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映画『白い暴動』(Like It〜Editor's Choice)

2020.3.12 upload



映画 『白い暴動』
監督:ルビカ・シャー/出演:レッド・ソーンダズ、ロジャー・ハドル、ケイト・ウェブ、ザ・クラッシュ、トム・ロビンソン、シャム 69、スティール・パルス他/配給:ツイン/4月3日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー/Photograph by Ray Stevenson


「ロック・アゲインスト・ザ・レイシズム」のドキュメンタリー
第二次大戦後、イギリスは労働力を補うためにたくさんの移民を受け入れた。ところが70年代に入って経済が停滞すると、移民に労働を奪われていると主張する者が現れ、そこから排外主義や人種差別が起こった。それを先導していたのが極右団体の国民戦線やネオナチの集団、ブリティッシュ・ムーブメント。政治家のなかにも彼らを支持する者が現れ、「イギリスは10年後に(移民の)植民地になる」と発言するロック・ミュージシャンまでも出てくる始末。この現象に危機感を感じた芸術家のレッド・ソーンダズが友人のロジャー・ハドルと共に立ち上げたのが「ロック・アゲインスト・ザ・レイシズム」(RAR)だ。彼らは、雑誌「テンポラリー・ホーディング」を創刊。社会問題と音楽を扱い、広く支持を集めた。この雑誌から派生するかたちでデモやイベントを仕掛け、極右の主張に抵抗する。RARに賛同したアーティストはザ・クラッシュ、トム・ロビンソン・バンド、999、セレクター、スティール・パルスなど。映画『白い暴動』は一見、ライブ・ドキュメンタリーのようにも思えるが、そうではなく、ソーンダズらがRAR創設へ至った経緯と、イギリスにはびこっていたレイシズムの実態、それに抵抗する人々を克明に描いたドキュメンタリーだ。当時のイギリスを取り巻く社会問題が見えてくるのと同時に、当時、パンクやスカやレゲエがイギリス社会でリアルに響いた理由が手にとるようにわかる。当時、ぼくは高校生で、彼らの音楽をリアルタイムで受け取っていたが、その背景を捕らえるまでには至らなかった。それでも楽しめるから音楽はすごいのだが、この映画を見ると、より深くスカやパンクの成り立ちを理解することができる。同時にこの映画は現代の病理をも映し出す。言うまでもなく、70年代のイギリス社会が抱えていた問題を、今、まさに世界が抱えている。今、このドキュメンタリーを制作し、公開せずにはいられなかった理由もそこにあると思う。1979年にサッチャー政権が誕生すると国民戦線は盛り返す。移民への差別は子どもたちへも悪影響を及ぼすようになる。その辺りのことは(映画のテーマこそちがえ)、パキスタンから移住してきた親を持つ青年の日常を題材にした映画『カセットテープ・ダイアリーズ』で描かれているので、『白い暴動』と一緒に見てもらうといいと思う。 (森内淳)


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