーディング中、全く迷いはなかったね。ここどうしようかな、この曲どうしようかなっていう、なんかつまずいたことが、今回ほとんどなかったよね。

真島 うんうん。

甲本 毎回、つまずくことは少ないけど、今回とくにずどーんとできた。ま、見方によっちゃ投げやりでもあるんだけどね。

―― 投げやり?

甲本 「俺たち、これだもん」っていうさ。「こんな感じ、俺」みたいな。そういう投げやり感も、もしかしたら、ど真ん中のように受け取る人もいるかもしんない。たしかに悩んだり困ったりはしなかった。一直線な感じ。今、言われて気づいたけど、レコーディングをやってる最中のスタジオに流れてた空気に一切のよどみはなかったなと思う。

―― この作品はそういう境地に達してますよね。

甲本 吹っ切れたっていう表現が合うとしたら、それはかっこいいと思う。だけど、それはロックンロールの中にはいつもあることだからね。いつだってロックンロールのレコードを聴けば、その吹っ切れた感じが僕らに襲いかかってくる。自分も「わぁ!」ってそんな気分になっちゃったりしてね。それは年中つきまとってるよ。

―― その投げやり感は「やりたくないことはやりたくない。やりたいことだけやってればいい」というようなところにも共通するんですかね?

甲本 だから傲慢になってんだと思うよ、ある種。昔からじじいは頑固っていうけど、そういうことじゃないかな。「そんなものはいらん!」とか「これがええんじゃ!」みたいな。

―― とくに年を取ってくると自分の中で白黒がはっきりしますからね。

真島 いるものといらないものがね。

甲本 純粋になって行く。

―― このアルバムは吹っ切れているように思います。

甲本 頑固なじじい(笑)。

―― 頑固なじじいというよりもロックンロールに対するピュアさというか。

甲本 それは無知とは違うからね。なんかあるんだろな。そういえば、今回、ファンクものをやってないんだよな。全曲エイトビートなんだよな。16ビートとか入って来ないね、今回。

真島 うん。

甲本 そういうのも後で気づくんだけど。「あ、やってねぇ」って後で思う。俺、わりと好きで入れたがっていたんだけど、今回はそういう曲を持って来てないなって。

――『レインボーサンダー』というタイトルは、歌詞のなかに出てくる虹と雷を組み合わせたんですか?

甲本 後から出てくるなって思ったんだけど、タイトルを決めたときにはそんなことは考えてなかったよ。タイトルはなんでもよかった。

真島 もうそろそろタイトル決めてもらわないと困りますよってレコード会社に言われて「あ、そうですか」って言って、無理矢理、ひねり出したの。

甲本 「サンダーボルト」っていう曲も入ってるよな。で、なんか「虹」っていう歌詞も出てくるから、「じゃいいんじゃない?」って、後で思った。だってこのタイトルが決まったとき、これから取材を受けるにあたり、「レインボーサンダーって言葉に出して言うのが恥ずかしいな」って思ってたんだよ。

―― そうなんですか?

甲本 なんか、小学生が考えたみたいな名前じゃない?

―― そこがいいと思います。第一、そういうのが大好きじゃないですか。

甲本 大好きなんだけど、ここまで行ききってるんだよ、このタイトル。

―― ピンクレディーに匹敵する破壊力があります。

甲本 そうそう(笑)。ピンクレディーみたいなもんなんだけど、行ききっちゃった。レインボーサンダーってまったく意味のない、おかしな、でたらめな英語じゃないか。小学生が考えるみたいな。で、その行ききったところに、なんかちょっと恥ずかしくなっちゃった(笑)。

―― だからいいと思います。この行ききった感じがアルバムを表しています。

甲本 そうか(笑)。

真島 おお。

甲本 じゃよかった。

―― 逆にアルバムに対する手応えがこのタイトルを呼んだのだと思ってました。

甲本 なるほど。

―― クロマニヨンズがこの境地に達したときは、いつもすごいものが出てくる。だから今回はすごいぞって思って聴いたらすごかった。

真島 おお、素晴らしい。

甲本 まあ、このタイトルはね、4人でいて、僕とマーシーはあんまり中心じゃなかったね、タイトルが決まる瞬間はね。

―― 小林(勝)さんと桐田(勝治)さんもそれを感じ取ったんじゃないんですかね?

甲本 あ、そうか。いいじゃんとは言ったよ。

―― 2人のアルバムに対する評価はどうなんですか?

甲本 そんな話はしない。俺たち、音楽の話はしないもん。

真島 だけど、そのタイトルが出たときはたしかに爆笑したね。「爆笑できるからいいんじゃない?」と思った。

甲本 そうだね。こんだけ笑えるんなら、いいじゃないかっていう(笑)。またジャケットがいいんですよ。

―― 和な感じでいいですよね。

甲本 グローバルに行けそうでしょ?

真島 外国人とかが好きそうな感じだよね(笑)。

甲本 お土産で買ってくんないかな(笑)。

真島 浅草で売ろう(笑)。

甲本 みんな買って欲しいな。

―― ぜひ聴いてほしいですね。

真島 聴いてほしいね。

甲本 でっかい音で聴いてほしいな。

―― 超かっこいいですよ。

甲本 そうか。よかった。

――「GIGS(宇宙で一番スゲエ夜)」という曲を、このキャリアで収録する感じもすごくいいと思いました。ステージに向かうときの気分って持続してるんですね。

真島 そりゃそうだよ。ステージに出て行くときはさ、もう「よっしゃー! ぶちかますぜ!」みたいな気合いで出て行かないとさ、失礼じゃん、見に来てる人に。なんか申し訳なさそうに出てってさ、「僕たちこんなんなんですけど、気に入ったら聴いてください」っていうよりも「関係ねーよ」って出て行ってさ、「君たちが僕たちのこと気に入ろうが気に入るまいが僕たちはこれをやるんだ、ロックンロールだ、バーン!」みたいなさ、その感じはもう当然のこととして毎回あるよ、ステージに出て行く前には。

―― そういう気分を曲にしたくなった理由はありますか?

真島 いやあ、なんだろね。なんかあったのかな。いや、とくにないと思うけど。あ、でもジャムスタ(新宿JAM)が去年いっぱいでなくなったとか、そういうことが遠回しに影響してるかもしれないよ。

甲本 思えば、渋谷の屋根裏もなきゃ、(小滝橋通りの)新宿ロフトもないわけで。

真島 そうそう。

―― ツアーは今年も50本超えです。

甲本 クロマニヨンズは、やればやるほどタフになってるよ。うん。ツアーのスケジュールも遠慮なく組んでもらってるし。体調もツアーが終わる頃の方が調子いい。いつだって最高のライブをやってるつもりだけど体調に関して言えばね。ツアーの終わり頃に「まだ行ける」って思う。

―― 50本もツアーをやっても疲れないんですか?

甲本 疲れないよ。そんな疲れをためてライブをやるなんてあり得ないよ。毎回ベストコンディションですよ。お客さんに失礼だよ、それこそ。やればやるほど、元気になる。

真島 かえってライブは、やってた方がいいね。

甲本 普段、何にもしないからね。今が一番ダメな時期。今朝も歯医者とか行って凹んでんだよ(笑)。

―― ポール・マッカートニーのようにずっとロックンロールのステージをやって行きたいなとか考えますか?

甲本 将来はあんまり考えない。ライブをやらないことも考えない。何も考えない(笑)。いつまでバンドをやろうとか考えない。いつまでやって、ここでやめるなんて、そんなのおかしいよ。元々自由なことをやらしてもらってんだから。みんなが週末にやることを毎日やってるわけじゃん。これ、隠居だよね。隠居生活に引退はないんですよ。

―― では、最後にツアーに向けて一言ずつください。

甲本 Tシャツ買ってください。

―― Tシャツはこのジャケットのデザインなんですか?

甲本 全部は言わない。

―― 今回は『レインボーサンダー』っていうだけで購買意欲がわきますけどね。

真島 やった。

甲本 よし。

―― じゃ真島さん、最後に締めてください。

真島 いや……あの、まあ、あれですよ。またツアーやるんで、みなさんの近くに来たときには是非ね、足をお運びください。

―― ……めちゃくちゃ普通の締めなんですけど(笑)。

真島 普通に……(笑)。

―― これ、あまりにも型通りの締めなんですけど、これでいいんですかね?

真島 はい(笑)。

―― ありがとうございました(笑)。

(取材・文/森内淳・秋元美乃)
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<STAFF> WEB DONUT 4/2018年11月1日発行/発行・編集・WEB制作=DONUT(秋元美乃/森内淳)/カバーデザイン=山﨑将弘/タイトル=三浦巌/編集協力=芳山香

INFORMATION



ザ・クロマニヨンズ『レインボーサンダー』
2018年10月10日Release
¥2,913+税
収録曲: 1. おやつ 2. 生きる 3. 人間ランド 4. ミシシッピ 5. ファズトーン 6. サンダーボルト 7. 恋のハイパーメタモルフォーゼ 8. 荒海の男 9. 東京フリーザー 10. モノレール 11. 三年寝た 12. GIGS(宇宙で一番スゲエ夜)

LIVE INFORMATION >> http://www.cro-magnons.net/live/

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