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2021.08.04 upload

トライセラトップス ライブレビュー
TRICERATOPS「TOUR’21-OPEN THE GATE!-」
2021年7月1日(木)大阪 なんばHatch

●文=梶原有紀子




TRICERATOPSのデビュー曲であり初期の代表曲のひとつである「Raspberry」に、こういう歌詞がある。
「他の誰かじゃもう意味さえないのさ」
半年ぶりのツアーとなった「TOUR’21-OPEN THE GATE!-」の7月1日(木)なんばHatchでの大阪公演で、それを心底実感&痛感した。結成から25年を過ぎ、1997年7月21日のメジャーデビューから今年で24年。世界には星の数ほど多くの素晴らしいアーティストやバンドがいて、掘っても掘っても尽きることのないほどのグッドミュージックが溢れている。それでも、誰もTRICERATOPSの代わりにはなれない。彼らの音楽に取って代わることはできない。なんてかけがえのないバンドなんだろう、と。

6月11日(金)の名古屋を皮切りに東名阪を回ったTRICERATOPSの「TOUR’21-OPEN THE GATE!-」は7月10日(土)のEX THEATER ROPPONGIで最終日を迎えた。名古屋と大阪は、ライブ本編に加えて舞台裏での様子も交えた映像が後日配信され、最終日の東京はオンタイムで生配信されたのち一週間近くアーカイブが残された。会場で、また配信で東京公演を観た人はご存知だけれど、公演中にベースの林幸治の手にアクシデントがあり、途中演奏ができなくなる場面があった。ステージ袖に退いた林の回復を待ちながら、ドラムの吉田佳史(Dr)と和田唱(Vo&Gt)の2人で予定になかった曲を演奏する一幕も。TRICERATOPS史上最大の荒波をかいくぐったファイナルだった。ここでは、そのファイナルと初日の間に行われた7月1日の大阪公演を振り返りたい。

近畿地方は今年、5月半ばに梅雨入りという統計開始以来もっとも早い入梅+長梅雨。大阪は4月末からの3回目の緊急事態宣言の延長により、当初の公演日だった6月20日から7月1日に延期開催。和田もMCで、「スタッフの尽力で、当初の日程に近いスケジュールで開催できた」と感謝の想いを伝えていた。変更により会場に足を運ぶことが難しくなった人もいたと思う。ただ、1年の半分が終わり下半期の入り口である7月1日をTRICERATOPSのライブで迎えられたことに、なんとなく先行きの明るさを感じたりもした。雨雲に覆われていた空からさっと一筋、光が差したような。



ジェームス・ブラウンが小さなボリュームで鳴る場内が暗くなり、ステージに3人が登場すると、大きな拍手とともに早くも1階席も2階席もザザザッとお客さんが立ち始める。(待ってた!)という空気。オープニングの「Two Chairs」「あのねBaby」を歌い終え、「大阪~!みなさんようこそ!」と呼びかける和田のカラリとした声が、客席にアーチをかけるように広がっていく。半年前の12月に同じ会場で「THREE HORNS IS BACK 2020 “MORE”」ツアーを観た時は、現在よりもう少し感染の状況は深刻で、それもあってか、久々に集結したTRICERATOPSのライブを楽しみながらも客席には若干の緊張もあったように記憶している。でもこの日は、もっとリラックスして、もっと積極的にライブを楽しめているように見えた。

笑ったのは、「FUTURE FOLDER」を歌う前に「今の時点で一番新しいアルバムの曲を」と和田が紹介した時のこと。その言葉を受け林が(ん?)といった表情で和田のもとへ歩み寄るも、当の和田は「なんで林が今ここへ来たの?」とハテナ顔。彼らの現時点で一番新しいアルバム作品は2014年の『SONGS FOR THE STARLIGHT』。「FUTURE FOLDER」はその一作前、2010年の『MADE IN LOVE』に収録されている曲で、林はそれを指摘したかった模様。吉田もそれに気づいていたようで、「いきなり違う曲をやろうとしてるのかな?って思った(笑)」と相好を崩す。和田は自分の失言(?)を取り消しつつ「ライブでさ、『次の曲は…えっと何のアルバムに入ってるか忘れちゃったけど、聴いてください!』みたいに言う人がいるじゃない?『自分が作った曲なんだから覚えとけよ!』って思ってたけど、俺がそれになってました」と苦笑い。限りなく素に近い3人のトーク。その顛末からきっちり切り替えた「FUTURE FOLDER」、そして「GOING TO THE MOON」。「FUTURE FOLDER」のサビの「突き上げろ」でみんなが手を上げ、拳を突き上げるその一体感。「GOING TO THE MOON」のあのリフが聴こえた瞬間の、心臓が跳ねるようなワクワク感。ライブってこれだよなー!と胸が熱くなる。その熱さも心地よさも全部、ライブだからこそ得られる幸福感なんだなあと改めて。

「GOING TO THE MOON」が終わり、手元のセットリストではMCが入るタイミングでなかったにもかかわらず、唐突に「譜面が読めない」(和田、林)VS「頑張れば譜面は読める」(吉田)トークが始まり、そこから話題が老眼へと移り変わる。彼らも40代半ばと50歳。近くのものが見えにくいとか焦点がぼやけるなど年相応かつ成熟した話の内容に、四半世紀に渡るバンドの歩みが一瞬よぎる。老眼が始まりつつあるらしい吉田は、デビューの頃からずっと並走してきたであろうファン、最近になって出会ったリスナーなどさまざまな層が入り混じる客席に視線を置き、「老眼で遠くのものがよく見えるから、みなさんの顔がめちゃめちゃよく見える」と立ち上がる。和田も「そうそう、見える見える」と場内を見渡し、手を振るお客さんに手を振り返しつつ「なんでこんな話になったんだっけ(笑)」。5年前も10年前もこのMCのノリは変わらないし、過去に自分がインタビューした際の3人の会話の調子もほぼほぼこういう感じ。



「Pumpkin」「ポスターフレーム」と続いた後、「じゃ、新曲やっていいですか!」と待望の新曲お披露目タイム。今回のツアーは、2018年にリリースされた「GLITTER / MIRACLE」以来の新曲を携えたツアーであることがあらかじめアナウンスされていた。吉田・林の2人が和田の自宅に来てデモを作成しレコーディングに漕ぎ着けたという、2021年の今の3人の意気を封じ込めた約3年ぶりの新曲「マトリクスガール」。「先入観を与えたくないから」(和田)と、曲に込めた思いなどは一切口にしないまま聴かせてくれたその曲は、バンドが持つタフさ、しなやかさに芯の太いメッセージももちろん。そして何より踊れる。TRICERATOPSならではの、純度120%の突破力に満ちた曲だ。

昨年12月に行われたツアーは、ソロ活動期間を経て約3年ぶりにTRICERATOPSが大復活したことを告げるツアーだった。セットリストもTRICERATOPSといえばこれ!という曲がずらり。それに歓喜しつつ、世界が大きく揺れ動いた2020年(奇しくもTRICERATOPSには「2020」という曲がある)を生きる彼らが、今この時にどんなメッセージを込めた音楽を鳴らすのか。それが聴きたいと強く思った。そんなわけで、世界初披露となる新曲聴きたさに、ツアー初日の名古屋公演を配信で視聴した。初日のステージ、どことなくぎこちなさも見受けられたけれど、曲の持つ威力は十分に伝わっていた。それから約3週間を挟んだこの日の大阪では、まだ生での演奏回数が少ない故の初々しさもありつつ、3人がリラックスしてプレイしているように見えた。 アコースティックセットの「シラフの月」「ふたつの窓」に続いて、鍵盤が用意されビートルズのカバー「Lady Madonna」、そして「僕らの一歩」。彼らは常々コーラスがいかに重要かということをさまざまな場面で語ってきているけれど、このアコースティックパートはもちろん、激しい曲でも低音、高音を活かしたコーラスワークが本当に素晴らしい。「Fly Away」に続いて、林の太くうねるベースに吉田のドラム&雄叫びから「Hayashi&Yoshifumi Groove」へ。これまで聴いた中で間違いなく最高に熱いセッションだった。渾身という言葉を想起させる林の表情、プレイ。吉田はこの5分ほどのセッション中に何本スティックを折ったのか。

和田がステージに戻り、「ロケットに乗って」そして「Raspberry」へ。盛り上がらないわけがない。バンド最初期の曲だけにこれまで聴いてきた回数も格段に多いこの2曲は、最初のリフでガッと世界を色鮮やかに変えてしまえる曲。ライブのオープニングを飾っても、中盤でも、エンディングに聴いても、どこにあってもいい。曲はもちろん会場の雰囲気も大団円という言葉が浮かぶぐらい胸いっぱいに満ち足りるものがあって、ああこれでエンディングか…と思いきや、「今のでもう終わりそうだったでしょ?そうじゃないんですよ!」と和田がニヤリ。「マトリクスガール」とともにレコーディングされたもうひとつの新曲「THE GREAT ESCAPE」を最後に聴かせてくれた。和田曰く、この曲は、自分が自分に課しているルールや自分を縛り付けているもの、そういったものからの脱出、解放を歌っているのだと。「それぞれが今よりもいい未来に、柵の向こう側へ飛び越えられることを願って書いた」(和田)という言葉とともに最後に放たれた「THE GREAT ESCAPE」は、携帯片手に今日の重荷を両手に、そんな一節で始まる曲。今回のツアータイトルになっている「OPEN THE GATE!」のフレーズが、曲中で何度も何度も繰り返される。和田の伸びやかな声も、林と吉田のコーラスも爽快な、まさに新しい世界への扉を開いてくれるような曲。3人からのメッセージを噛み締める思いだ。



新曲で本編を締めた後、即座に巻き起こった拍手に応えて3人が再びステージへ。登場して早々に和田が、「『ロケットに乗って』の後の『Raspberry』は墓穴掘ったね!も〜、左の握力が限界だった(笑)」。この一言には吉田も「ぶっちゃけるねー!」と大笑い。あの、満ち足りた大団円が和田の左手にそんな負荷をかけていたとは!とはいえ、「何年やってもスリーピースは大変だね!奥が深すぎるよ」と楽しげ。その言葉に、数週間前にオンエアされたテレビ番組「関ジャム 完全燃SHOW」の「3ピースバンドのギターボーカル特集」(和田の持ち込み企画)を思い出したのは私だけではなかったはず。終演後、楽屋で挨拶した際に和田は「さっき、アンコールでなんであんなこと言っちゃったんだろ」と後悔している様子だったけれど、なんのなんの。大半のお客さんは和田のそういう人間味あふれるぶっちゃけっぷりを通常運転と捉えているし、一緒になって笑い楽しんでいた。

和田から林、林から吉田といった順にボーカルを回した「ハンマー」に続き、最後は「トランスフォーマー」。和田が、最後にみんなの大きな声を聴かせてください、と言った後でハッとしたように「それは皆さんの受け取り方次第だけど(笑)」と。彼の中で一瞬、制限があることさえどこかへ吹き飛んでしまうぐらい、この時間を楽しみ、ライブに没頭していたのだろう。実際に客席後方から見ていて、座席の間隔が気にならないぐらいお客さん達は飛び跳ねたり手を上げて体を揺らしたり、ステージを見上げていたり、それぞれの楽しみ方をしている。いつもより長く、いっそこのまま終わらなくてもいいと感じたアウトロに応えるように、声は出せないながらも超特大の熱量を放出しながら。「また新曲を携えて来るので、待っててください!」という約束を交わし、何度も何度も大きく手を振り最後は3人肩を組んで深々と頭を下げた。「また会いましょう!それまで元気でね!」という一言は、何気ないようでも心に沁みる。そういう時代だ。

7月7日(水)に配信リリースされた「マトリクスガール」に続き、新曲「THE GREAT ESCAPE」は8月4日(水)より配信が開始。「さらば仮想現実」という一節から始まる「マトリクスガール」では、「神にも大統領にも頼らない」という歌詞が歌われている。昨年以降のコロナ禍という現実世界で、私たちはどんな日々を生きている?朝ゴミを捨てに行く時にマスクをし忘れて焦ったり、日々の感染者数を知るたびに「大変だ」と思わず口にしていたり。それまでメールやLINEの最後には「またね」の代わりに「またお茶しに行こう」と無意識のうちに書いていたことに、それができなくなってから気づいたり。悪いことばかりじゃない。今回のTRICERATOPSのツアーを、自分は配信を含め東名阪全箇所を楽しむことができた。これは配信があったからこそで遠方に足を運ぶことができないリスナーにとっては、コロナ以降の音楽ライブ配信システムの急進は画期的であり歓迎すべきもの。これまで「その場所、会場によってライブのノリが違う」という発言を何度も見聞きしてきたけれど、今回のTRICERATOPSの名古屋、大阪、東京それぞれの場所のお客さんのノリや会場の雰囲気を画面越しにも感じることができた。しかもアーカイブが残っている間は何度もライブを楽しむことができる。この贅沢な音楽体験はコロナ禍の大きな希望だ。

「マトリクスガール」に感じたTRICERATOPSの突破力。それは、どんな困難な時代であっても自由はなくならないし、自分の気持ちが前を向きさえすればその先には未来がある。どんな環境にいてもどんな状況でも、超えていけるということ。曲名から想起する映画「マトリックス」では、主人公が仮想現実の世界、支配された世界から目覚めることを自分の意思で選んだ。「マトリクスガール」の曲中には他にも「トゥルーマンのショー」というフレーズが登場するが、映画「トゥルーマン・ショー」といえば、それまで虚構の世界で生きてきた主人公が、扉の向こうの現実の世界へ踏み出す最後のシーンが脳裏に浮かぶ。まさにOPEN THE GATE、もう1つの新曲「THE GREAT ESCAPE」へとつながっていく。あと、「THE GREAT ESCAPE」といえば映画「大脱走」。映画ばかり引き合いに出すけれど、戦時下250人もの捕虜が途方もないスケールの大脱獄劇を繰り広げる「大脱走」で主人公達が求めたのは、閉ざされた世界からの解放、自由だった。昨年12月のツアーで和田は、「自分が出した波動が現実を作っていくから、みんなには楽しいことを考えて欲しい。いつでもみんなのワクワクをちょっとでも手助けできるバンドでありたい」とMCで話していた。コロナ以前に戻りたいわけじゃなく今の状況を嘆くだけでもなく、今とこれから先の未来が楽しくなるような新しい世界を、日々を生きていかない?「マトリクスガール」「THE GREAT ESCAPE」に乗せ、彼らがそんなメッセージを投げかけているように感じている。心身ともに削られることの多いトピックが山積する毎日を生きる傍らで鳴らしていたいのは、背中を押してくれるタフさとともに、気持ちをふっと軽くしてくれるポップさと華やかさ、自分の中にもフツフツとたぎるものがあるんだってことに気づかせてくれるTRICERATOPSのロックンロールだ。

彼らは現在、次なる新曲の制作に取り掛かるとともに、秋には和田唱のソロツアーがアナウンスされている。「マトリクスガール」「THE GREAT ESCAPE」に続く新曲、さらに『SONGS FOR THE STARLIGHT』に続くニューアルバムの完成を待ちたい。




TRICERATOPS TOUR ’21 -OPEN THE GATE!-
2021年7月1日(木)大阪 なんばHatch
<<SETLIST>>
1.Two Chairs
2.あのねBaby
3.FUTURE FOLDER
4.GOING TO THE MOON
5.Pumpkin
6.ポスターフレーム
7.マトリクスガール
8.シラフの月
9.ふたつの窓
10.Lady Madonna
11.僕らの一歩
12.僕はゴースト
13.Fly Away
14.Hayashi×Yoshifumi Groove
15.ロケットに乗って
16.Raspberry
17.THE GREAT ESCAPE
ENCORE
18.ハンマー
19.トランスフォーマー

© 2021 DONUT

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INFORMATION

「マトリクスガール」
2021年配信限定シングル第1弾
2021年7月7日(水)配信スタート


「THE GREAT ESCAPE」
配信限定シングル第2弾
2021年8月4日(水)配信スタート


和田唱ソロツアー
10月1日(金)名古屋BOTTOM LINE
10月6日(水)大阪UMEDA CLUB QUATTRO
10月29日(金)東京都内某所

※ LIVE INFORMATION は公式サイトで必ずご確認ください。


■TRICERATOPS WRITER’S PLAYLIST(by梶原有紀子)


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