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2021.04.08 upload

浅井健一 インタビュー
日々一生懸命生きることだけでいいんじゃないのかな。その辺に本当のことがあるような気がしてる
――浅井健一

浅井健一が、約1年半ぶりとなるニューアルバム『Caramel Guerrilla』を4月7日にリリース。深遠なサウンドが歌の情景に蜃気楼のような深みと儚さを増す「少女」から、軽やかなポップナンバー、爆裂ロックンロール、ジャジーなムードのナンバーなど全11曲が到着。曲調こそ様々だが、今作ではアルバムを通して「生きる」という光のような力を強く感じる。誰もが未知の経験となったコロナ禍に届いた作品だからかとも思ったが、思えば浅井はこれまでもずっと音楽の中に光を込めてきた。この世には美しいことも最悪なこともあふれているけれど、一生懸命に生きること。そして“うれしい未来”を願っている。そんな眼差しで描かれる歌のなかには、浅井健一という人物像がより見える楽曲も増えた。4月にはベースに高松浩史(THE NOVEMBERS)を迎えて新生となった浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSの東名阪ツアー「Caramel Guerrilla Tour 2021」の開催や、UAとのプロジェクトAJICOの再始動も迫り、忙しい日々を送るベンジー。インタビューの最後に訊いた「最近心に描いた、行きたい世界は?」という問いには「この世界でいい」。そう答えた浅井健一がこの世界で鳴らす音楽が、ひとりでも多くの人の心に届いてほしい。

●取材・文=秋元美乃/森内淳

―― 素敵なアルバムの完成、おめでとうございます。とても嬉しい気持ちで聴かせていただきました。

浅井健一 ありがとう!

―― 最近はどんな日々をお過ごしでしたか?

浅井 けっこう忙しくしていて、西武池袋本店でポップアップショップをやってたんだけど、そのグッズを作っていたのと、去年の暮れから「STRIPE CAT DESIGN ART SERVICE」というのを始めて。色んなお店や企業から依頼を受けて看板やロゴを考えるという、そういうのをやり始めたんだわ。この間でちょうど5件納品できまして。まだたくさんオーダーをいただいているので、一生懸命日々励んでおります。

―― どんな企業から依頼があったんですか?

浅井 カフェ、洋菓子屋さん、あと老人介護の会社。「小さな花」っていう歌があるでしょう? で、その人から「小さな花という名前の老人介護を始めました」って連絡がきて。「英語の“a Little Flower”と日本語の“小さな花”と両方お願いします」って。俺、日本の字がへたなもんだから「小さな花」って千回くらい書いて、一番上手に書けたのを渡したよ。あと和服を作っておられる方とか。浴衣とか帯とかになるかもって。歯医者さんからも依頼があった。

―― 歯医者さんまで? 幅広いですね。

浅井 ね? 今のところすごい喜んでもらっとって。形になったらホームページにも載せるから、お店の宣伝にもなるしSTRIPE CAT DESIGN ART SERVICEの宣伝にもなるし、いいよね。あとはアルバム『Caramel Guerrilla』の取材を受けたりプロモーション・ビデオを作ったり、AJICOの新しい曲の仕上げの作業をやったり。色々やりましたね。

―― 大忙しですね。

浅井 そうなんだわ。この間お父さんが倒れちゃって、入院して退院する時にご飯作りに(名古屋に)帰ったりもしてたな。お姉ちゃんと妹もいるけど付きっきりはできないから。とりあえず俺も帰って。家でもデザインのこととかができるから、それは今の文明で助かったね。

―― そうだったんですね。忙しくされてたなかで、アルバムはいつ頃から作っていたんですか?

浅井 去年の1月くらいから作り始めたからじっくり作れたね。(小林)瞳ちゃんと作り始めて、途中でTHE INTERCHANGE KILLSでやった曲もあったし。(中尾)憲太郎の脱退もあったね……。

―― 憲太郎さんの脱退は驚きました。

浅井 うん。俺は自分の感覚だと、俺がベースを弾いたりドラムを叩いたり、逆に他の人がギターを弾いたりだとか、バンドの中だったらアリだっていう考え方だったんだけど、憲太郎には憲太郎の考えがあって、それならそうと明記して欲しかったらしくて。「TOO BLUE」をシングルで出した時に3曲めの「送る歌」は瞳ちゃんがベースを弾いたんだよね。でも、俺はキルズ名義にしてしまった。でも憲太郎はちゃんとクレジットにそう書いて欲しかったって。憲太郎にとっては納得できないことだったんだね。そういうことがあって脱退っていう結果になっちゃったけど。

―― 憲太郎さんはそれだけ自分のベースに…

浅井 プライドを持ってるんだよね。その考え方もすごくよくわかるし、俺の配慮が足らなかったんだわ。憲太郎につらい思いをさせちゃったのは本当にごめんね、っていう気持ちですね。

―― そうだったんですね。じゃあ今作は全部が憲太郎さんではないんですね。

浅井 憲太郎が参加してるのは「ルールールー」「MOTOR CITY」「TOO BLUE」「Caramel Guerrilla」「I Stand Kitchen」だね。

―― 他の曲は新生キルズの高松さん(高松浩史/THE NOVEMBERS)が弾いてるんですか?

浅井 彼は参加していません。「少女」はマーリンていうアメリカ人で「Not Ready Love」は俺。ベースラインは瞳ちゃんが考えた。で、「ラッコの逆襲」は瞳ちゃん、「BLUE BLONDE」はTRICERATOPSの林(幸治)くんでドラムは椎野(恭一)さん。「水色のちょうちょ」は俺がひとりで作ったんだよね。

―― レコーディングは?

浅井 去年の3月、4月かな? スタジオで録ったのと、ここ(事務所)のホームスタジオで録ったのと。本当は秋くらいに出してツアーもやろうと思ってたんだよね。でもそんな状況じゃなかったから。曲自体は夏前には全曲出来上がってた。

―― そうなんですね。「ルールールー」では<生きてるだけでも ありがとうって言うよ>、「Not Ready Love」では<普通に生きるってことは どういうことか知っているよ>というフレーズもありますが、アルバムを通して“生きる”という光というか力を感じるアルバムだなと思いました。コロナ禍も経験して、どう生き抜いていくかということにも向き合った日々があったかと思うのですが、その辺はいかがですか?

浅井 インスタでも言ったんだけど、岡本太郎さんの言葉で『人生の目的は悟ることではありません。生きるんです。人間は動物ですから。』というのがあって、それはなーるほどと思ったな。人間って歳をとると悟りたがったりするじゃん。「人は何とかのために生きるものだ」とか。でも悟るんじゃなくて、生きてること自体が人間の、人生の目的で、だからみんなもうやってるんだよね。みんな日々、一生懸命生きてるでしょう? それが人生の目的だから、何か上の方を目指すとかじゃなくて、日々一生懸命生きることだけでいいんじゃないのかな。その辺に本当のことがあるような気がしてるかな。でも自殺者が増えてるでしょう? そうなっちゃうのは怖いよね。でも……乗り越えていくしかないもんね。「こうしたらいいよ」とか、そういうことはわからんけどね。

―― そうですね。

浅井 頑張るしかないかな。

―― 毎日を一生懸命生きる、という。

浅井 うん。もうみんなやってるよね。うまく説明はできないわ。

―― アルバム後半の「全然足りない」では、今のそんな日々の叫びが出たような曲に感じます。

浅井 ああ、そうだね。

―― <小さな声では言えないけどさ>とありますが、大きな声で言わなきゃと(笑)。

浅井 そこはしゃれも入ってるんだけど、堀くん(マネージャー)にも確認されたけどね(笑)。「“小さな声”で合ってますか?」って。

―― 愛し合うことが歌われてますが、ここで出てくる<この世の基本>、教えてください。

浅井 ははははは! 何だと思う? それは俺は言わん方がいいわ。動物なら誰もが欲することだよね。みんなそれぞれ思い当たることがあるからさ。まぁ、食欲と睡眠欲と性欲。その中の何かだろうね。

―― 三大欲求ですね。

浅井 あとはみんなの想像だわ。

―― 想像と、それぞれ大事にしているものですかね。

浅井 うん。

―― どんな感じのアルバムにしよう、という構想みたいなものはあったんですか?

浅井 毎回そうなんだけど、激しい感じにするのか静かで内面的なものにするのか、ぐらいを話したりもするんだけど、だいたいその通りになったことがない(笑)。だから考えても無駄だなと思ってるかな。

―― 今作は両方の面が渾然一体となってますよね。

浅井 渾然一体となっとるね。激しいばっかりのアルバムもいいかもしれないけど、アルバムとして聴くなら色んなテンションの曲が入っとった方が楽しめるかなと思うんだよね。

―― 作っている時は、意識せずに生まれてくるんですか?

浅井 うん。一曲一曲作って、曲順として並べるじゃん? その時に全体像が決まるから、今回も入れられない曲もけっこうあったんだよね。

―― 最終的にこの11曲になったのは?

浅井 自分の感覚だよね。自分と堀くんの感覚。

―― 何か意図があったわけではないんですね。

浅井 ないよ。相変わらず行き当たりばったり。

―― ラッコの描写が印象的な歌もありますね。

浅井 何でか知らんけど、ラッコが出てきたんだよね。

―― 浅井さんの歌にはもう何が出てきても驚かないと思っていたんですけど、「ラッコかぁ」って思いました(笑)。

浅井 腹にウニとカニをのせて自由気ままに生きとるんだよ。なかなかそんな風に書く人おらんよね(笑)。

―― 歌詞は「38special」や「皆殺しのトランペット」で歌われてきたことにも通ずる部分がありますよね。

浅井 水族館に行って、ラッコがかわいそうでさ。大丈夫かなって思った光景が思い出されてきたんだよね。昔から歌にしてるし何にも変わってないよ。俺に限らず世界中のアーティストとか芸術家も、結局言ってることはずっと同じでさ、この世の不思議なことを表そうとしてるというか。どう表すか、どう表現するかはもちろん違うけど。

―― あと、一年は長い、一日も長い、そうやって思うことが楽しく生きる秘訣だというフレーズも印象的で。

浅井 今日も長いよ。朝の5時半くらいから起きてるもんな。早起きすると長く感じるよね。

―― そういう物理的な面もあるかもしれませんが、何となく浅井さんはみんなの知らない楽しみというか何かを楽しむコツみたいなものを、多く知っているような気がします。

浅井 そんなことないよ。みんなが気がつかないところに気がついたりはするけどね。

―― きっとそれですね。

浅井 気づくか気づかないかは大事なんだよね。

―― 先ほど話してくれた、岡本太郎さんの言葉に引っかかったのはなぜだと思いますか?

浅井 目標を見つけてそれを達成するだとか、長い間生きてきて悟りの言葉を言うだとか、そういうことじゃなくて日々、目の前のことに操られて一生懸命生きてるでしょう? もうそれでいいじゃん、て。そういう姿が一番尊いんじゃないかって。わざわざ何かを見つけなくても。昔、九州のお坊さんが言ってたことも同じでさ、「人間は死んだらどこに行くんですか」って偉いお坊さんに訊いたら「そんなこと言っとるな。死んだらどこへ行くだとか、わかってる人間は一人もおらん」って。その人は何か夢とかを見つけて、とも言ってたけど、夢とかなくてもとにかく一生懸命生きる。そういう日々が大事というか、それでいいんだって。それとちょっと似てるよね。それもあったからかな。

―― 似てますね。一生懸命生きる、という部分で共通しているからきっと浅井さんの心に留まったんですね。

浅井 そうだね。でもこの音楽、アルバムを聴いて心があたたかくなってくれたらそれが嬉しいかな。一生懸命作った俺んたちとしては。

―― ライブに行くのも難しい日々だったので、たくさんの人がアルバムを待ちわびていると思います。

浅井 おもろいでしょ? 「ルールールー」とか。俺は普通の生活をしてないって思ってる人もいるかもしれないけど、普通にスーパーも好きだし、風呂でも入って温まろうとか、洗濯物を取り入れなくちゃとか思うし。うまい具合に歌になったよね。

―― たしかに、今回のアルバムは何気ない浅井さんの姿も見えますね。

浅井 「I Stand Kitchen」とか、まんまだもんね。

―― 「I Stand Kitchen」と言えばインスタで時々アップしているベンスマクッキン(ベンジースマイルクッキング)、大好評ですね(笑)。

浅井 ベンスマクッキン、面白いでしょ? 俺もやってて面白いよ。

―― そのうちレシピ本とか作りたいですね。

浅井 作りたいね。中国の唐辛子はあまり辛くないけど、ハウスの鷹の爪はめっちゃくちゃ辛い。やっぱり日本製はすごいね、気合の入り方が違うよ(笑)。にんにくも。

―― 気合が(笑)。

浅井 レシピ本というか、スマイルクッキングをそのまま本にできるよね、写真付きで。必要ないか?

―― 楽しい本になりそうです。グッズのエプロン付きとかもいけそうですね。

浅井 レシピというより笑うための本だけどね(笑)。

―― それがいいと思います(笑)。

浅井 だって失敗作が50%くらいあるからね(笑)。

―― 「Not Ready Love」のミュージックビデオもとてもいいですね。ストーリーも映像も浅井さんの描く歌や世界にぴったりで。

浅井 大箭くん(大箭亮二/デザイナー、映像監督)の発想で、あのビデオは大箭くんの思い通りに完成したんじゃないかな。幸せって、ああいうようなことというか。好きな人と過ごす日曜日、みたいな。どこかに旅行に行って素敵な景色を見たとか、そういうのもいいかもしれないけど、普段のリラックスした日常って憧れるよね。

―― はい。アルバムからはもちろん、ミュージックビデオからも生きることや楽しさや愛が伝わってきます。リリース後には、新生キルズでのツアーもありますね。

浅井 このアルバムは心に響くと思うし、心に響いたらライブも響くと思うから、ライブにも来てほしいね。2回練習したんだけど、高松くんめちゃくちゃいい。すごいよ。だから不思議な流れだよね。憲太郎がやめちゃってすごい痛手で、もうああいうサウンドはできないのかもと思ったけど、高松くんとやり始めてまたびっくりしてる。だからライブが楽しみ。

―― 瞳さんはドラムはもちろん、コーラスもすごくよくて。高松さんはもともとお知り合いだったんですか?

浅井 いや、初めて。祐介(小林祐介/THE NOVEMBERS)とはROMEO's bloodで一緒にやってたから、ちゃんと配慮をしなくちゃと思って高松くんの所属してるバンドのリーダーの祐介にも話をして。そうしたら「全然いいですよ、あいつすごいですよ」って。本当にすごかった。

―― それはライブが楽しみです。

浅井 自信があるし、楽しみですね。瞳ちゃんと高松くんと3人でこれから作る曲も楽しみだし。

―― AJICOも動き出すということで、またさらに忙しくなりそうですね。

浅井 うん。AJICOの再始動で、UAとJ-WAVEの番組を3ヵ月やるのもあるし。

―― 色々目白押しで楽しみです。では最後に。昨年発表した本『神様はいつも両方を作る』のなかで「心に行きたい世界を思い描くことが全ての始まり」という言葉があって、前回のメールインタビューで最近、心に描いた行きたい世界は?と尋ねたら、「今のこの世界でいい」という答えでした。いま同じ質問をしたら、答えはいかがですか?

浅井 この世界でいいよ。色々あるけどさ。この世界でやっていかないと。

© 2021 DONUT

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INFORMATION


AL『Caramel Guerrilla
2021年4月7日(水)リリース
収録曲(CD):1.少女/2.ルールールー/3.MOTOR CITY/4.Not Ready Love/5.TOO BLUE/6.ラッコの逆襲/7.Caramel Guerrilla/8.BLUE BLONDE/9.I Stand Kitchen/10.全然足りない/11.水色のちょうちょ

収録曲(初回生産限定盤DVD『THREE TEAS UNDERGROUND SESSSION』):1.SESSION 1/2.僕は何だろう/3.海を探す/4.細い杖/5.新しい風/6.SESSION 2/7.僕の心を取り戻すために/8.汚い川のきらめき/9.Sunny Precious/10.スケルトン/11.ハラピニオ/12.SESSION 3


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LIVE INFORMATION

浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS「Caramel Guerrilla Tour 2021」

浅井健一(vo&gt)、高松浩史(ba&cho)、小林瞳(dr&cho)
2021年4月14日(水)大阪BananaHall
2021年4月15日(木)名古屋THE BOTTOM LINE
2021年4月20日(火)東京LIQUIDROOM

ライブに関する情報は必ず公式サイトでご確認ください。
https://www.sexystones.com/live/

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