DONUT

2020.07.06 upload

betcover!! インタビュー

前回は映画を見るとか音楽を聴くとか、そういう感じで「聴いてください」っていう感じだったんですけど、今回はもっとライブをするような感じで「聴け」というイメージがあります
――ヤナセジロウ

昨年7月にメジャー1stアルバム『中学生』を発表して1年。ヤナセジロウのソロプロジェクト、betcover!!が2ndアルバム『告白』をリリースした。10代の彼がやりたい放題につくった前作は“自分のマスターピースのような作品”として完成したが、今作ではとくに歌への意識が高まり、歌い手としての目覚めもみせた1枚となった。とりわけアルバム冒頭を飾る「NOBORU」に宿るソウルは凄まじく、歌もサウンドも力強くストレートな1曲に。そして、アルバムを聴き進めるにつれ、聴き手に様々な情景を降らせ、心の灯をともしていく。<どうしてもいきたいのさ>という真っ直ぐな願いも、<僕はまたひとりだよ>と紡ぐ孤独も同居する本作。インタビュー中に彼の口からも“ロマンチック”という言葉が飛び出したが、今作がエモーショナルな感触をもちつつも優しく響くのは、ヤナセジロウのロマンチックな本質をより感じるからだろう。サウンド面ではバンドサウンドとしての一体感が増しているのはもちろん、「告白」のレコーディングでロマンチック☆安田(key/爆弾ジョニー)を迎えたことを機にバンドは3ピースから4ピースへ。ますます音楽宇宙を広げていくbetcover!!、ぜひ注目してほしい。

●取材・文=秋元美乃/森内淳

―― アルバムの完成おめでとうございます。これまでで一番エモーショナルで一番優しい作品になったように感じます。コロナ禍にある今ですが、このアルバムが届くことにすごく意味があるようにも思います。

ヤナセジロウ ありがとうございます。

―― まずはここしばらくの近況を教えてください。

ヤナセ 最近は何もせずに、ヤフオクとメルカリをチェックしていましたね。

―― 何のアイテムをチェックしていたんですか?

ヤナセ ビデオですね。今、VHSを集めているんですよ。周りの友達もVHSを集め出していて。レアなやつも安いんです。

―― ソフトが?

ヤナセ そう。デッキはハードオフで買ったりして。DVDではあまりないものも300円とか800円とかで買えるので重宝してます。おもに映画で、実相寺(昭雄)監督の作品とかをチェックしてますね。

―― そのブームはどこからきたんですか?

ヤナセ VHSしかない映画もあってそれを見るために買ってるんですけど、やっぱり箱が好きだし手間が楽しい。今は手間がなさすぎるじゃないですか。レコードを聴くのと同じで、その手間をかける感じも好きですね。あとはとにかく安いし。

―― そんな日々だったんですね。で、ついにリリースを迎えたアルバム『告白』ですが、手応えはいかがですか?

ヤナセ バッチリなアルバムができたと思います。前作『中学生』は自分のマスターピースみたいな作品だったんですけど、また違う切り口で新しいことがたくさんできたので、楽しく作れました。自分で聴いてもワクワクしますね。

―― こういう手触りのアルバムにしようというのは予めビジョンがあったんですか?

ヤナセ はい。『中学生』ができた時から次はこういう感じにしようって。とっちらかったようで、一本筋を通したような、というか。もっとJ-POPに寄せた作品を作りたいなと思って。

―― メロディと歌のアルバムですよね。

ヤナセ そうです。前作よりもそこをすごく意識しました。曲というより“歌”という意識に変わって、もっと歌で頑張ろうと思った。

―― アコースティックのヤナセさんのライブのイメージを、betcover!!として昇華した感じはしますよね。

ヤナセ その感じですね。それをやりたかったんですよ。

―― 1曲のなかでも歌声に激しさや優しさが同居していて、歌い手としての多彩な表情が見えました。その辺りはボーカリストとして意識はしましたか?

ヤナセ 意識しましたね。前回はアルバム全体を通しての印象で、歌も楽器みたいにという作り方をしたんだけど、今回は新しい表現方法として試してみたというか。せっかくレコーディングするんだから、デモの時みたいに小さい声じゃなくてガツンと歌おうというのもあったし。歌は大事にしましたね。

―― なぜそういう気持ちになったんですかね。

ヤナセ 『中学生』を出してから、尊敬するアーティストからいいって言ってもらえたりして、そういう人たちがやっぱり歌の人なんですよ。僕もちゃんと歌を頑張らないとと思って。

―― なるほど。

ヤナセ あと“和モノ”にしたかったんですよ。前回はわりと海外の音像を参考にしたんですど、今回はあまり海外の要素を取り入れなかったので、そういうところでも歌をはっきりうたうということに繋がってきたんだと思います。

―― 日本語でうたうことを意識したら、おのずとそういう作り方になったということですか?

ヤナセ 前回もそういうところはあったんですけど、歌を意識したのは前作よりもよりストレートなメッセージもあったので、外に向けた意思もあったと思います。

―― 歌詞のなかでも、ひとつ一つのフレーズが耳に残るのはそういうこともあるのかもしれないですね。

ヤナセ 前よりも馴染みのいい言葉を使うようにはしましたね。真っ直ぐな言葉にしようと思って。

―― そこの意識もあったんですね。

ヤナセ 絵本も好きで。とくに長谷川集平さんが好きなんですけど、わかりやすい言葉と絵の中にすごく深いものがあって。それで、絵の代わりに音を当てはめればそういうことができるだろうと。だからちゃんと自分がわかる言葉をつかって、他の人にも100パーセント理解してもらえる言葉づかいで歌詞にしようという気持ちがありました。

―― 前よりも届けたい、伝わってほしいという気持ちも高くなってるんですね。

ヤナセ そうですね、それもあります。そろそろ売れたいし。

―― でも、言葉がわかりやすくはなってもヤナセさんの詩の世界の完成度はブレてない。

ヤナセ そこはバランスをとってやりましたね。自分の中で満足できるように。

―― 今回もいい詩が並んでますよね。文学的だし。

ヤナセ あいかわらず本は読んでないんですけどね。なんか一箇所にいられないんですよ。読んでると乳酸たまってきちゃって(笑)。でもそろそろちゃんと読もうかな。

―― ははははは。今のこの言語感覚は映像作品からの影響が大きいんですかね。

ヤナセ どうなんですかね。でも映画とかしか見てないから、そうかも。

―― 歌詞では、触れ合いたいけどわかり合いたいたくない、というせめぎ合いというかもどかしさ。そういう面が前より濃密に描かれているような気がします。

ヤナセ そうかもしれない。そこにフォーカスを当てたところはあります。社会に向けたメッセージもあるけれど、今回はパンクの要素をそのままじゃなくて、もう少し優しい方向で考えたりしました。

―― 前回のインタビューで、『中学生』はやりたい放題の作り方をしたから次はポップなものを作ると言ってましたよね。ヤナセジロウ的ポップ・アルバムになったという自負はありますか?

ヤナセ 最初はポップ・アルバムとして作ろうと思ってたんですよ。でもやっぱりやりたいことをやっていたらポップじゃなくなってきた(笑)。だからまだポップのマスターピースではないですね。

―― なるほど(笑)。

ヤナセ 今回もやりたいことをやりました。

―― そうなると、ヤナセさんにとってのポップの落としどころはどんなところになるんですか?

ヤナセ レンジが広いことですね、僕にとってのポップって。大衆的な意味とは違うところで考えてます。そういうものの方が美しくなると思っていて。

―― 今回はシンプルになっている印象がありますよね?

ヤナセ そうですね。今回はサウンドで評価を受けようと思わなかったから。音が良くてもそれはエンジニアさんの力だなーと思ったりして。もっと自分でできることがあるはずで、それで勝負できないかなと思ったんですよ。もちろんチームとして動くのも大事ですけど、まず自分を追い込んで、1人でもやれるようにならないと。

―― そんな思いが。

ヤナセ 弾き語りをするようになってから思うようになりましたね。『中学生』の曲、自分では弾き語りでやってもよくないものがあって、バンド頼りになっちゃってたなと。だから今回は全部弾き語りでもできる曲にしましたね。

―― コンポーザーというか、シンガー・ソングライターとして独り立ちできるところを目指したんですね。

ヤナセ それができれば、新しくプロデューサーをお願いした時もやりやすいし。そういう部分で、意識するところを狭めました。

―― プロデューサー(小袋成彬)を迎えたのは1曲?

ヤナセ 「Love and Destroy」ですね。自分で考えつかないことができてすごくよかったです。今まではプロデューサーに頼むとか、絶対やりたくなかったんです。曲をいじられると思ってて。でも、理解してもらえる人にやってもらえれば違うんだなってわかりました。新しい感覚が生まれてくる。結局、最初とは全然違うものになったんです。

―― そうなんですね。

ヤナセ 最初はもっとテンポも遅くて、めちゃくちゃ暗い曲だったんですよ。でももっとポップにしたいと思っていたら、僕の知らない感覚の曲になって。すごく嬉しかった。

―― じゃあ今後も誰かにプロデュースを頼むというのはありそうですか?

ヤナセ 全然アリですね。(プロデュース)やってもらいたい。あ、メジャーでやるなら、ですけど。1人でやるならいらないです。

―― そうやって新しい武器を手に入れた感じはありますよね。

ヤナセ うん。またここからです。今回のアルバムがあって前作『中学生』があるのが面白くて。またこの次が、僕の中ではあるんです。そこへ順序立てて向かってる。

―― 今回は曲の分数も3分、4分、5分と通常で、前回みたいに9分、12分の曲はないですね。

ヤナセ そう。今回はロックな感じで。

―― そこも意識しましたか?

ヤナセ 意識しました。意識しないと長くなっちゃうんで、できるだけ短くと思って作りましたね。

―― ライブでも長くなりますもんね。

ヤナセ そう、結局ライブではまた長くなるけど。『告白』の曲もライブで聴いてほしいなぁ。

―― 今作の曲もライブで大胆に変わりそうですか?

ヤナセ はい。だいぶ変わってきますね。「Love and Destroy」とかまったく違うし。「告白」は合唱みたいになってるし。

―― へぇー。「失踪」とかも?

ヤナセ 「失踪」もパンクな感じになる。

―― でも、「Love and Destroy」という響きはヤナセさん自身を表しているような言葉ですね。作ったものをライブで壊す、という意味でも。

ヤナセ ああ、そうかも。面白いですね。

―― 「NOBORU」はライブで初めて聴いた時も衝撃でした。こんなにストレートなロックを手に入れたら無敵だなと。

ヤナセ うんうん、それを手に入れたかったんですよね。ストレートな楽曲で。

―― この曲がアルバム1曲めというのがまたグッときます。

ヤナセ 今回は前半の方がガーッときて、どんどん落ち着いて夜になっていくイメージですね。

―― 「NOBORU」を書けたことは、やはり手応えがありますか?

ヤナセ ありますね。毎回アルバムにつきなにか1曲ははっきりした曲があるんですけど、今回はアルバム全体をみてもそういう曲が多くなったかも。「Love and Destroy」「告白」「NOBORU」は、イメージがあって曲になった。前作はそれが「異星人」で。本当は「中学生」もそうだったけど、なんせ曲が長すぎてそこの枠には入らない。今回は3曲あるのが強みかな。あと、新しくバンドに安田さん(ロマンチック☆安田)が入ったからまた雰囲気が変わると思います。

―― どんないきさつで安田さんが入ったんですか?

ヤナセ キーボードを入れて、もっとロマンチックにしたかったんですよね。というか、単純に音が足りないところがあったし、バンドのサウンドとしても一歩進めたいなと。

―― なるほど。

ヤナセ メンバーともよくサウンドについて話すんですよ。もっと色々逃げずにちゃんとやりたいというか。わりと3人って、ああいう空気感でうまくいくんですよ。でももっと丁寧にやりたいと思って、キーボードを入れました。

―― 3人は3人で、プログレ的なアプローチの良さもありますけどね。

ヤナセ うん。でももっと先に行きたくなった。

―― 今出てきた“ロマンチック”という言葉はすごく腑に落ちるというか、キーワードになりそうですね。アルバムでは安田さんが参加しているのは「告白」だけですか?

ヤナセ そうです。他にキーボードっぽく聴こえるサウンドもあるのは、ギターの音を加工してますね。

―― そうなんですね。今回、よりギターの音色が豊かに聴こえたのはそれですね。

ヤナセ 前回はボロいギターを使ってチープな音で録ったんですけど、今回はわりとしっかりしたギターで録りました。「NOBORU」はとくにジャキーンって鳴るギターを使ってるんですよ。

―― シンプルなだけに、そういうサウンドがよく響いてくるんですね。歌とも呼応しているし。

ヤナセ うん。あと前回は広い場所でレコーディングして、ひとつ一つの音の粒立ちをよくしたんですけど、今回は全部の音でガッとくる感じ。

―― たしかに。

ヤナセ 前回は映画を見るとか音楽を聴くとか、そういう感じで「聴いてください」っていう感じだったんですけど、今回はもっとライブをするような感じで「聴け」というイメージはあります。

―― 意欲的な感じですね。でもどうしても見え隠れする孤独感はヤナセさんならではのもので。「Tokyo」という曲も、ヤナセさんの世界がすごく出ていますね。

ヤナセ 東京生まれの僕がつくった地元の歌ですね。

―― あとアルバム全体をとおして「NOBORU」から始まり、「さみしがりな星」「Love and Destroy」へとラストにかけていく流れもすごくいいですね。

ヤナセ 今回も曲順はすごく考えましたね。前回よりも聴きやすいように。心の情景描写に主人公がいるとしたら、だんだん日暮れとともに弱まっていく感じというか。最後に<ひとりだよ>と言って終わる。

―― やっぱり楽曲の根底にあるのは、先ほども出てきた“ロマンチック”というところにありそうですね。例えば、ここしばらくの身動きとれない日常のなかで、音楽の捉え方なり向き合い方なり、何か思うところはありましたか?

ヤナセ すごく音楽が好きだなと思いましたね。ないとダメだなって。なんか、コロナで自粛が始まった直後はまったく音楽を聴きたくない時もあったんですけど、気づけばやっぱりたくさん聴いてましたね。あとライブがしたいし、ちゃんとライブも見に行きたいと思うようになりました。音楽の捉え方は変わってないけれど、曲をつくりたい、ライブをしたいというのは強く思うようになったかも。でも全然曲を作れてないんですよね。

―― この期間に作りためていたわけではないんですか?

ヤナセ いや、あまり浮かんでこなくて。エンジニアさんがビビらせるんですよ、「22歳で才能は枯れるよ」って。あと1年しかない(笑)。

―― あと1年(笑)。次のアルバムの構想もあるし、そんなことはないでしょうけど。

ヤナセ まだ構想しかない(苦笑)。

―― 今作のジャケも素敵ですが、どんなイメージから?

ヤナセ ロボットの純真さですかね。ロボットの明瞭にして健気な感じというか。そういうのが必要な気がするんですよ。「告白」とかもそうだけど、無駄な勘ぐりよりもストレートに。そういうのが現れたかなと思ってます。

―― そのストレートさをヤナセさんが受け入れられたのは大きいですね。

ヤナセ はい。どちらかというと苦手だったんですけどね。でもストレートといっても、J-POPのストレートさとは違うところのストレートだし、前作ではちりばめていたことを、今回はメインに押し出せたと思います。

―― ライブも普通にできるようになるといいですね。

ヤナセ はい。本当に、ライブがしたいですね。

© 2020 DONUT

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INFORMATION


2ndアルバム『告白
2020年7月1日(水)リリース
収録曲:1. NOBORU/ 2. Tokyo/ 3. こどもたち/ 4. 告白/ 5. さよこ/ 6. 家庭のひかり/ 7. 失踪/ 8. Jungle/ 9. さみしがりな星/ 10. Love and Destroy
配信サイト一覧:https://avex.lnk.to/KAKUHAKU


※ LIVE INFORMATION は公式サイトでご確認ください。


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