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photo by 青木カズロー

2021.10.12 upload

KTYM インタビュー
最初は超暗くしてやろうと思ってたんです。救いも何もねー、みたいな。そのつもりで作ってたはずなのに、最終的にはけっこう明るくなったという
――カタヤマヒロキ

2018年に無期限活動休止となったDroogのボーカリスト、カタヤマヒロキが2021年、ソロプロジェクトを始動した。自身の名前から「KTYM(ケイティーワイエム)」と名付けたこのプロジェクトはどのように生まれたのだろうか。そもそも、Droog以降もDudes、Lüstzöe、地獄ヘルズなどバンドでボーカルを務めてきたカタヤマが、ソロに向かったきっかけは何かあったのだろうか。そしてもうひとつ、この名前に込められた「KTYM=Know Thyself Your Madness(ノウザイセルフユアマッドネス)/汝自身を知れ 己の狂気を」とは? トラックメーカーにness、レコーディングのサポートメンバーに伊藤コウスケ、金川卓矢を迎えた1stミニアルバム『Know Thyself Your Madness』は、これまで彼の軸となっていたパンク/ロックンロールのサウンドに加え、ヒップホップやエレクトロ、サイケデリック、グランジなど、さまざまな音楽要素が合わさり幾度となく解体・構築を繰り返した結果、より色濃い“カタヤマヒロキ”が浮かび上がる作品となっている。その片鱗を手がかりに、KTYMのはじまりを彼に訊いた。

●取材・文=秋元美乃/森内淳

―― カタヤマヒロキがソロプロジェクトを始動すると聞いて、はじめは驚きました。カタヤマさんのなかで、ソロプロジェクトというのはどういうイメージがありましたか?

カタヤマヒロキ やっぱり僕はバンドが好きで、以前はソロというのは考えてなかったんです。でも去年いろいろあって、ソロを始めてみようかなという心境になったんですよね。実際やってみると、自分の中ではバンドとソロ、違いはないなと今は思ってます。

―― カタヤマさんはDroogからはじまり地獄ヘルズ、LüstZöe、Dudesと、やはりバンドという形にこだわってバンドを求め続けてきたのかなと思っていたので、そのあたりの心境の変化が気になっていました。

カタヤマ 心境は、去年一年で変わったというのが大きいですね。やっぱりバンドって足並みを揃えなきゃいけないじゃないですか。で、阿吽の呼吸であったり暗黙の了解で進んでいくことがたくさんあると思うんです。でもその分、誰かが不満を感じ始めたりすると、そういうのもすぐ音に出るんです。僕のスタンスとしてはずっと動きたい。とにかく動いていたい。でも去年それが雰囲気的に難しくなってしまって。そういうことがあって(ソロを)始めたというのが一番の理由ですかね。

―― じゃあ、何か想定するものがあったというよりも、コロナ禍で動きづらい現状の中でも、自分なりに歩みを止めたくなくて、動いていた結果がソロプロジェクトにつながったというイメージ?

カタヤマ 自分のやりたいことをいろいろリストアップしてるんですけど、その中に漠然と「ソロ」というのも出てきて。思いつくことを潰していく作業をやっていった結果、という感じです。

―― ソロというのも念頭にはあったんですね。

カタヤマ いつかはやるだろうな、とは思っていました。

―― 具体的に動き始めたのは?

カタヤマ 今年のはじめくらいですかね? なかなか動けない状況のなか「動きたい、動きたい」という思いがあって、「じゃあそろそろ、ソロかな」という。今回、トラックメーカーの人がいるんですけど。

―― そうなんですか?

カタヤマ はい。やりたい音楽というのが、トラックがあってビートがあって、そこに歌を乗せるというイメージなんですけど、そのトラックメーカーの人に依頼したのが今年の2月くらいです。

―― なるほど。サウンド的にはインダストリアルな感触もありつつ、カタヤマさんを取り巻く多様な音楽がごちゃまぜになって解体・構築、解体・構築を繰り返して生まれたものかと思っていました。こういうトラック、ビートの方向に向かうきっかけはあったんでしょうか?

カタヤマ 今回、こんな感じの曲にしたいというイメージは最初にあって、結果的に解体構築、破壊と創造でけっこう変わっちゃったんですよ。いい意味で。最初はトラックがありきの曲にしたかったんです。それこそ同時期にリル・ピープとかラップをすごく聴いていたんですね。

―― そういえばカタヤマさんはすごく早い段階からビリー・アイリッシュのカバーをしていたり、気になるサウンドをキャッチするアンテナの幅は広いですよね。

カタヤマ いろいろ好きですね。でもやっぱり自分の核にあるものはロックンロールであったりパンクであったり、そういう軸は変わらないですけどね。

―― はい。作りながら変わっていったという今回の楽曲は、手応えはいかがですか?

カタヤマ 手応えはあります。やっぱり自分の芯は出ちゃうな、と。作りながら曲が変わっていくなかで、結果、パンク色やロックンロール色がより濃く出たなと思うので。サポートミュージシャンのみんなが実際に楽器を入れてくれて、そういう要素も増えていったというのもありますね。

―― それはすごく感じますね。はじめ一聴するとこれまでの音楽とは変わったように思うんですが、聴き進めていくと、カタヤマさんのコアな部分が浮き彫りになってくるという。で、タイトルに『Know Thyself Your Madness』(=汝自身を知れ 己の狂気を)とあるように、“汝自身を知る”というところに向かっていったように聴こえました。

カタヤマ ありがとうございます。そう思ってもらえたなら本望です。

―― 「汝自身を知れ」というのは他の人を知る、認めるという意味にも繋がるようにも思えるし、例えば5曲目「没落」で歌われる<Don’t close your eyes>というフレーズとも呼応しているようだなと、勝手ながら思って聴きました。

カタヤマ そうですね。やっぱり今回は自分を見つめ直すというテーマがあって、去年はそういう時間が多かったじゃないですか。個々で動く、みたいな。だから人との繋がりとか距離感とか、無意識に歌詞にも出たのかもしれない。

―― この「Know Thyself Your Madness」というテーマはどこからきたんですか?

カタヤマ ソロをやるにあたってカタヤマヒロキという名義でもよかったんですけど、何か記号っぽくしたいというのがあって。曲とかもそうなんですけど、全体的に記号感みたいなものを出したかった。だから◯とか×とかでもよかったんです。△でも□でも。で、何かないかなと思って、カタヤマの頭文字をとってKTYMにして。さらにそこに意味をつけたいなと思い、「Know Thyself Your Madness」に決めました。ギリシャのことわざなんですよね。これは自分に問いかけてるものです。

―― 記号でもいい、という話に繋がるかもしれないけれど、今回は歌詞の感触も違うように思います。例えばこれまでのバンドではいわゆる歌モノのナンバーもありましたが、今回は語感がフィーチャーされて、言葉と音とリズムが合わさってひとつになるような作りというか。

カタヤマ 歌詞の作り方、言葉の乗せ方というのは変えましたね。ちょうどラップを聴いてたのもあって。あと去年、ラッパーだけが出るイベントに行ったんですよ。そうしたらけっこうな衝撃を受けて。これまで知らなかったこんなシーンもあるんだって。例えば、一言だけ言葉が抜けて聴こえてくるとか。

―― はい。

カタヤマ 今までは聴こえるようにっていうのを意識して歌詞を書いていたんですけど、今回は逆というか。もっと言葉遊びの面とかも考えて作りました。

―― わりと大きなチャレンジだったんじゃないですか?

カタヤマ そうですね。してみたかったことのひとつというか。あと英語を使ったりとか。

―― なるほど。ヒップホップのイベントって全然違いますもんね。面白いですよね。

カタヤマ 面白いですね。客層も全然違ったりして。

―― 全然違いますね。ビートメーカー/トラックメーカーと組もうというのは、そういうヒップホップのイベントとかにインスパイアされたところもあるんですか?

カタヤマ もともと、そういうトラックに歌を乗せるというのをやりたかったというのがまずあって。そこに、自分の好きなパンクやロックを融合させたいなと思ったんですよね。それで知り合いだったトラックメーカーに声をかけたんです。

―― ヒップホップって、トラックメーカーも一緒にチームになったりしますよね。

カタヤマ LüstZöeの時にマニピュレーターをしてくれた人がいて、ラッパーにトラックを提供していたり映像を作ったりしている人で、その人のセンスがすごく好きだったんですよね。nessくんていうんですけど、わりと毒々しいトラックを作っていて。ちょっと違うかもしれないけど、俺の好きなTHE MAD CAPSULE MARKETSの匂いも感じたのでこの人にお願いしたいなと思ったんです。

―― カタヤマさんとnessさんとのやり取りはどんな風に進んでいったんですか?

カタヤマ 「こんなことをやりたいんですけど」というのを伝えて、トラックを作ってもらいました。

―― やり取りのなかで、パンクやロックを融合させたいというのも?

カタヤマ はい、伝えました。

―― nessさんの反応はいかがでしたか?

カタヤマ 「どこまでできるかわからないけど、イメージは伝わったんでやってみます」って受けてくれて、そこに歌を乗せました。

―― あがってきたトラックに関して、カタヤマさんがまた何か注文をしたり、というのは?

カタヤマ ほとんどなかったですね。そこから軌道修正するのはこっちの仕事だなと思っていたので。

―― なるほど。この作品の中では、nessさんのトラックは?

カタヤマ トラックに関しては全部残ってます。 

―― nessさんは何曲くらい作っていたんですか?

カタヤマ 8曲くらいですね。その中からマネージャーの国広さんにも聴いてもらって今作では5曲になりました。

―― じゃあ、トラック・曲に関してはnessさんとカタヤマさんの共作という認識でいいんですかね?

カタヤマ そうですね。そのあとにドラムやベースを入れて、レコーディングでは別のエンジニアさんがいて、という作業が加わりました。

―― そこはカタヤマさんがプロデューサー的な役割なんですね?

カタヤマ そうですね、はい。

―― カタヤマさんの内省的な部分も100%出ていると思うので、nessさんとの相性もバッチリだったんですね。

カタヤマ はい。お願いしてよかったです。

―― 全体的な空気感はダークさがあったり、終焉やthe endというワードが出ながらも、隙間からこぼれてくるのは未来や希望のように感じます。歌ものの歌詞ではないながらも、カタヤマさんがこめたかったものは何かあるんでしょうか?

カタヤマ 最初は超暗くしてやろうと思ってたんです。救いも何もねー、みたいな。自分のなかにたまっていたウミみたいなものを全部出したいなと思ったんです。暗かったりドロドロしてたり。そのつもりで作ってたはずなのに、最終的にはけっこう明るくなったという。

―― 吐き出しながら作ったから、光みたいなものも入ってきたのかもしれないですね。

カタヤマ まさにそうですね。希望を出そうとか、作る前はそんな意識は全然なかったので。もうとにかくドロドロでいこうとしか考えてなかったから。

―― そうだったんですね。動きたいのに動けない状況から、だいぶ進みましたね。

カタヤマ そうですね。それに、ソロってもっと孤独なのかと思ってたんですよ。でも、ソロで動くとなったときに、一緒にやってくれるという人やサポートミュージシャンのみんな、nessくん、事務所、みんなでチームなんですよね。だからバンドの気持ちを今も感じることはできているので、ソロもバンドも変わらないなと思えてるんですよね。

―― よかったら、レコーディングのサポートメンバーを紹介してもらえますか?

カタヤマ はい。ベースが伊藤コウスケくん。もともとhotspringで地元の先輩です。伊藤くんとは「(not)a」という別バンドもやったことがあるんですけど、もう10年以上のつきあいで。伊藤くんは僕にとってはロックンロールのベーシスト。同世代でもロックンロールのベースを弾かせたらトップクラスの人だと思ってるので、そういう人をあえて今回のトラックでお願いしたくて、化学反応を期待しました。ドラムはカネタク(金川卓矢)さん。もともとTHE SLUT BANKSで叩いてた人なんですけど、僕は地獄ヘルズやLüstZöeで一緒だったので、ドラムだったらこの人しかいないなと思っていたのでお願いしました。

―― ライブもこのメンバーで?

カタヤマ ライブでは、キヨくんというギタリストに手伝ってもらってライブをしようと思ってます。

―― このサウンドがどう再現されるのか楽しみですよね。

カタヤマ 楽しみですね。

―― というか、再現できるんですかね?

カタヤマ いやー、わからないです(苦笑)。

―― ははははは。

カタヤマ いつも思いが先行しちゃうので。

―― ライブではDroogの曲も演奏するんですよね? KTYMの曲とまざると面白いかもしれないですね。世界が広がるというか。

カタヤマ そうですね。よりコントラストが出るかも。でも、新曲とDroogの曲はミックスさせないで一部・二部みたいな形にしようと思ってるんですよ。

―― そうなんですか。まざったセットリストじゃないんですか?

カタヤマ そんな器用にできますかね(笑)。

―― いや、ちょっと心配してました(笑)。

カタヤマ でもツアーが進んでいったら、そういうこともできるかもしれない。

―― そのツアーはチェルシーホテルからスタートします。

カタヤマ チェルシーホテルは自分にとって思い入れの深いライブハウスだし、Droogの最後のライブをやったのもチェルシーホテルだったので、ここから始めたいなと思いました。ツアーに関しては細かく回るので、100%燃え尽きたいなという気持ちで行きます。その燃え尽きる姿を見に来てほしいです。ライブはトラックありきのライブでひとつのショーとして作り上げようとしているので、そういうのも楽しみにしてほしいですね。ライブハウスに来づらい時代ではあるけれど、感染対策をバッチリにしてやるんで、よかったら来てください。

―― 楽しみにしています。今後のKTYMはどんな活動になっていきますか?

カタヤマ やりたいことをすぐやれる、というのがソロだと思っているので、やりたいことはどんどんやっていきたいですね。曲もデザインもステージも自分の看板でやるので、全てに関して責任は自分にあると思っているので。必ずその時の100%で、妥協せずにいきます。

© 2021 DONUT

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リリース情報



1stミニアルバム『Know Thyself Your Madness』
2021年10月13日(日)リリース
収録曲:01.Know Thyself Your Madness 02.楽天地 03.ギラギラ 04.Pink City 05.没落


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ライブ情報

「Know Thyself Your Madness TOUR」
2021年10月24日(日)渋谷CHEALSEA HOTEL
2021年11月6日(土)難波Male
2021年11月7日(日)名古屋CLUB ROCK'N'ROLL
2021年11月27日(土)福岡KIETH FLACK
2021年11月28日(日)別府COPPER RAVENS
2021年12月18日(土)仙台FLYING SON
▶︎OFFICIAL SITE
https://ktym-jpn.com

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