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2020.02.22 upload

貴ちゃんナイトVol.12 ライブ・レビュー
LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS/大木伸夫(ACIDMAN)/noodles
2020年02月08日(土)東京・下北沢CLUB251

●写真=俵 和彦 文=森内淳

2020年2月8日土曜日、下北沢CLUB251で「貴ちゃんナイトvol.12」が行われた。「貴ちゃんナイト」とはラジオ・パーソナリティの中村貴子が主催するライブ・イベント。第1回めは、彼女がパーソナリティをやっていたNHK-FM「ミュージック・スクエア」でオンエアしていた楽曲で構成した、リスナー主催のDJイベントだった。2回めから中村貴子自身がイベントを引き継ぎ、ライブ・イベントとしてスタートさせた。「貴ちゃんナイト」はリスナーが命名したイベント・タイトルだ。

現在、中村貴子はbayfmで「MOZAIKU NIGHT FRIDAY TAKAKO'S EDITION」を担当している。「貴ちゃんナイト」直前の放送には出演者がゲスト出演することもある。「中村貴子が見たい・聴きたいアーティストを呼ぶ」というイベントのコンセプトは「MOZAIKU NIGHT」のゲスト・ブッキングにも共通している。この日登場したLOW IQ 01は「MOZAIKU NIGHT」を始めてから好きになったアーティストだ。「ミュージック・スクエア」から出発したイベントも今は「MOZAIKU NIGHT」を中心に成り立っている。

「貴ちゃんナイト」には全国から中村貴子リスナーが集まってくる。このイベントが始まった当初は「ミュージック・スクエア」のリスナーが中心だったが、今はそうとは言い切れない。radiko(ラジコ)の普及によって、有料のエリアフリーの機能を使えばbayfmの番組も全国で聴けるようになった。番組は深夜2時という深い時間にオンエアされているが、それもタイムフリー機能で、自分の都合のいい時間に聴くことができる。一時期、ラジオは前時代的なメディアになろうとしていた。が、radikoの登場で将来性のあるメディアとして復活した。インターネットを駆使しているという意味で言えば、ラジオはテレビのはるか先を走っている。

言うまでもなく、ラジオは送り手と受け手の距離が近い。だから個対個の関係性を作り上げるイベントとの親和性も抜群だ。今、ラジオ番組主催のイベントやフェスが流行っていて、ほとんどが成功を収めている。「貴ちゃんナイトVol.12」のチケットは一般発売とともに即完した。もちろんLOW IQ 01、大木伸夫(ACIDMAN)、noodlesというベテラン3組のアーティスト・パワーによるところが大きい。が、それに加え、radikoによって復活したラジオとリスナーの関係性もイベントの成功に少なからず貢献したのではないか。

実際、この日も全国から中村貴子の番組のリスナー(通称:リスナーズ)がたくさん訪れていた。しかもこのリスナーズたちは出演者発表前にチケットを買っているのだ。「イベントが苦戦している」と言われているなかで「貴ちゃんナイト」には、たくさんのお客さんがやって来る。ラジオと共にあるイベントの強さ、ラジオの底力、そしてパーソナリティ中村貴子とリスナーズの理想的な関係性を、毎回、思い知らされることになる。

とは言え、そういう状況にあぐらをかかないのが「貴ちゃんナイト」だ。アーティストの組み合わせはもちろん、毎回共通のデザインのフライヤー、出演者の特製ドリンク、アンコールのセッション、最後の写真撮影、出演ミュージシャンが選曲する場内BGMまで、至るところに細かい演出が仕掛けてある。言ってしまえば、「たかがライブ・ハウスのイベント」。しかし、「貴ちゃんナイト」はそれを「されどライブ・ハウスのイベント」に変えている。しかもそれを定期で開催し、継続しているところがすごい。膨大なエネルギーが必要だ。例えば「アンコールでセッションしてください」とミュージシャンにお願いするだけでも大変だ。それで出演を断られることだってある。そういう数々のストレスやプレッシャーを乗り越えて、イベントを継続させ、「貴ちゃんナイト」というブランドを定着させたことに意義がある。継続は力だ。今や「貴ちゃんナイト」に呼ばれたい、と思うアーティストも少なくない。

この日のトップで登場したnoodlesのyoko(vo,gt)はMCで「貴ちゃんとは20年来の付き合い。ようやく呼んでくれました」と話す。前説で登場した中村貴子が「noodlesはずっと呼びたくて、ようやく実現した」と語っていたように、出演者の組み合わせやスケジュールの都合で実現に至らないアーティストも多い。 そのnoodlesが最初に演奏したのは「I'll be a sensitive band tomorrow」。「貴ちゃんとは20年来の付き合い」のきっかけになったのがDELICIOUS LABELから作品をリリースしたこと。現在はTHE BOHEMIANSやシュリスペイロフも所属しているが、そもそもは山中さわお(the pillows)がnoodlesのために作ったレーベルだ。「I'll be a sensitive band tomorrow」は、レーベル設立20周年を記念したオムニバス・アルバム『Radiolaria』の1曲めに収録されている曲。noodles、山中さわお、the pillows、中村貴子、そして90年代に「ミュージック・スクエア」を通してthe pillowsのファンになったリスナーズ……それぞれの歴史が交差している。



2曲目は2019年にリリースした最新作『I'm not chic』から「EBONY」。3曲めの「warning you」は2012年のアルバム『Funtime』からの選曲だ。セットリストを見てもらえばわかるが、この日は新旧織り交ぜての選曲となった。noodlesは自分たちが20年培ってきたオルタナティヴ・ロックを堂々と演奏。なかでも7曲めに演奏した、ヘヴィでエモーショナルな「She, her」が印象に残った。オルタナティヴ・ロックがアメリカの音楽シーンを席巻して20年以上が経つが、今も不滅。若いロック・バンドが出すサウンドのほとんどが影響下にある。その先駆として、リアルタイマーとして、オルタナを牽引してきた者としての自信と揺るぎない愛情が、ステージの上から伝わってきた。最後は前作『Metaltic Nocturne』からスピード感に溢れた「965」で会場を盛り上げた。



「貴ちゃんナイト」は毎回、バンドとバンドの間に、弾き語りのコーナーが入る。ソロで活動しているミュージシャンがパフォーマンスをすることもあれば、普段はバンドをやっているアーティストがソロとして登場することもある。今回は後者のパターン。ステージに登場したのはACIDMANの大木伸夫だ。ACIDMANはドラム、ベース、ギターのサウンドが融合し、分厚いサウンドを作り上げる。それがカタルシスの源流にもなっている。今回は、そのサウンドを脱ぎ、ギターと大木伸夫の声だけで楽曲が綴られた。これがめちゃくちゃよかった。大木伸夫のヴォーカリストとしての実力、ACIDMANの楽曲の芯にあるメロディの素晴らしさに圧倒された。

1曲めはACIDMANの「FREE STAR」。大木伸夫の歌声が会場を包んだ瞬間、心地よい緊張感が支配する。2曲めはメジャー・デビュー・アルバム『創』の代表曲「赤燈」。昨年、ACIDMANは『創』の再現ライブを行っている。ぼくが初めてACIDMANを見たのは渋谷O-WESTでのワンマンライブだ。ライブハウスで演奏する大木伸夫を見ていたら、そのときの光景が脳裏に蘇った。次にビートたけしが1993年にリリースした「嘲笑」のカバー。作詞は北野武、作曲は玉置浩二だ。「嘲笑」をカバーした理由は「この曲が星について歌われているから」。DONUTチームで編集した単行本『ロックンロールが降ってきた日』でも語られているが、大木伸夫は宇宙の成り立ちについて自分なりに探求、想像し、歌詞に反映している。「宇宙」や「星」は大木伸夫にとって「永遠のテーマ」なのだ。



次の「世界が終わる夜」ではルーパーを使ったイントロを持つ曲で、このイントロが連綿とつづいていく。大木伸夫は「あの宇宙との交信がなけりゃもう1曲やれたじゃないか」と自虐的にMCをしていたが、オーディエンスを置き去りにするリスクをとっても、大木伸夫にとっては大事なシーンなのだ。とは言え、幾重にもレイヤーが重ねられたイントロが突然途切れて、ギター1本の演奏から歌に入った時の美しさはこのステージのクライマックスだった。バンドに挟まれた大木伸夫のソロ・ステージだったが、バンドからバンドへの橋渡しでもなんでもなく、むしろメイン・アクトのようなインパクトを残した。



この日のトリを飾ったのはLOW IQ 01&THE RHYTHM MAKERS。今夜のメンバーはLOW IQ 01(b&vo)、フルカワユタカ(gt)、山﨑聖之(ds)の3人。フルカワユタカは前回の「貴ちゃんナイト」につづき、2回連続の出演だ。LOW IQ 01の「あ・ば・れ・ろ!」という掛け声のもと、1曲めの「Delusions of Grandeur」がスタート。「Hangover Weekend」「Snowman」を間髪入れずに披露。会場の温度が急激に上昇する。「貴ちゃんナイト」でパンク・バンドが登場するのは初めてのこと。パンク特有のカオスと熱狂。今までの「貴ちゃんナイト」では見られなかった光景が繰り広げられる。

しかしながらLOW IQ 01のパフォーマンスは闇雲な熱狂だけに支えられているわけではない。MCではオーディエンスを思い切り笑わせ、楽曲では激しさと楽しさとシリアスさを行き来させる。LOW IQ 01の人柄によるところも大きいが、彼らのステージには、ライブ全体から湧き出る楽しさや優しさがある。むしろ、そういう部分を高みに持っていこうとしているようにも見える。オーディエンスもただ激しさに身を委ね、暴れるのではなく、LOW IQ 01の人間性を引っくるめて楽しんでいるようでもある。



途中のMCでLOW IQ 01は「CLUB251のステージに立つのは約25年ぶり」と語る。25年前はSUPER STUPID時代で、お客さんも5人くらい、しかも野次が飛んでいたそうだ。1995年〜2000年くらいは、メジャー・シーンは活況だったが、インディーズ・シーンというかライブハウス・シーンはかなり落ち着いていた。そういう状況下でSUPER STUPIDのようなバンドが踏ん張ってきたからこそ、今日のロック・シーンがあると思っている。と言うか、パンクとストリート・カルチャーが融合することで「インディーズもメジャーもあんまり関係ない状況」の礎になった。そのLOW IQ 01がこの日のステージの最後に放ったのが「WHAT'S BORDERLESS?」。SUPER STUPID時代のナンバーだ。苦境をサバイバルしてここまでたどり着いた「記し」を25年前のリベンジの意味もこめて、CLUB251に刻んだようにも思えた。「貴ちゃんナイト」はこうやって、いつもいろんなドラマが起こる。



アンコール1曲めはnoodlesのyoko、LOW IQ 01、フルカワユタカによるブルーハーツのカバー「青空」。曲がきれいに決まるかと思いきや、LOW IQ 01が最後に「青い空のましたこのみ」とダジャレをかます。ぼくが今まで一番多くライブを見たアーティストはブルーハーツ。結成した年から解散する時までブルーハーツを見てきた。なので、ブルーハーツのカバーを披露されるとお尻のあたりがむず痒くなる。みんなリスペクトしすぎるのが居心地の悪さにつながっている。たかがロックンロールじゃないか! だから「青い空のましたこのみ」で、むしろ救われた気分になった。ブルーハーツの曲をこんな感じでいじってくれた方が、逆に楽しく聴ける。と言うか、「ましたこのみ」って何なのよ?って突っ込まれそうだが。



アンコール2曲めはLOW IQ 01&THE RHYTHM MAKERSと大木伸夫による「DISTANCE」。最後はLOW IQ 01 &THE RHYTHM MAKERSだけで「T.O.A.S.T」を決めて、イベントは終了した。なんでもLOW IQ 01と大木伸夫のセッションはARABAKI ROCK FEST.以来だという。逆に言うと、ARABAKIのような大きなフェスでしか見られないものが下北沢CLUB251で見られたわけだ。「貴ちゃんナイト」では中村貴子のリクエストで毎回、出演者によるセッションが披露されるが、今夜もまたレア中のレアなセッションを見られたわけだ。リスナーズ以外の、シンプルにnoodlesと大木伸夫とLOW IQ 01のスリーマンを見たくてやって来たお客さんにとっては予想外の展開だったにちがいない。これも、ラジオと、ラジオをこよなく愛する中村貴子やリスナーズの力なのだと思う。




© 2020 DONUT

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INFORMATION

貴ちゃんナイト Vol.12 セットリスト
「noodles」
M1. I’ll be a sensitive band tomorrow
M2. EBONY
M3. warning you
M4. Grease
M5. Buggy loop
M6. Ruby ground
M7. She, her
M8. Metaltic Nocturne
M9. 965

「大木伸夫(ACIDMAN)」
M1. FREE STAR
M2. 赤橙
M3. 嘲笑
M4. 世界が終わる夜
M5. Your Song

「LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS」
M1. Delusions of Grandeur
M2. Hangover Weekend
M3. Snowman
M4. Every Little Thing
M5. Thorn in My Side
M6. So Easy
M7. Makin' Magic
M8. Go
M9. Little Giant
M10. WHAT'S BORDERLESS?

EN1. 青空(オリジナル:THE BLUE HEARTS)LOW IQ 01・yoko・フルカワユタカ
EN2. DISTANCE(オリジナル:LOW IQ 01)LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS・大木伸夫
EN3. T.O.A.S.T(オリジナル:LOW IQ 01)LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS

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