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映画『カセットテープ・ダイアリーズ』(Like It〜Editor's Choice)

2020.3.19 upload



映画 『カセットテープ・ダイアリーズ』
監督:グリンダ・チャーダ/出演:ヴィヴェイク・カルラ、クルヴィンダー・ギール、ミーラ・ガナトラ、ネル・ウィリアムズ、アーロン・ファグラ、ディーン=チャールズ・チャップマン、ロブ・ブライドン、ヘイリー・アトウェル、デヴィッド・ヘイマン他/配給:ポニーキャニオン/4月17日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ 他全国ロードショー/原題:Blinded by the Light/©BIF Bruce Limited 2019


音楽が心の扉を開ける瞬間を描いた作品
舞台は1987年のイギリス。サッチャー政権下で吹き荒れる不況のなか、主人公ジャベドの父(パキスタンからの移民)も失業してしまう。それに追い打ちをかけるように国民戦線という極右団体が移民を追い出すための運動を展開。彼らの人種差別は大人だけではなく子どもたちにも浸透し、高校生のジャベドも不良グループから差別用語で罵られる。家庭内では厳格な父親との確執が常態化。自分の才能に自信を持てぬジレンマのなか、彼を取り巻くあらゆる抑圧に押しつぶされそうになったとき、ブルース・スプリングスティーンの音楽に出会う。歌詞の数々に激しく共感したジャベドは、歌詞を実践することで苦難を乗り越えようとする。原題の「Blinded by the Light」はスプリングスティーンのファーストアルバム『アズベリー・パークからの挨拶』の1曲めのタイトルだ。この映画が示すとおりに、音楽は人生を変える力を持っている。ぼくも、14歳のとき、ビートルズの音楽で心を囲ったすべての壁が吹き飛んだ。ジャベドのように人種差別による苦境に立たされた経験はない。しかし心のなかの風景は似たようなものだった。人ぞれぞれの立場で人それぞれの悩みや葛藤を抱え、ときとして、音楽が背中を押す。音楽ファンなら誰もが共感できると思う。あらゆる種類の「抑圧」から、スプリングスティーンの歌が主人公ジャベドを連れ出し、さらにはその向こうまで連れて行く。その瞬間を鮮やかに描いたのがこの作品だ。「音楽の魔法」なんていうちょっと恥ずかしい言葉をリアリティのある言葉に変えてくれる。ここ数週間のコロナ騒動のなか、スプリングスティーンのレコードをプレイヤーに置く回数が増えた。こういうときにこそ、音楽が必要なのだと感じる今日この頃、自分も「あのときのジャベド」になったような気分だ。ちなみに、4月3日に公開されるドキュメンタリー映画『白い暴動』を見ておくと、ジャベドが置かれた立場やこの映画のなかで起こる「事件」をより深く知ることができる。(森内淳)


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