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2021.08.25 upload
2022.01.17 re-upload

ザ・クロマニヨンズ インタビュー

本当は全部シングルでいいと思う。クロマニヨンズのアルバムはコンセプトも何もないシングルの寄せ集めだからね
――甲本ヒロト

ザ・クロマニヨンズはシングル「ドライブ GO!」を皮切りに2022 年1 月まで6ヵ月連続でシングルをCDと7 インチ・アナログ盤でリリースした。7 インチ・アナログ盤「ドライブ GO!」の限定盤 には6 枚のシングルを収納できるボックスがついている。1 月にはCDでアルバム『SIX KICKS ROCK&ROLL』がリリースされた。インタビューにも出てくるが、そもそも「アルバム」と呼ばれ るようになったのは収録時間が短いSP盤時代にたくさんの曲をまとめて聴いてもらうために「ア ルバム」に収納したのが始まりだ。つまり『SIX KICKS ROCK&ROLL』の「アルバム」は「6 枚の7 インチ・アナログ盤を収納したボックス」なのだ。「なんでも自由にやれるのがロック」を体現 した企画だが、奇しくもクロマニヨンズにおける「理想のリリースの形」を示すことになった。

●取材・文=森内淳/秋元美乃

―― ザ・クロマニヨンズは「SIX KICKS ROCK&ROLL」と銘打って、7 インチ・アナログ盤を6ヵ月連続でリリースしました(CDも同時発売)。甲本さんは最近どういった7インチ・レコードを買っていますか?

甲本ヒロト ヘンテコなものを見つけたら買うようにはしてる。元々そういう気はあったけどね。欲しいレコードはだいたい買っちゃったっていうこともあるし。

―― 欲しいレコードがなくてもレコード屋さんには行くんですね。

甲本 それはね、楽しいの。ただレコードをこうやってパラパラめくってみたりするのがすごく楽しい。そんで、その日の気分で意外なものにピクンって惹かれて買ったりすることもあるしね。なんかそういうのが楽しい。「あれ、こんなレコードに興味があったかな?」って思いながらも、その日、どうしても聴いてみたくなって買うっていうことがあるよ。

―― ヘンテコな7インチってどんなものを買ってるんですか?

甲本 いろんな企業モノとか買ってるかな。

―― 企業モノ? CMソングってことですか?

甲本 そうじゃなくて社歌みたいなやつとか。

―― 社歌ですか? 社歌のレコードなんて売ってるんですか?

甲本 ある、ある。そういうのは地方で買うことが多いかな。「みーつーびーし、三菱♪」みたいな(笑)。あと「コマツは見つめている~♪」みたいな(笑)。

―― ははははははは。

甲本 社員が歌ってたりするんだよ。

―― 社員が歌ってる!?(笑)。

甲本 「戸籍はちゃんと知っている~♪」っていうのもよかったな。

―― 何ですか、それ?

甲本 戸籍制度100周年記念の歌(笑)。

―― 伊集院光さんのアレコードの世界ですね。

甲本 そうだね(笑)。

―― 今回リリースされたクロマニヨンズの7インチ・レコードはボックスに収納できるようになっています(7inch アナログ盤「ドライブ GO !」の完全生産限定盤には6ヵ月連続シングルをすべて収納できる特製BOXが付いている)。今まで買ったシングル・ボックスで印象に残ってる作品ってありますか?

甲本 クラッシュのシングル・ボックスを買ったことはよく覚えてる。8 枚組で4400 円だったかな。出たときすぐには買えなくて、アルバイトをしてお金をためて買いに行った。そのときにはすでにレコード屋さんにはなかったんだよ。でも廃盤にはなってないはずなんだよ。廃盤にするとプレミアが付くから廃盤にしないでって、ジョー・ストラマーがレコード会社と約束したんだ。それでレコード会社に問い合わせてみたら、やっぱり廃盤になってないっていうことがわかって。レコード屋さんに取り寄せてもらって、定価で買った。

―― ジョー・ストラマーっぽい話ですね。

甲本 シングル・ボックスの値段も、当時、ポリスのやつが6枚入って6000円くらいだった。クラッシュは8枚入って4400円。

―― クラッシュは定価の交渉もレコード会社とやってましたからね。ぼくは黄色い箱のシングル・ボックス(『Singles '77-'85』)は持ってるんですけど、それとは違うんですよね。

甲本 あれはだいぶ後に出たやつだね。あれじゃなくてポール・シムノンが箱のデザインをやったやつだよ。

―― 甲本さんが持ってるのは1979年4月にリリースされた『Singles '77-'79』ですよね。

甲本 当時、日本でクラッシュのシングルが出てないっていうことがわかって、そのボックスが出たんだよね。あと日本だと『パールハーバー'79』も出たしね。いい国だよ。

―― 『パールハーバー'79』の内容はUS盤の『白い暴動』なんですよね。

甲本 US 盤の『白い暴動』を出すときに 既発のUK 盤と重複しちゃうから、(7 イン チ・アナログ盤の)おまけを付けたり、いろ いろ工夫が必要だったんだよね。

―― US盤にはシングル曲が収録されていて、日本盤はそれに独自のスリーブを付けてリリースしました。

甲本 そうそう。最初から出てた『白い暴 動』と同じジャケットになっちゃうからね。 二重カバーにしてね。あれね、初めてクラ ッシュのレコードを買うには最適なレコー ドだと思う。

―― クロマニヨンズは必ずシングル(CD と7 インチ・アナログ盤)をリリースしてい ますよね。最近ではシングルが先行配信に 置き換わる傾向にありますが、あえてシングルというフォーマットにこだわる理由は ありますか?

甲本 本当はアルバムを出さなくても全部 シングルでいいと思うんだ。クロマニヨン ズのアルバムってずーっとコンセプトも何 もないシングルの寄せ集めだからね。

―― じゃまさに「SIX KICKS ROCK&ROLL」は理想のリリース形態なわけですね。

甲本 思いは全部シングルなんだけど、そ れをまとめて聴けるお得盤としてアルバム があってもいいと思うんだ。だから、今回、 両方出すんだけど。アルバムも、入ってる 曲の全部のシングルも出ますっていうんだ ったら、いろいろ選べるじゃない? なん かそんなんでいいのかなと思う。だから 「SIX KICKS ROCK&ROLL」は絶対に楽 しいと思うよ。とはいえ、ぼくらがやるこ とは同じなんだけどね。年間に発表する曲 の数も、レコーディングもいつもと同じペ ースだし。ただシングルを連続リリースす ることで、いつもより発売を前倒している わけだから、頑張ったのはレコード会社と いうことになるね。

―― 以前、甲本さんは「そもそもアルバムとは何か?」ということについて説明してくれましたよね。

甲本 うんうん。

―― 昔はたくさんの曲を聴いてもらいたいって思っても、回転数の関係で1枚のレコード盤には入りきれないから、レコードを何枚もパッケージして、それをアルバムと呼ぶようになった、と。

甲本 そういうこと、そういうこと。SPの時代にね。いっぺんにたくさんの曲を聴きたい人のためにそうしたんだよ。そこで例えばSP盤の6枚組だったら「12曲入りのアルバム」っていうことだよね。

―― そのパッケージの形態からアルバムという名前がついたという。

甲本 そうそう。

―― もちろんシングルに対する思いもありつつなんですが、そういった「本来の意味でのアルバム」を形として届けたいという思いも「SIX KICKS ROCK&ROLL」にはあったんでしょうか?

甲本 もちろん、それもある。アルバムの最初の形に近いと思う。

―― そういう背景を考えると、さらに面白いですね。

甲本 60 年代以降、とくにビートルズが スタジオワークを中心にやり始めた以降に、 今でいうアルバムの意味が生まれたと思う んだよ。ビートルズがやってなかったらこ うはなってなかったかもしれない。ビート ルズがいたからアルバムっていうものの意 味がどんどん出てきたと思う。それも大切 だと思うんだ。ぼくらがやってきたアルバ ムにもそういうビートルズ的なところがあ ったかもしれないしね。ただ、ぼくらがレ コーディングをしている最中にひとつのま とまったアルバムとしての考えがあるかと 言ったら、ないんだよ。全部の曲がセパレ ートなんだ。例えば、スローな曲が少ない から1 曲増やそうとか絶対ないんだよ。1 曲ずつが全部独立していて、それをたまた ま12 曲集めたのがアルバムになってきた。 今までずーっとそうだった。だから今回み たいに全部シングルでもかまわないんだよ。

―― 今回の「SIX KICKS ROCK&ROLL」は一番クロマニヨンズの気分に近いアウトプットの形なんですね。

甲本 うん。何のズレもない。だけどもち ろんこの6 枚(12 曲)をまとめてアルバム で発表することにもズレがあるとは思って ないよ。どっちも特別ではないということ だね。もしかしたらみんなにはこの「SIX KICKS ROCK&ROLL」のやり方が特別 に見えるかもしれないけど、ぼくらにとっ てはどっちも特別じゃない。

―― 「SIX KICKS ROCK&ROLL」にはサブスクリプションの時代に、サブスクリプションでは表現できないことをやる面白さもあります。

甲本 そこはいろいろあっていいんじゃな いかな。好きな人が乗っかってくれればい いと思う。あとね、シングルって2 曲だけ だから飛ばさないじゃん。もしかしたら今 は何かに取り込んでから聴くからそんなこ ともないのかもしれないけど、ぼくはシン グル盤を1枚ずつレコードプレイヤーに載 せてかける。だから「ながら聴き」は絶対 にできないよね。レコードをかけたままど こかに行くなんてできない。だからそうい うところも楽しいと思う。

―― それからモノを集める楽しさもあります。

甲本 最初は集めるつもりはなくても、6 つあるうちの2 つを持ってたら、もう1 個、 もう1 個って足していって、5 つ集まった 時点で、最後の1 個は死に物狂いで探すっ ていうね(笑)。

―― ありますね、そういう経験(笑)。

甲本 血眼になって探すという(笑)。多かれ少なかれ、みんな、そういう癖はあるんじゃないかな(笑)。

―― 逆にそれを楽しみたいという欲求もありますしね。

甲本 ある。だってあれでしょ。ときめきゃいいんでしょ?「ときめかないものは要りません」っていうじゃん。これは全部、ときめくもん(笑)。

―― 今は収集も全部デジタルになっていますから、モノを揃える醍醐味を味わってほしいですね。

甲本 デジタルで集めるのも面白いと思う よ。ただひとつ寂しいのはみんなのところ に同じものがあるということだね。それは 自分だけのものではないっていうことなん だよ。図書館に置いてある本と同じなんだ よ。でも買ったレコードってさ、自分のも のじゃないか。このシワのひとつにしても ね。レコードをかけたらどこでチリッてい ったりパチッていうかは1枚ずつ全部違う んだよ。そういう違いって人にとってはど うでもいいのかもしれないけど、どうせ集 めるんならそっちのほうが面白いんじゃな いかなと思うよね。

―― そういえば、甲本さんは前からNBAのカードとかいろんなものを集めてましたよね。

甲本 そうそう(笑)。NBAのカードは楽しかったな。マイケル・ジョーダンがラストショットを打った床がカードに入ってんだよ。

―― 何ですか、それ?

甲本 床を薄くカンナで削ったやつが入ってるんだよ。

―― マジですか?

甲本 ジョーダンがラストショットを打った写真と一緒に床をカンナで削ったやつが入ってる(笑)。

―― よく当たりましたね。

甲本 当たったんだよ(笑)。

―― それ、今でもとってあるんですか?

甲本 とってあるよ。

―― 他にもいろいろ集めてましたよね。

甲本 NBAカードでしょ、ニンジャ・タートルズはコンプリートでしょ。

―― あれはコンプリートなんですね?

甲本 あの時代のやつはね。売り出してすぐに回収になったやつもあって、それはほんの少し市場に出回ったやつを探して買ったんだよ。今は昆虫だね。やっぱり収集癖はあるんだね(笑)。

―― 収集癖ありますね(笑)。本当に収集を楽しんでいる甲本さんが6枚連続でシングルを出して、今度はリスナーがそれを収集して楽しむという。面白いですね。

甲本 うんうん。

―― この「SIX KICKS ROCK&ROLL」というタイトルは、そういう背景もあってコンセプチュアルにしたんですね。

甲本 作品にコンセプトがあるわけじゃな いんだけど、発表の仕方にコンセプトがあ るからね。いつも何もコンセプトがないの に今回はひとつだけあるから、それは盛り 込んだほうがいいんじゃないかってことに なった。そうなるよね、自然と。

―― 6 枚のシングルが出たわけですが、A 面B面の楽曲の組み合わせはどうやって考 えたんですか?

甲本 わりと適当。適当なんだけど、ぼく とマーシーの曲をA面B面交互にいこうっ ていうのはなんとなく暗黙の了解で決めて たけどね。1 枚のレコードを買うと必ずぼ くの曲とマーシーの曲が1 曲ずつ入って る。そういうふうにしようっていうのは決 めてた。どっちがA面でもB面でもいいん だけどね。出す順番で交互に入ってたら面 白いんじゃないか、と思ったんだよ。ぼく らがコントロールできないところで起こる 2 人のバランスを楽しんでもらおうと思っ た。例えば全部ぼくの曲が並んでたらさ、 つまらないじゃん。全部マーシーの曲でも、 つまらないとは言わないけど、なんか寂し いじゃない。両方の曲を1 枚のレコードで 出すことによって、みんなの中でのバラン スを楽しんでもらえれば面白いかなと思う。

―― 一気に6枚をリリースする方法もあっ たと思いますが、6ヵ月に渡ってのリリー スとなりました。

甲本 今回はなるべく長引かせたほうがい いと思った。

―― コロナ禍で楽しみが少なくなりましたからね。

甲本 毎月、何か楽しみがあった方がいい。 「お、そろそろ次のが出るかな」みたいな。 「もうひと月経ったのか?」とかね。

―― ボックスのデザインは凝ってるんですか?

甲本 すげーかっこいいよ! だって菅谷(晋一)くんだもん。

―― 普通の箱じゃないという。

甲本 箱は箱だよ。普通の箱と言えばそれまでだけど(笑)、やっぱ菅谷くんはちゃんとしてる。持ったときに「これ、持っててよかった」と思う。

―― そして2022 年の1 月19 日にアルバ ムが出ました。

甲本 それはCDでね。全部をまとめたア ルバムだね。CDのアルバムにはボーナ ス・ディスクも入ってるよ。それもけっこ う面白いぜ。

※このインタビューはDONUT 11にも掲載しています。WEBと紙との印象の違いを楽しんでください。


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INFORMATION

■ "SIX KICKS ROCK&ROLL" ALBUM

AL『SIX KICKS ROCK&ROLL』
2022年1月19日(水) リリース
収録曲:1. ドライブ GO!/ 2. 光の魔人/ 3. 千円ボウズ/ 4. 大空がある/ 5. もぐらとボンゴ/ 6. ここにある/ 7. 爆音サイレンサー/ 8. イエー! ロックンロール!!/ 9. 冬のくわがた/ 10. ナイフの時代/ 11. ごくつぶし/ 12. 縄文BABY/ 【DISC 2】 1. 冬のくわがた(小さいメガネ)/ 2. 光の魔人(夜空のビンギ)


■ "SIX KICKS ROCK&ROLL" SINGLES

SG「ドライブ GO!」
2021年8月25日(水) リリース
収録曲:ドライブ GO!/千円ボウズ


SG「光の魔人」
2021年9月29日(水) リリース
収録曲:光の魔人/ここにある


SG「大空がある」
2021年10月27日(水) リリース
収録曲:大空がある/爆音サイレンサー


SG「もぐらとボンゴ」
2021年11月24日(水) リリース
収録曲:もぐらとボンゴ/冬のくわがた


SG「縄文BABY」
2021年12月22日(水) リリース
収録曲:縄文BABY/ナイフの時代


SG「ごくつぶし」
2022年1月19日(水) リリース
収録曲:ごくつぶし/イエー! ロックンロール!!


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