2021.03.16 upload
エルモア・スコッティーズ インタビュー
初めて曲を作った時に「俺はパンクはできないし、叫べない」と思った
―― 岩方禄郎
エルモア・スコッティーズはドラマーの岩方禄郎(いわかた・ろくろう)が中心になって結成したバンド。現メンバーは岩方禄郎(vo,dr)、大森遥(vo,ba)、くぬぎみなと(gt)、ハセガワ(gt)の4人。アコースティックでノスタルジックな情感を持ち合わせた楽曲を歌うバンドだが、例えば、はっぴいえんどの系譜にあるようなバンドとは少し異なる感触がある。岩方禄郎と大森遥とのツイン・ボーカルがそう思わせるのか。たしかにそれもあるのだろうが、エルモア・スコッティーズの曲にガレージ・バンドのようなグルーヴを感じる瞬間があるのだ。正統派の歌ものというよりもオルタナティブ・ロックに近いアプローチの曲もあるので、そういった曲たちがそう思わせているのだろうか。今回、岩方禄郎にインタビューをして、その答えらしきことを知ることができた。パンクのマインドを持つ者がそうでない曲をやってもそのマインドは宿るのかもしれない、と。NITRODAYのメンバーでもあり、betcover!!でもドラムを叩く岩方禄郎にエルモア・スコッティーズと4年ぶりの音源「雲」と「polyp」について訊いた。
●取材・文=森内淳
―― 最初にエルモア・スコッティーズの結成の経緯を教えてください。
岩方禄郎 高校の軽音楽部で今のギターのくぬぎっち(くぬぎみなと)と男4人くらいで、半分コピーバンド、半分オリジナルみたいなバンドをやってたんですけど、自分たちの曲をやりたいなと思って、ベースの大森(遥)を誘ってエルモア・スコッティーズを始めました。ただ、結成した時はドラムを叩いてなくて、アコースティック・ギターとボーカルだったんです。ドラムは一個上の先輩に頼んでたんです。その先輩が受験やら何やらで「辞めたい」って言ってきて。それで3人になったタイミングで僕がドラムとボーカルをやる編成になりました。
―― 最初はどういう曲があったんですか?
岩方 (2017年発表のミニアルバム)『cashew』に入っている「花の色」という曲は結成初期に3~4曲くらいまとめて作った曲の中の1曲ですね。ああいう感じの曲が多かったですね。弾き語りで成り立つ曲っていうのを意識していて、バンドでアレンジする段階で方向性を決めていました。
―― NITRODAYやbetcover!!でもドラムを叩いていて、多彩な音楽性を示していますが、元々の音楽的指向は弾き語りで歌えるような曲なわけですね。
岩方 元々パンクっ子だったので、実は好きな音楽をそのままエルモア・スコッティーズでやっているわけでもないんです。
―― あ、そうなんですか? お父さんのハードコア・パンク・バンドでドラムを叩いていたのは知っていましたが、自身もパンクが好きだったとは知りませんでした。
岩方 僕、パンクっ子でした。コピー・バンドをやってた頃は「盆地で一位」っていう野性爆弾のくっきーがやってたパンク・バンドの曲をコピーしてましたから。それこそブルーハーツとかもやってました。
―― だけどその片鱗はエルモア・スコッティーズの楽曲にはないですよね?
岩方 そうなんですけど、実は小学生の低学年の頃からハードコアのライブに連れて行かれてて、中学生くらいの頃までは父親に勧められたハードコアばかり聴いてました。
―― どんなバンドを聴いてたんですか?
岩方 G.I.S.M.とかあぶらだことかを聴いてて。
―― それはすごいですね。僕らのようなパンクのリアルタイム世代が聴いていた音楽ですよね。
岩方 中学に上がるちょっと前くらいにブルーハーツを初めて聴いて。中学の時は銀杏BOYZとかを聴いてましたね。
―― そういう音楽体験をしてきた人が自分で曲を作ると全く違うタイプの曲になってしまうという。それはどうしてなんですか? 普通、パンクが好きだったらオリジナル曲もパンクっぽい曲になると思うんですが。
岩方 人間性的なところで「自分はパンクじゃないな」って思っていて。初めて曲を作った時に「俺はパンクはできないし、叫べない」と思ったんですよ。
―― いきなりすごい話ですね(笑)。だけど、叫べないけど叫びたいという欲求はあったんですね。
岩方 そりゃ小学生の頃からパンクを聴いて育ったらそういうものだと思います(笑)。
―― 本当はパンク・バンドがやりたかったんですね?
岩方 そう思ってはいたんですけど、無理でした。自分で曲を作り始めて、パンクは作れないなと思いました。
―― なぜ作れなかったんでしょう?
岩方 いざパンクを作るとなると恥ずかしくなっちゃうんです。自分がパンクをやるのに馴染まないというか。聴くのは好きだけど。
―― 自分自身の性格には合わない、みたいな?
岩方 そうですね。
―― まともな人間性の持ち主ですからね(笑)。
岩方 僕、まもともなところがコンプレックスなんですよ。
―― はははははは。
岩方 父親に教えられたバンドを映像で見て、そこに出てくる人たちに比べて、僕はすごくノーマルな人間なんだと思いました。
―― すごい話ですね。
岩方 ノーマルな人間なのに頭がおかしいふりをするのは恥ずかしい、みたいなこともあって。
―― どうしてもその領域には行けなかったわけですね。
岩方 行けなかったんですね。
―― だったら、パンク・ロッカーになりきれない自分自身を正直に表現するしかない、と?
岩方 そういう感じになりましたね。
―― エルモア・スコッティーズの歌詞もパンクのようにストレートに核心を表現するんじゃなくて、文学的な技巧がほどこされていますからね。
岩方 ストレートなことを言うのがちょっと恥ずかしいっていうのがあって。(忌野)清志郎さんが歌っているような「~だぜ」っていう口調も、聴くのはいいですけど、自分で言うのが恥ずかしい。今回の「雲」の歌詞みたいに「ダーリン」や「忘れてないぜ」等のフレーズが照れずに歌えるギリギリのラインですね。内容に関しては、何の意見も持ってないっていうことはないんですけど、知識がない状態では政治的な歌詞は書けないし。書いたとしてもたぶん浅くなるだろうし。だったら自分が手の届く範囲のことしか歌わないようにしようと思いました。それをいろんな言葉に隠して歌ってる、みたいな。
―― そうなるともはやパンクは参考にならないわけで、作詞に関して、誰かに影響を受けたというのはあるんですか?
岩方 会話の中で誰かが言ったちょっとしたフレーズが心に残って歌詞になったり、中学生の頃に読んでいた知り合いのバンドマンのブログに影響を受けたりとか。生活の中で起こった様々な出来事が重なって一つの曲になっていることが多いですね。なので、この歌詞をこういう歌い方をしたらあのことにもこのことにも当てはまる。すると複数人に向けた曲になる、みたいなことを考えながら書いてます。
―― 歌を意識して書いているんですね。以前から人前で歌っていたんですか?
岩方 バンドを始める前までは人前で歌ったことがなかったんですよ。
―― それは意外ですね。
岩方 カラオケも嫌いだったし。中学生の時にハイスタが好きだった時期があって、「ハイスタはカラオケが嫌い」という記事を読んで、俺もカラオケに行かないようにしよう、みたいな(笑)。「カラオケで歌うなんてロックじゃない」という変なこだわりがあったので。
―― バンドでは人前で歌わないといけないわけですが。
岩方 人前で歌ったことがなかったから、いざ、バンドで歌ってみた時に、歌を歌う時の音域ではなくて、地声で喋っているようなすっごい低い声で歌って。その状態で無理やり大きな声を出そうとするから、全然、声が通らないし、喉を潰すし。
――一から模索していったわけですね。
岩方 本当に一からですね。最近やっと自分の気持ちと声と歌が追いついてきた感じがします。
―― 他にボーカリストを立てるっていう方法もありますが、それをやらなかったのはどうしてなんですか?
岩方 曲自体が私的なものが多かったので、他人に歌わせるのは恥ずかしい、みたいな。
―― その「恥ずかしい」っていう感情がクリエイティブの起点になっているんですね(笑)。
岩方 恥ずかしがり屋なんですよ(笑)。
―― そんな中、2017年には6曲入のミニアルバム『cashew』(カシュー)をリリースしました。
岩方 高校を卒業してみんな大学に行くんだろうなと思ってたので、いつまでこのバンドを続けられるのかわからなかったんですけど、くぬぎっちは一回、音楽系の専門学校に進んだんですが、ベースの大森は大学も受けないって言うし、「じゃバンドでやっていくか」みたいな感じになって。「とりあえずCDを作るか」みたいな感じで、手元にある曲をノリで録ったみたいな感じですね。それなりの意志があって作ったっていうよりも「ちょっと作ってみようよ」みたいな感じで作りました。
―― それにしてはいい作品に仕上がりましたね。
岩方 そうですね。曲は今聴いてもいいなと思います。今も「太陽と月の唄」とか「花の色」とか、あのアルバムに入っている曲はライブでやっていますからね。もちろんテクニックや音へのこだわりだったりとかは全然甘いなあっていうのはありますけど。
―― くぬぎさんの手の病気もあって、2018年12月にギタリストが一人増えて、今は4人で活動しているんですよね。
岩方 4人バンド、いいですよ。楽です(笑)。
―― 4人バンドのメリットは?
岩方 例えば、「このフレーズが欲しい」という時に「コードも欲しい」となった時に、今までは3人でまとめるために模索する時間がすごく必要だったんですけど、4人になったことでそれも簡単にできるし、自分の中で思い描いていたもの以上の音楽が表現できるので、ライブも全然やりやすくなりました。
―― 今作の「雲」が4人になってからの初めての音源なわけですが、2017年の『cashew』以降、音源を作らないまま2021年まで来たのはどうしてなんですか?
岩方 僕自身、NITRODAYとbetcover!!の活動もあって、エルモア・スコッティーズの音源を作るタイミングがなかったんです。NITRODAYのレコーディングが終わったらbetcover!!のワンマンが控えてて、betcover!!のワンマンが終わったらNITRODAYのリリースがあって、みたいなことがずーっと続いて、リリースやレコーディングやライブが2ヶ月ないってことがなくて。だからエルモア・スコッティーズに全然集中ができませんでした。その間、エルモア用の曲は書いてはいたんですけど、NITRODAYとbetcover!!がガッツリ忙しかったので仕上げる余裕がなくて。すごくゆっくりなペースで1年に3曲くらいしかできませんでした。ライブも全然やれてなかったですし。
―― そんな中、ようやく新しい音源「窓」と「polyp」を配信リリースして。
岩方 4年ぶりになりますね。
―― この2曲をレコーディングしようと思ったのは?
岩方 2020年の4月にジュラシック・ボーイズとぜったくんと僕の兄がスパイシー坊やっていう芸人をやっているんですけど、その4組で自主企画イベントをやる予定だったんです。ところがコロナ禍になっちゃって、緊急事態宣言も出たので延期したんです。そのイベントがなくなったので「じゃ久しぶりにレコーディングでもするか」みたいな感じになって。ちょうど1曲目の「雲」っていう曲ができた時期だったので、どうしても「雲」を録りたかったということもあってレコーディングすることにしました。
―― じゃ「雲」はレコーディングの直前にできたんですね。
岩方 そうですね。レコーディングするちょっと前ぐらいにできて。本当は延期になった自主企画イベントの時にやろうと思ってたんですけどね。
―― いい曲ですよね。
岩方 ありがとうございます。
―― これはどういうきっかけでできた曲なんですか?
岩方 しばらく会っていない友達が何人かいて、バンドを一緒にやってた友達とかバンド仲間とか中学の時の友達とか、みんな変わっていないというか、意外と成長していないというか。ずっと同じところにいて、そこから出ようとしないみたいなのがあって。それに対する皮肉みたいなことからできてはいるんですけど。
―― なるほど。
岩方 それは同時に自分に対する曲でもあって、エルモア・スコッティーズで何もやれてない思いがあって、自分もそこから抜け出せてないところがあるので、そういうことが歌詞になっている気はします。
―― ミュージック・ビデオも頑張りましたね。
岩方 あれは奏くんっていう僕の一個下の子に頼んだんですけど。彼はBroke Down CarっていうバンドでVJをやってたんです。彼の作る映像がすごくよかったんで、お願いしました。実は彼がライブハウスで初めて見たバンドがエルモア・スコッティーズだったんです。僕がノルマ2万円とか払って出ていた高校生イベントに、たまたま奏くんが来てくれてたみたいで。
―― そういうご縁もあって。
岩方 それは後々知ったことだったんですけど、そういうつながりもあって、撮ってもらいました。「お金はないけど奏くんの映像が好きだからやってくれ」って言って、「もちろんです」みたいな感じで言ってくれて、めちゃ助かりました。
―― 本当にエルモア・スコッティーズの音楽にフィットした映像なんですよね。MVもそうですけど、エルモア・スコッティーズのロゴも含めて初期の頃よりもすごくバンドの世界観が固まりましたよね。
岩方 そうですね。音楽に付随する映像だったりデザインに最近やっと気持ちが向くようになって。いかに何もやってこなかったかっていうことにようやく気づいて(笑)。「やんなきゃ!」って。ロゴは僕の母方の叔父がイラストレーターをやっていて、コカ・コーラの昔のロゴとかいろんな企業ロゴを送って、「こういう感じで作ってください」って言って、返ってきたのがエルモア・スコッティーズのロゴで。あれ、なんかシンプルでいいですよね。
―― とてもいいロゴだと思います。曲の世界観も含めてエルモア・スコッティーズのイメージというか像みたいなものが固まってきましたよね。
岩方 そう思います。音楽に付随するものでの表現にアクティブになってきましたね。
―― それは自分が作る楽曲に対して自信が出てきたからなんじゃないですか?
岩方 そうなのかもしれないですね。曲に対してのイメージみたいなものが膨らんだ結果、音楽以外のところでもエルモア・スコッティーズを表現したいっていうのがあるのかもしれないですね。
―― 同時にバンドに対する自信とか余裕も前よりも出てきたように思います。
岩方 くぬぎっちが手の病気で休んだ時には「エルモア・スコッティーズはもうできないな」って一瞬思って。それで回復してくれて、4人でまたできるってなった時に、そこから僕の意識が変わった感じがします。他のメンバーもバンドに対しての気持ちが強くなったような気がします。
―― カップリングの「polyp」の遊び心というかアレンジの妙というか、こういうことも今まではやってきませんでしたが、今回は一歩踏み込んだ印象があります。これも今のエルモア・スコッティーズの前向きな気分を反映しているように思います。
岩方 これはbetcover!!をやっていると(ヤナセ)ジロウちゃんが思いもつかないようなミックスをするので、それにちょっと刺激を受けたっていうのもあって。
―― ヤナセさんのアレンジ力は尋常じゃないですからね。
岩方 ジロウちゃんとか僕の一個下なのに僕よりも全然音楽が詳しいし、自分が作れないような曲をいっぱい作ってくるし。曲を作るスピードも全然早いし。年下だけど影響を受けることもすごく多くて。「すごいな」って。
―― そういうことが「polyp」につながっていくんですね。
岩方 「雲」の方は僕の気持ち的に素朴に届けたいっていうのがあったので、遊ぶなら「polyp」かな、と。エンジニアさんと相談しながら作りました。
―― アレンジの方向性は頭の中にあったんですか?
岩方 井上陽水さんの「夢の中へ」を槇原敬之さんがカバーしてて、それを聴いた時にぶっ飛んでるなと思って(笑)、こういう感じでちょっとやってみようみたいなノリでやりました。
―― 2曲ともすごくいいですよね。相変わらずNITRODAYもbetcover!!も精力的に動いているわけですが、エルモア・スコッティーズの今後のビジョンをどう考えていますか?
岩方 くぬぎっちの手の病気などがあってから「エルモア・スコッティーズは一生続けたいバンドだな」と思うようになって。それを考えると、変に自分たちのキャパ以上のことをしたくないっていう思いが念頭にありつつも、ゆっくりでも時代に左右されない、良いものを作っていきたいですね。なんかNITRODAYとかbetcover!!に負けてらんないし。やっぱりちゃんと自分の言葉で表現するのって楽しいっていうことに気づいて。僕自身、他のバンドをやっていることで、それを再確認というか再認識できています。なので、これからは定期的にレコーディングして、常に活動を止めずにやって、グラミー賞を獲りたいですね(笑)。
© 2021 DONUT
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INFORMATION
「雲」
2020年3月3日(水)配信リリース
収録曲:1.雲
2.polyp
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