DONUT



2021.06.07 upload

THE COLLECTORS インタビュー

アナログにするとほぼ全部の曲がいい音になるんだけど、「エコロジー」は一番化けたね
――加藤ひさし

ザ・コレクターズは1987年デビュー。87年というとちょうどアナログ盤からCDへの移行期だった。そのせいでコレクターズが当時リリースした7インチ・シングルは「太陽はひとりぼっち」の1枚のみ。あとはCDシングルでのリリースとなった。ところが、35年後の現在、音楽シーンの世界的な潮流はアナログ盤へ。今や配信とアナログ盤をリリースするのがスタンダードになりつつある。さらにアルバムからの先行配信という形で「シングル」にも再びスポットが当たっている。そんななか、コレクターズが結成35周年記念のボックス・セット『13 VINYL SINGLES』をリリースした。この作品は、オリジナル・アルバムから1曲ずつメンバー全員でセレクトした24曲をA・B面に収録した12枚の7インチ・シングルと、新曲「ヒマラヤ」「 揺れる恋はスミレ色」を収録した7インチ・シングルで構成。さらに2020年11月20日に大宮ソニックシティで行われた「THE COLLECTORS, HISASHI KATO 60th BIRTHDAY LIVE SHOW “Happenings 60 Years Time Ago”」のライブDVDを封入。今回はこの作品を発表するに至るまでの経緯やコロナ禍での配信ライブのこと、新曲「ヒマラヤ」「 揺れる恋はスミレ色」で見出した「これからのコレクターズの楽曲」について加藤ひさしに1万字超に渡って語ってもらった。

●取材・文=森内淳

―― 加藤さんが還暦を迎えて半年が経ちました。僕も今年還暦なので、加藤さんが今どんな風景を見ているのか興味があるんですが。

加藤ひさし 還暦に限らず50歳をすぎると先が見えてくると思うの、終わりっていうかな。そうすると「あれもやっておかなきゃ、これもやっておかなきゃ」みたいなものが増えちゃって。「若いときにやっておけばよかったのに」みたいなね。だから今は夏休みの宿題を8月の末にやってるような状態になってるね。

―― やりたいことが渋滞してるわけですね。

加藤 渋滞しちゃってる。だから余計にやりたいことに対して体力が追いつかないと思ったりするんだよ。本当はそんなに体力も落ちてないし、気力も充実しているんだけど、やらなきゃならないことが急に山積みされると「こりゃもう今から全部やるのは無理だよ」みたいになる。

―― 今は取捨選択を迫られているんですね。

加藤 優先順位として最初に何をやっていけばいいのかっていうことを、今、決めているところかな。それが還暦ってやつかもしれない。何を先にやるべきかを選ぶ時期がやってきた、みたいなね。でもさ、60ぐらいだと「全部やってやれ」っていう気持ちもどこかにあるの。「やりたいことは全部やれ」って歌ったくらいだからね。

―― 裏を返すとやりたいことのビジョンが見えているっていうことですよね。僕なんかもう行きあたりばったりですよ。

加藤 でもね、結局、行きあたりばったりになっちゃうんだよ。だってやろうと思ってもやれないこともいっぱいあるし、やってるうちに新しいアイディアが降りてきたりもするからね。

―― しかもコロナ禍でライブもできないような状況が続いていますからね。

加藤 2000年ぐらいからCD不況が囁かれるようになって、どのバンドもより多くライブをやって、フェスもどんどん増えてきた。CDは売れないし、配信だって相当売れている連中の印税はそんなに変わんないと思うけど、そこそこの連中は相当減っていると思う。そんな中で一番の要がライブだったのに「ライブをやるな」という指示が出ちゃうと「どうやって飯食うの?」ってなる。飲食店の人達と立場は同じなんだよね。ただね、そこでひとつ思うのは、例えばなんだけど、俺たちはビートルズのライブを生で見たことがないわけ。考えてみれば自分が好きなバンドってほとんど生で見たことがないんだよ。DVDで見たりVHSで見たりしてたんだよね。それでも今でも大好きで、彼らを尊敬しているんだよね。それを考えるとバンドの魅力を伝えるのは何もライブだけじゃないんだなと思った。

―― というと?

加藤 バンドを表現できる場があれば、それがスマホでもパソコンでもいいわけでね。配信という形でバンドを表現できるのであれば、それもまた面白いんだろうなっていうのを、この一年半で思い知らされた。「ライブしかないんだ」「ライブで稼げるからライブだけやっていればいいんだ」じゃなくて、コロナがあろうがなかろうが、配信というメディアで何か面白い表現ができたら、CDやレコードやライブに並ぶもうひとつのメディアとして確立されていくんだろうなと思った。

―― ということは加藤さん的に配信コンテンツ「Living Room Live Show」に手応えを感じているわけですね?

加藤 自分で引いた最低ライン、リクープ・ラインは全然クリアした。だからやってよかったと思う。すると今度はコンテンツがワンパターンになってくるから、これを変えていかなきゃいけないぞっていうところで知恵を出し始めるの。そうなると、もう少し広がるかもしれないよね。それがさっきの「配信という形でバンドを表現できるのであれば、それもまた面白い」という発言につながるんだよ。

―― 配信を新しい表現の手段と捉えられたっていうことですよね。でも、考えてみればビートルズもそうでしたよね。マジカル・ミステリー・ツアーをやってみたりビルの屋上でルーフトップ・セッションをやってみたりアニメーションをやってみたり、ライブを封印した後に、いろんな映像コンテンツに挑戦してましたからね。

加藤 そうそう。これからは「自分たちはこう動いてる」「曲をこう表現したい」っていう表現がライブ以外の違う形で確立されていくんだろうね。

―― マジカル・ミステリー・ツアー的な映像表現って、もともと加藤さんの得意分野ですよね。

加藤 すごく好きなんだよ。

―― 昔やってましたよね。

加藤 『Amazing Street@TV』ね。配信コンテンツの草分け的な感じでやってたよね。

―― あれ、まさに今ですよね。あれ、20年くらい早かった(笑)。

加藤 早かった。やること全部が早すぎる(笑)。

―― 今、有料配信でああいう映像作品をやったら面白いですよね。

加藤 今はテレビが面白くないからね。俺もNetflixを見る頻度がテレビを見る頻度よりどんどん増えてきてる。向こうも調子に乗って値上げしてくるんだけど、やめられないんだよ(笑)。ということは、時代はすでに配信になったんだよね。

―― ライブと言えば、今回のボックス・セット『13 VINYL SINGLES』には大宮ソニックシティでの還暦ライブのDVDが封入されています。コロナ禍で9ヶ月ぶりのライブは大変でしたか?

加藤 9ヶ月ぶりにライブをやるのは大変だったけど、35年もやってればさ、もっと大変な時期があったからね。

―― たしかに。

加藤 自分がパニック障害になってステージに立つのもままならないような時期とかね。

―― そうでした。

加藤 それこそ密室恐怖症みたいになっちゃうからライブが始まる5分前まで外にいて深呼吸してさ、「よーし、行くぞ」ってステージに出ていって「90分なんとか乗り切ろう」ってやってたからね。あのときに比べたら全然楽だよ。騒げないにしてもちゃんとした空間の中でお客さんがいてくれて、その前でしっかり歌えるわけだし、拍手をしてくれるわけだし。

―― コロナ禍で60分のステージを2回やったんですけど、DVDを見ていて60分のステージも悪くないなと思いました。

加藤 集中力が切れないでいいんだよね。他人のコンサートを見に行くとだいたい2時間ぐらいやるじゃない? 1時間くらい経つとね、キョロキョロし始めるからね(笑)。照明の数はどうだとか客が後ろまで入っているのかどうかとかチェックし始めたりしてね。70年代に馬鹿みたいにライブの時間が長い時代があったじゃない? 4時間ステージをやるとか。ドラムソロを30分やるとか。

―― むしろそれが主流でしたよね。

加藤 俺たちが大学生の頃、パンクの時代があったじゃない? 案外、ライブの時間って短かったよね。プリテンダーズが来日したときも60分とか70分だった。ジャムもそれくらいしかやんない。

―― たしかポリスも日本武道館で70分くらいしかやらなかったという話だし。

加藤 だからオールド・ロックの連中がライト・ショウをやりたくて3時間も4時間もやってて。

―― 大仰なショウをやるのはぼくらのひとつ上の世代のロック・バンドですよね。

加藤 そうそう。

―― 僕ら、パンク世代ですから。

加藤 そうなんだよ。曲も短いからコンサートも短い。

―― その60分のステージを締めたのが最新アルバムに収録されている「旅立ちの讃歌」でした。

加藤 あの構成は(古市)コータローなんだよ。コータローは脚本家になれるね。

―― お客さんの評価もものすごく高かったですよね。

加藤 俺は「旅立ちの讃歌」で終わるのが嫌だったの。

―― あ、そうなんですか?

加藤 あんな仰々しい終わり方じゃなくて最後は「ロックンロールバンド人生」じゃないけど「楽しくやってるよ、じゃーな」みたいな還暦がいいなと思ってたの。でもコータローは真ん中に赤絨毯を敷いてミラーボールがガーンときてみたいなアイディアを考えていた。

―― それが見事にはまりましたよね。

加藤 本当にこの構成でよかったし、最後の最後が新曲で、しかもあんな感じで終わるっていうことは「コレクターズがこれからも続くんだな」「ただ続くだけっていうんじゃなくて、まだバリバリやれる気だな、こいつら」っていうところを見せられた。「コロナ? 関係ないよ!」っていうふうにも映ったしね。見事だな、と思った。

―― あのミラーボールの演出も相まってロック・バンドの風格のようなものも見せられました。

加藤 そうそう。いい歳だからあれくらい堂々としていないと駄目なところもあるだろうしね。ただ俺にはああいう構成は考えられない。だからバンドっていいなと思った。俺がソロ・アーティストだったらああいうふうにはならないよね。

―― 照れもありますしね。

加藤 照れもあるし。

―― そのDVDが封入されているボックス・セット『13 VINYL SINGLES』なんですが、これはそもそもどういったアイディアから生まれたんですか?

加藤 35周年なのでボックス的なものを作っていこうというのはもともとあったの。20周年が映像集のボックスで、30周年がそれまでのCDにヒストリーDVDも入っているというものすごいボリューム感のあるボックスを作った。40周年まではあまりにも時間がありすぎるし、じゃ35周年で何かを出そうと言ったときに、アナログしか考えられなかった。ただ24枚のオリジナル・アルバムのボックス・セットはさすがに無理だろう、と。

―― 180グラム✕24枚ともなれば、重量的にも無理があります。

加藤 そうなんだよ。そこでいくつかアイディアが出て、例えばテイチク時代の4枚ボックスというふうに24枚を5つくらいにわけてボックスを作ったらいいんじゃないか、と。その中で好きなボックスを買ってもらえばいいんじゃないかという話もあったの。ところが『UFO CLUV』みたいにディスクユニオンですでにアナログ化されているアルバムもあるんだよね。じゃ見方を変えて、もうちょっとコンパクトに収まるものはないの?って言ったときに7インチのシングルがいいなと思ったの。というのもね、7インチのシングルって、俺たち1枚しか出してないんだよ。

―― あ、そうなんですか?

加藤 1988年に出した「太陽はひとりぼっち」だけなんだよ。

―― そうか、あとはもうCDシングルになるんですね。

加藤 そうなんだよ。だったら7インチをボックスにしたらどうだろうっていう話になって。24枚のアルバムの中から代表曲を1曲ずつ選んで、それをA面とB面に収録すれば12枚になる。最後の1枚を新曲にして13枚組にして、それに(還暦ライブの)DVDをつけて35周年の作品を作ったら面白いんじゃない?って話になったの。

―― ちょうど今、若いバンドの間でも7インチのドーナツ盤を作るのがブームになってますからね。

加藤 あ、そうなんだ。

―― そうです、そうです。みんな7インチを作ってライブ会場限定で売ってますね。この24曲はどうやって選曲をしたんですか?

加藤 アルバムを作ったときに、シングルカットしなくてもリード曲というのがあって、それをミュージック・ビデオにしていくんだけど、案外、ライブでやってたりすると、リード曲よりも違う曲をファンがものすごく好きになることがあるんだよ。

―― ありますね。

加藤 その曲をメンバーも好きになって、何度もライブでやるようになることが多々ある。「MILLION CROSSROADS ROCK」なんてまさにそうなんだけど。だったら「リード曲にこだわらずにメンバーみんなで曲を選んでみない?」っていうことで選んだ結果がこの24曲なの。例えば5枚目の『COLLECTOR NUMBER 5』なんかは「SEE-SAW」がシングルなんだけど、今のムードでいくと「あてのない船」が絶対にいい、みたいな。

―― 今のライブのムードを反映するとそうなりますよね。

加藤 『UFO CLUV』は「世界を止めて」が入っているんだけど、「世界を止めて」は(2016年に)アナログで出してるし、『UFO CLUV』もアナログで出してる。となったら「愛ある世界」がかっこいいよねっていうふうなディスカッションをやって選んでいったんだよ。

―― 今回13枚入ってますけど、リーダーおすすめの1枚はどれになりますか?

加藤 CDからレコード盤にすると音が変わるんだけど、その中で「え、こんなに音がいいの? CDよりも全然いいんじゃない!?」って思ったのが「エコロジー」。

―― なんか意外ですね。

加藤 「エコロジー」めっちゃいい。

―― なんでなんですかね。

加藤 わかんないんだよ。アナログって周波数的に低音が出過ぎちゃうと針飛びしちゃうんだよね。だからもう一回アナログ用にマスタリング的なことをしなくちゃいけないの。それの結果がいい方向に出たんだと思う。アナログ用にマスタリングしたときに上と下が削れてちょうどいい感じになるんだよ。アナログにするとほぼ全部の曲がいい音になるんだけど、「エコロジー」は一番化けたね。あのね、CDのマスターからアナログに落とすときにカッティングマンがその辺の作業は全部やるんだけど、検聴盤を聴くと、音量のバランスがどうしてもそれぞれの曲で変わっちゃうんだよね。それを聴いて、俺がスタジオに乗り込むわけ。「これは音量がちっちゃい、これは大きい」って言ってたら、「じゃどれが一番いいんですか」って言われて、そのときに「“エコロジー”だよ!」って言ったんだよ(笑)。

―― じゃ全体を「エコロジー」に合わせたわけですね。

加藤 でもね、なかなか合わない。どうしてもそこは曲によって構成上のばらつきがあるから。ただ「エコロジー」をベースにはしてもらった。逆に(新曲の)「ヒマラヤ」と「 揺れる恋はスミレ色」は最初からアナログで発表するってわかってたから、アナログに合わせてマスタリングしてあったの。そしたらエンジニアが「“ヒマラヤ”がベストでしたよ」って。そりゃそうだよ、アナログに合わせたんだから。それぐらいCDのマスターからアナログ盤を作るっていうのはデリケートな話なんだよ。

―― CDのマスターから簡単にアナログ盤になるわけじゃない、と。

加藤 「レコードからカセットテープに録音するみたいに簡単にできるんでしょ?」って思ってるかもしれないけど、そんなんじゃできないんだよ。

―― 「ちゃちゃっとやってボックス・セット作ったんでしょ?」って思ってる人がいるかもしれないですね(笑)。

加藤 そんなんじゃできないんだから。わざわざカッティング・スタジオまで行って聴かないとできないんだよ。

―― じゃもうCDとは違うものだと思った方がいいんですね。

加藤 違う。もう印象が違う。この7インチを聴いたときに曲の印象が変わると思う。

―― 13枚目の7インチが「ヒマラヤ」と「 揺れる恋はスミレ色」という新曲のカップリングなんですが、これはたくさんある新曲のなかから選んだんですか? それともこのボックス用に作ったんですか?

加藤 この新曲にいくまでのストーリーがあって。2021年の1月から3月まで(最新アルバム)『別世界旅行〜A Trip in Any Other World〜』のツアーの予定だったから『13 VINYL SINGLES』を出すと話が決まったときには、とても新曲を録っている時間がなかった。だから本当は12枚組だったの。ところが緊急事態宣言で2ヶ月ライブがやれないってことになったときに、「よし、ここから新曲を作るぞ」って言って作った。

―― じゃ2ヶ月で2曲を仕上げたんですね。

加藤 正確には3曲書いた。

―― あ、そうなんですね。

加藤 ボックス・セットには「TOO MUCH ROMANTIC!」「太陽はひとりぼっち」「ぼくはプリズナー345号」みたいに元気のいい曲が入るっていうことはわかってた。それがコレクターズの代名詞だからね。コータローが「ほとんどそんな曲になっちゃうから、13枚目に入るシングルはアコースティックで。パワーポップ的なものじゃない方がいいんじゃないか。その方が変わってて面白いんじゃないか」って言ったからアコースティックで作ってたんだよ。そこそこいい曲だなって思って、みんなに聴かせたら「いいね、これでいこうか」ってなってたんだよね。で、(プロデューサーの)吉田仁さんに聴かせたら「悪くないんだけど、やっぱりコレクターズの代名詞って元気なんだよ」ってなったの。「13枚目も元気な曲でいこうよ」ってなって、作り直した。

―― それはアレンジを変えたわけではなく別の曲を作ったんですね。

加藤 別の曲。まったく別の曲。それが「ヒマラヤ」。

―― 「ヒマラヤ」はサイケデリック・ロックの匂いが満載ですが、このアイディアはどうやって浮かんだんですか?

加藤 アコースティック・ナンバーを作ったときは、それこそ「希望の舟」じゃないけど、コロナ禍でどこかに希望を持たせたり、自分も含めて何か励ませられるような今を象徴した曲を書いた方がいいんじゃないかなと思ってたの。でも「お願いマーシー」以上の曲が書けなくて。何を歌っても嘘くさくなるなと思ったんだよね。そんなときに「アコースティック・ナンバーじゃないよね」って言われて。だったら自分が小学校のときに憧れていたスーパーカーのプラモデルでも作るような気分で曲を作ろうと思ったんだよね。1967年の(ザ・ビートルズの)『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』が今でも一番好きな男が「もしも俺が67年に25歳だったら、こんな曲を書いただろうな」っていう曲を書いてやろうと。

―― 半ば趣味の世界に開き直ったわけですね。

加藤 6分の1スケールのプラモデルを作らせてもらいますわ、みたいなね。67年頃、みんなインドに行ったじゃない? ドノヴァンにビートルズに、みんなロックの可能性を広げようと思ってヒマラヤ方面に行ったよね。だったら今でも何かあるんじゃないの?っていう(笑)。

―― 今は何もなさそうですけどね(笑)。

加藤 何もなさそうなんだけど(笑)、そういう箱庭作りが楽しくて。ジオラマを作ってる感覚で曲を作ったんだよ。

―― 67年に25歳の加藤ひさしがいたという設定でジオラマ的に曲を作っていったという。

加藤 そうそう。

―― この曲、かっこいいですよ。

加藤 だからかっこいいんだよ。この曲、めっちゃかっこいいんだよ。かっこいい曲を作ったから。

―― ピンク・フロイドのファーストアルバムっぽくもありますよね。

加藤 シド・バレットになりきったからね。

―― 「ルシファー・サム」みたいなグルーブを持っているという。

加藤 そうそう。ローディーのハタ坊がミュージック・ビデオを撮るときに初めてこの曲を聴いてこう言ったんだよ。「加藤さん。今回、U2ですか?」って。ハタ坊は37歳だから67年なんか知らないから、U2は褒め言葉なんだよね。そういうものを継承しているロック・バンドでもあるからね。ハタ坊がそう聴こえたら大成功でしょ。だからなんだろうね、無責任極まりない曲。

―― それがいいんですよね。

加藤 そうなんだよ。それがよかったんだよ。みんなに言われるんだよ、「それ、やってよ」って。

―― これからもジオラマをガンガン作りましょうよ。

加藤 口うるさい曲はいらないから「ヒマラヤ」みたいな曲をいっぱい作ってよって言われる(笑)。「揺れる恋はスミレ色」もそうなの。あれは1964年とか65年なんだよ。

―― 「揺れる恋はスミレ色」がまたいいんですよね。この何でもない歌詞が。

加藤 何でもない歌詞がいいんだよね。だって「白い色は恋人の色」なんて聴いて育ったからね。「亜麻色の髪の乙女」なんか見たこともないんだけど、いいんだろうなと思って育ったから。

―― 言葉がシンプルで抽象的なんだけど、聴く人の想像力をかきたてるという。

加藤 そうそう。

―― この歌詞を書いた加藤さんの気分が知りたかったんですよね。

加藤 本当に無責任。小学生の頃に聴いたベッツィー&クリスの「白い色は恋人の色」、ヴィレッジ・シンガーズの「亜麻色の髪の乙女」、大学生の頃には桑名正博さんの「セクシャルバイオレットNo.1」、その数年後には「すみれ September Love」を一風堂がやった。みんな歌詞で言ってることがわりと無責任なんだよ(笑)。でもなんかイメージを掻き立てられたんだよ。「恋は水色」とかもね。

―― すごくロマンチックなラブ・ソングとして響きましたよね。「揺れる恋はスミレ色」も同じですよね。

加藤 でもね、実は「揺れる恋はスミレ色」は才能の無駄遣いなんだよね。

―― どういうことですか?

加藤 『別世界旅行』で「ダ・ヴィンチ オペラ」っていう曲を書いたでしょ?

―― はい。

加藤 あの曲1曲でロック・オペラを作りたくなるくらい、俺はお気に入りだったの。アルバムから外そうかと思ったくらいだからね。ダ・ヴィンチがモナ・リザを描くときだって、始まりは一個の点にすぎないんだから、君がやろうとしていることはモナ・リザになるかもしれないっていう歌なんだよ。いい話でしょ? その「ダ・ヴィンチ オペラ」の中に「プライマリー・カラーズ」っていう曲を入れようと思ったの。前にも話したかもしれないけど。

―― いや、それは知りませんでした。

加藤 「プライマリー・カラーズ」は「原色」っていう意味なんだけど、人間って最初は無垢だから青だったり赤だったりした色がだんだん他人と交わったり、そのなかで欲が出てきたりして、色が混ざっていくわけ。これが2つだったらまだきれいなんだけどね。「揺れる恋はスミレ色」でも歌ってるんだけど、赤と青が混ざるときれいな紫色になるの。ここまではいいんだけど、ここにまた違う色が欲しいって欲張れば欲張るほど、灰色や茶色になっちゃって、最後は真っ黒になって消えちゃうよっていう歌を作りたかったの。その歌がロック・オペラの中に入っていたら相当いいだろうなと思ったの。モナ・リザも絵だしね。そこに「プライマリー・カラーズ」が入るとかっこいい。で、今回、なかなか歌詞が浮かばいなと思ったときに、「プライマリー・カラーズ」の歌詞を「揺れる恋はスミレ色」に持ってきたんだよ。>

―― じゃもともとは「ダ・ヴィンチ オペラ」に挿入されるはずだったんですね。

加藤 もともとはね。「プライマリー・カラーズ」として世の中に出るべき曲だったの。

―― 「揺れる恋はスミレ色」とは関係ないですが、今の話を聴いていると久しぶりにコレクターズの新しいオペラも聴きたいですね。

加藤 いいよね。

―― こうなったら加藤さんが好き勝手にやりたいことを詰め込んだアルバムを作るのはどうなんですかね?

加藤 そう思ってるんだよね。

―― まとまってなくていいからアルバムの中にいろんなジオラマが作られているという作品を聴いてみたいですね。

加藤 いろんなジオラマを作っても、最終的にはメンバーや吉田仁さんがまとめてくれるからね。

―― ボックス・セットにしても、こうやって昔の名曲が揃うと「やっぱり昔の曲はかっこいいね」ってなりがちですけど、「ヒマラヤ」と「揺れる恋はスミレ色」のシングルはいいですよね。

加藤 やっぱりコレクターズは毎回そうだと信じてるんだけどね。例えば『13 VINYL SINGLES』が出る前までは「お願いマーシー」が一番いい曲だし。『13 VINYL SINGLES』が出たら「ヒマラヤ」が一番いい曲だし。次が出たら次がもっといいからさ。そうでなきゃ駄目なバンドだと思うんだよね。

―― そういう意味でも13枚目を追加したのは正解でしたね。

加藤 コロナのこの状況の中でも悪いことばっかりじゃなかったなって思えたね。コロナで2ヶ月分のライブスケジュールが潰れなかったら曲も書けなかったし、レコーディングもできなかった。

―― 今、シングルは配信がメインだから、シングルをコンスタントに発表していくっていうのもひとつのやり方ですよね。それをまとめてアルバムにしてもいいし。

加藤 そうなんだよね。取り残されたアコースティック・ナンバーもあるわけだしね。それもすごくいい曲なんだよ。いい歌詞をつけたらいい曲になると思う。アルバムを作るとなるといつもすごい大変だけど、2曲くらいだとそんなに労力も要らないんだよね。

―― アルバムを作ろうとすると全体像を考えちゃいますからね。

加藤 そう、全体を考えるから。

―― 60年代のバンドみたいにシングルを出して、それを集めてアルバムにする、みたいな方法もサブスクだといくらかハードルは下がりますよね。

加藤 アルバムの『マジカル・ミステリー・ツアー』みたいにね。だから、今回やってみて、やり方がいろいろあるな、とは思ったね。

―― それから注目すべきは『13 VINYL SINGLES』のデザインです。これがね、ボックスはもちろん、細部までデザインされていて、すごくいいんですよ。

加藤 おー、ありがたいね。

―― レコード盤が入っている袋まで徹底的にデザインされてるんですよね。

加藤 俺がね、いつもデザイナーに送る指示書っていうのがあるんだよね。

―― なんですか、指示書って(笑)。

加藤 これね、事務所の松本社長に「俺の指示書展」をやってくれって提案してるんだけどね。毎回、A4のコピー紙に3色の水性マジックでジャケット等を描くの(笑)。これがね、バンクシーもひっくり返るくらいの衝撃度なんだよ。

―― 見たいなあ(笑)。

加藤 見たいでしょ? その指示書展をね、リモートでやろうかと思ってるんだよね。YouTubeで。そうしたらこれがこうなったんだっていうのがわかるというかね、どうしてデザイナーがいつもカリカリしてるのかがわかる。

―― はははははは。

加藤 まずは俺がやりたいことはこうなんだ、これがこうなるんだっていうことをデザイナーに見てもらいたいんだよね。どれだけ自分の頭の中に形があるのかってことをさ。

―― 箱の内側もちゃんとデザインしてあるんですよね。

加藤 そうだよ。あそこも俺の指示だよ。とにかく細かいんだよ。

―― じゃこのボックスのジャケットのアイディアも加藤さんなんですね。

加藤 そうだよ、俺だよ。だから指示書があるんだよ、全部。

―― 今回のボックスのジャケット・デザイン、すごくシンプルでかっこいいんですよね。僕、棚に正面を向けて飾ってますよ。

加藤 昔イギリスで買ってきた香水があって、その箱にちょっと寄せたんだけど、それこそ香水を使わないで箱のまま飾ってたんだよ。ボックス・セットってしょっちゅう聴くものではないから、飾れるものがいいよなって思って、シンボリックなデザインがいいんじゃないって思ったんだよね。特にアナログレコードだったら30周年ボックスみたいな細かいデザインじゃないよなって。

―― 僕はまんまと加藤さんの意図に乗せられたわけですね(笑)。

加藤 そういうこと。

―― ボックスの裏のイラストもいいんですよ。

加藤 裏もいいでしょ? あのイラストを見つけてきたのがコータローなんだよ。コレクターズは1987年の11月にレコードデビューするでしょ? 最初のツアーがね、年をまたいで88年まで続くんだよね。そのときのツアー用のフライヤーのイラストなの。ファースト・アルバムのジャケットのデザイナーが描いたんだよ。俺も忘れてたんだけど、コータローが写真を撮っていて、3月の名古屋のライブの帰りの新幹線の中で「これ、懐かしいんだけど、Tシャツにしたいんだよね」って言って見せてくれたの。俺も思い出して、「こんなのあったね!」って。「これ、ボックスにいいかも」って。コレクターズ・マニアの知り合いにデータを送ってもらって。それでボックスにはめてみたらやったらよくてさ。表も「1987」って書いてあるしちょうどいいなって。そういう歴史的なものなんだよ、裏ジャケットは。あらためてイラストを描き下ろすよりもいいでしょ?

―― 何もかもが上手くはまっていますよね。

加藤 それは長くやってきたバンドだからこそできたことなんだよね。こういう資料がいっぱいあるからね。

―― 35年分の経験の再構築がこのボックス・セットを作り上げていますよね。

加藤 そうそう。だからね、『さらば青春の新宿JAM』の中で峯田(和伸)くんが言った「コレクターズはリミックス」という言葉が本当に素晴らしいなと思ったんだけど、コレクターズを作ったときからそうだったのに自分では全く気がついてなかった。まずMODSをやっていること自体がそうなんだけど、リミックスなんだよね。俺がやってることって。新しいことなんか何もなくて、そのときの組み合わせの妙で新しく聴こえるだけなの。俺は何も生み出してないんだよ。組合せを楽しんでるだけ。

―― それを言っちゃうとビートルズだってリミックスですからね。ワールドミュージックとロックのミクスチャーというか。

加藤 そうなんだよね。例えば「ヒマラヤ」だって67年の曲って言われればそうなんだけど、今、この曲を作れるか作れないか、やれるかやれないかが感性なんだよね。だからそれに気づいた峯田くんはすごいなと思ったんだよ。最初の頃はそういう感覚が自分の中になくて、ビートルズやWHOを血として肉として新しいものをクリエイトしていくみたいな、そういう感覚でいると、ものすごく深いところで悩むんだよね。ところが深く悩むとろくなものはできない。リミックスみたいなところで上手くやったものの方がみんなに響くっていうことが35年やってやっとわかったね。

© 2021 DONUT

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INFORMATION


13 VINYL SINGLES [Analog]
2021年6月2日(水) リリース
7インチ アナログ・レコード収録曲: Disc1:TOO MUCH ROMANTIC! / 太陽はひとりぼっち Disc2:ぼくはプリズナー345号 / ぼくのプロペラ Disc3:あてのない船 / 愛ある世界 Disc4:MOON LOVE CHILD / Good-bye Disc5:涙のレインボーアイズ / GIFT Disc6:百億のキッスと千億の誓い / MILLION CROSSROADS ROCK Disc7:POWER OF LOVE / 未来のカタチ Disc8:Thank U / 東京虫バグズ Disc9:エコロジー / GROOVE GLOBE Disc10:誰にも負けない愛の歌 / Da!Da!!Da!!! Disc11:Tシャツレボリューション / 悪の天使と正義の悪魔 Disc12:クライムサスペンス / お願いマーシー Disc13:ヒマラヤ / 揺れる恋はスミレ色(新曲)

特典DVD(「THE COLLECTORS, HISASHI KATO 60th BIRTHDAY LIVE SHOW “Happenings 60 Years Time Ago”」 2020.11.23 Omiya Sonic City )収録曲: 1.MILLION CROSSROADS ROCK 2.TOUGH 3.お願いマーシー 4.Stay Cool! Stay Hip! Stay Young! 5.たよれる男 6.TOO MUCH ROMANTIC! 〜 1・2・3・4・5・6・7DAYS A WEEK! 7.世界を止めて 8.ひとりぼっちのアイラブユー 9.限界ライン 10.旅立ちの讃歌


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