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2020.02.05 upload

シュリスペイロフ インタビュー
素直に何かを表現するっていうことを最近はずっと考えていました。言葉もそうだし、曲もそうだし
――宮本英一

シュリスペイロフが2年半ぶりの新作『遊園地は遠い』を2020年2月5日(水)にリリース。今までの作品のなかで一番ロック色が強く、かつポップでもある。この傾向は前作でも徐々に頭角を現していたが、本作はその決定版となった。1曲目の「つまんないね」のイントロのギターリフが始まった瞬間、シュリスペイロフが90年代のオルタナティブ・ロックの核を持ちながら、そこにとどまるのではなく、より広い円周の軌道へと移行したことがわかる。最後の曲「Daydream old dog」が終わるまで鳴り響く力強いバンド・サウンドは「いいバンドだけど、マニアックだね」的な評価を超え、おおくの音楽リスナーの心の奥底に眠る「ロック」を振動させる。スローな「絵と空の事」も宮本英一の感性が紡ぎ出す美しいメロディをストレートに表現した楽曲に仕上がっている。オルタナティブなギミックはこのバンドにはもはや無意味なのかもしれない。宮本の感性やバンドが紡ぎ出すサウンドに素直になれば、勝手にオルタナティブ・ロックとして昇華する。――シュリスペイロフはそういう段階にまで来たのかもしれない。

●取材・文=森内淳

―― 新作『遊園地は遠い』は2年半ぶりなんですね。

宮本英一 そうですね。気付いたら2年半経ってたという。プライベートなことなんですけど、仕事で北海道に行ったりしていて。それで今までのバンドの制作リズムが完全に狂ってしまったんですよ。一応、苫小牧でもギターで曲を作ってはいたんですけど。それを東京に持ってきたときには、もうライブが迫っていて、新曲をバンドで合わせられないまま、ライブをやって、また苫小牧に行く、みたいな。

―― そうやって2年半の時間が経ってしまったんですね。

宮本 バンドとしては月1回ライブをするだけの活動になってたんです。新曲を完成させるにはアレンジも削ったり増やしたりっていうのもけっこうあるんで。その次に、プリプロにプロデューサーの(山中)さわおさんと入って、そこでも「ここ、もうちょっと削れるんじゃないか」とか「Cメロを作ってきた方がいいんじゃないの?」とか、そういうアドバイスがあって、出来上がっていくという感じですね。しかも歌詞もけっこう時間がかかるんですよね。

―― それを考えると、北海道との行き来は新作にとってはなかなかのハードルになってきますよね。

宮本 最初、東京と北海道を行ったり来たりするのを軽く考えてたんですよね。余裕で新作ができるくらいの感じだったんですけど、けっこう大変で。そうこうしているうちに「このままじゃ新しいものを見せられないなあ」と思って、そのルーティンを無理やり変えました。

―― よりバンドに軸足を置くんですね。

宮本 苫小牧の親父に「仕事を手伝ってくれ」って呼ばれているのを「ちょっとごめん、今回は行けない」って言って、こっちで新作を作って。ひと段落したら苫小牧に行って、短い間だけ働いて、また「ごめん」って親父に言って、東京に帰ってきて曲を作って、みたいなリズムに変えていって。そうしているうちに2年半が経ってしまいました。そうですね。ぼくもさわおさんもこんなに時間が経っているとは気付かなくて。「お前、2年半ぶりなのか?」って言われました、こないだ。「いいアルバムだけど、2年半あれば、普通、いいアルバムになるよ」って(笑)。

―― その2年半ぶりの新作『遊園地は遠い』ですが、メロディはポップでサウンドはよりロックになっているんですが、これは最初から意図していたんですか?

宮本 ぼくはコードの響きとかを大事にしてるんですね。例えば「これ、面白い響きだなあ」っていうところから曲が出来上がってくることが多くて。「この響き、面白いなあ」っていうのから始まると、けっこうややこしいコードが続いていく感じになるんですよ。今回は、さわおさんに「パワーコードで曲を作ってみたらどう? 単純にパワーコードでズバッといく感じのサウンドでやってみたくはないの?」って言われて。さわおさんと飲みに行くたびに、そんなような話が出てくるんですよね。それで「次、作るときにはチャレンジしようかな」と思ったんです。やった結果がこういうロックっぽい感じの作品になったんだと思います。(1曲目の)「つまんないね」からパワーコードで作り始めました。

―― プロデューサーからのサゼスチョンは素直に受け入れられたんですか?

宮本 今までと同じことをやり続けていても、たぶん面白いことにはならないというのがずっとあったので「やってみようかな」って。実際、今回のアルバムのために作った曲も「A→B→サビ」みたいに曲の構成が単純になっているものが多くて。ぼくもCメロを入れること自体に飽きてたんですね。やりたくないことが一個できちゃってて。そんな感じだったですね。なかには、さわおさんに「この曲はCメロを入れた方がいいよ」って言われた曲もありましたけど。とはいえ、メインになる曲は今までのやり方で作ったものになるだろうと思ってましたけど。パワーコードで作る曲が何曲かあって、メインは今までのようにちょっと難しいコードになるだろうと思ってたんですけど、そうはならなかったですね。

―― 今回やろうとしたサウンドに対してバンドとしてはどういうふうにアプローチしていったんですか?

宮本 作っている最中は、ベースの野口(寛喜)はほとんど喋らないんで、黙々とやっている感じで。ギターの澁谷(悠希)くんは「この曲はどういう方向性ですか?」っていうのを先に聞いてくる感じで。ドラムのブチョーはぼくが言うことを聞いて叩いてみて「ちがうなあ」みたいなやりとりがあって。ぼくはブチョーに「今までとちがう感じの浮遊感がほしい」とかけっこう曖昧なことばかりを言ってたんですけど。ほんと「何、言ってんだ?」って感じなんですけど(笑)、とりあえずやってみて「ああ、それ、それ!」みたいな感じでやっていきました。それで、こういうドラムってわかったら、みんながそれに合わせてくる感じでした。ドラムとぼくのやりとりのなかで、ベースとギターが合わせて、イメージを広げていきました。

―― それにしてもギターの音が気持ちいいですよね。弾きっぷりがいいというか。それが楽曲のイメージを決定づけているようにも思います。

宮本 たぶんレコーディングに対して構えていた部分がどんどんなくなっていって、自然な演奏ができるようになったんだと思います。このアルバムの最後の曲の「Daydream old dog」は、さわおさんに「こんな曲、作ってみたらどう?」って、何を聴かされたのか忘れたんですけど、バーっと曲を流されて、「じゃやってみよう」って言ってやった、そのときの録音そのままなんですよね。それがすごく楽しかったんですよ。最後、ギターソロをぼくと澁谷くんでやるんですけど、そのときもすごく笑って、遊んでるみたいな感じでやってて。レコーディングに対しても遊べる部分が少しできたのかもしれないですね。

―― そういう意味では、今作はライブ映えしそうな楽曲ばかりですよね。

宮本 以前はライブのことを意識して作ったことってあんまりなかったんですよね。だけどこのアルバムを作ってるときって、パワーコードで作ってるということもあって、ライブを意識しながら作ったような感じはありますね。クリックで録っていく作業も「ここからはクリックを消して自由にやろう」とか、そういう工夫みたいなことをやりました。それも、さわおさんから「こうしてみたら?」と言われて、それをやってみたら上手くいって「自然に録れたなあ」って。

―― 宮本さん自身、そういうモードになっていたんですか?

宮本 音楽でも自分の生活でも自分が発する言葉とか自然に自分が思ったことを言いたいな、と思ってて。メンバーに対しても、以前よりも自然に接せれるようになったというか。例えば「野口ってこういう演奏は嫌がるかなあ」とか思って言わなかったこととか昔はあったんですけど、最近は「野口、こういうのをやってみない?」と言うと、「やろうか」みたいな。「こいつは言えばやる奴なんだな」って思ったりして(笑)。「ブチョーはもうちょっとこうしたほうがいいんじゃない?」とか。なんか衝突を恐れずに自分の意見を言ってみたら、むしろ、みんな仲良くなって。なんかそういうのでちょっと意識が変わってきたかもしれないですね。

―― この作品からはバンドがものすごくタフになった印象を受けますよね。ストレートなロックを聴いてきたリスナーの琴線にも触れる作品になったような気がします。

宮本 ありがとうございます。最近はライブも、自然に動いていたほうが自分らしいなと思っていて。もしかしたらまわりの人からすると笑えることかもしれないけど、それが楽しいというか。そうやって素直に何かを表現するっていうことを最近はずっと考えていました。言葉もそうだし、曲もそうだし。

―― ということは歌詞の書き方も変わったということですか?

宮本 note (https://note.com/garigari0803)に短編のお話を書いていて、小説とも言えないものなんですけど。歌詞を書くときって、この言葉は使えないな、とか、そういう迷いみたいなものがあるんですけど、物語の文章って自由じゃないですか。物語を書くことで言葉を探しながら、歌詞に移植するとか、そういうのもありました。あと、新しい作品を出したいっていうフラストレーションもあったと思うんですよ。「俺ら、新曲を作ってないじゃん」みたいになったときに「何かを変えたいな」という気持ちがあったんですよね。それから、今回は歌詞をずっと外で書いてました。無心になれるような感じで。ぼくはすごくいろんなことを悩んでしまうので、とにかく集中して、自分の素直な言葉が出るような状態で書いてました。

―― そういう歌詞の書き方をするのは初めてだったんですか?

宮本 そうですね。いつもは歌いながら書いているんですけど、今回は頭のなかで曲を鳴らしながら書いていきました。その作業って、2時間くらい、ベンチとかじゃない、花壇の縁石のようなところに缶ビールを置いて、そこに腰掛けて書いたんですよ。世の中とは馴染めてない感じで、髭もじゃもじゃで。世の中の行き詰まっている感じとかを肌で感じながら、自分も行き詰まってるという気持ちで書いてました。「ビールを買ったけど、金もないから2本目は買えないな」とか思いながら、毎日、毎日、苫小牧の親父に「仕事を手伝えなくて、ごめんね」と言いながらやってましたね。

―― それが日常になっていたんですね。

宮本 そうですね。ずっとやってましたね。「またいるよ、あいつ」みたいに思ってる人もいたんじゃないかな。誰かぼくのこと、あだ名を付けてたかもしれないですね。ぼくとしては、そのときだけはなんか夢中になってるっていうか。バンド以外つまんないと思っていて、全部放っておいて、音楽だけを考えたいっていう感じですかね。音楽をやることだけが楽しいって感じというか。そういう時期がちょっとあったんですよね。だから、なおさら集中できたというか。

―― 出来上がった歌詞を自分なりに評価すると、どうなりますか?

宮本 例えば「音楽でメシも食えてないけど頑張ろうぜ」ってときもあれば、「メシも食えてないしさあ」っていうときもあって。ポジティブに捉えれば捉えられるんですけど、そうやって捉えられない時期っていうのが長くて、そのなかで歌詞を書いていて、タイトルも『遊園地は遠い』なんで、たどり着きたいところにもたどり着けないような歌詞が多いような気がします。何か足りない人が多かったり、そういう世界ばかりを書いたような気がします。

―― もどかしさを歌詞で吐き出そうという、そういう気持ちもあったんですか?

宮本 「それをぶつけてやる」みたいな感じではないかなぁ。こういう人がいて、こんなことがあって、というように、言葉が滲み出たような、そんな気がします。

―― ただ不思議なことに、この作品に悲壮感はないんですよね。湿っぽくないというか。

宮本 『そうして私たちはプールに金魚を』っていう映画があるんですけど、テレクラで男を呼んで、遠くから見て、バーカ、バーカって馬鹿にして逃げてくっていうシーンがあるんです。はしゃぎながら逃げていくんですけど。そこで「あー、つまんないね」って女の子が言うんですよ。すごく楽しいシーンなんですけど、つまんないなって思ってるっていう。それが最初に思い描いた歌詞の世界観だったんですよね。そういう意味では悲壮感は漂ってはいないとは思います。例えば、「つまんないね」の歌詞は、歌詞を書く場所を探し歩いて、まわりの人から見れば「こんな時間に何をしてるんだろう?」みたいな。「まだ日が明るいのに、あそこに座ってビールを飲んで、iPhoneをいじってるけど、あの人はなんだろう?」みたいな。なんかゾンビみたいだなって。

―― ということはそんな宮本さんをも俯瞰で見ていた宮本さんもいたわけですね?

宮本 そうですね。

―― その視点があれば物事を対象化できるというか。だから湿っぽい感じにはなっていないのかもしれませんね。

宮本 そうかもしれないですね。

―― そこまで俯瞰できている宮本さんはむしろ強いっていうか。それがサウンドと相まって、タフな印象を作っているような気もします。この2年半でいろんな心の動きがあったんですね。

宮本 ほんと気付かないまま過ぎていった、短い2年半でしたけどね。

―― その間、バンドもタフになったような気がします。

宮本 ライブ・パフォーマンスも面白くなってきましたね。まぁライブ・パフォーマンスって言うほどのパフォーマンスはしてないですけど(笑)。

―― 宮本さん自身がよりバンドを欲するようになっているというか。シュリスペイロフを欲するようになっているというか。

宮本 たしかに。シュリスペイロフを欲するっていうのはいいですね。面白いですね。メンバーと一緒に演奏しているのが今は楽しいですね。

―― 2020年3月1日からアルバム・ツアーを福岡・岡山・岐阜・名古屋・大阪・東京・札幌でやるんですね。

宮本 前半(福岡・岡山・岐阜)はカサブランカと一緒にやるんですけど。

―― 「遊園地は遠いツアー」ですが、そう言ってないで、ぜひみなさんには来て欲しいですけど (笑)。

宮本 そうですね(笑)。「遠かったでしょ?」っていう感じで(笑)。

―― どんなライブになりそうですか?

宮本 最近のライブであんまりやってない昔の曲がわりと増えていて。こないだ50分くらいのライブがあって、何をやろうかと思って、いろいろ調べたら「こんなにやってない曲があるのか!?」っていう。最近やってない曲の表を澁谷くんが作ってくれたんですけど「この曲とこの曲はジャンル感が似ている」とかいう理由とかで、けっこうやってないんですよ。次のツアーはアルバムの曲をやるのはもちろんだけど、最近やってない曲をアレンジして加えたら楽しいかなって思ってます。

―― 昔の曲は今作の雰囲気に寄せるんですか? それともそのままやるんですか?

宮本 ちょっとちがうアレンジにできたらいいな、とはぼんやりと思っているんですけどね。アルバムに寄せられるかどうかわからないですが、ライブを通して一個の世界を作れたらいいかなと思っています。ワンマンとかはとくにいろいろできることがあると思うんで。なかには嫌いな曲とかもあったりするんですけど。嫌な思い出がくっついている曲とかあるんですけどね(笑)、なんか面白くちょっと変えたりしながらやりたいなと思っています。

―― 嫌な思い出の曲もやる、と(笑)。

宮本 そうですね(笑)。

―― それを面白くやってこそ今作のシュリスペイロフとつながっていくかもしれないですね。

宮本 そうですね。

―― 「嫌な曲でもやれるんだ、今のシュリスペイロフは」みたいな。

宮本 そうですね。うん。

―― 「それをも俯瞰して楽しめるんだ」みたいな。

宮本 そうですね。「やるんなら、今だぜ」っていう。それを見せられればいいですね。

© 2020 DONUT

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INFORMATION


シュリスペイロフ『遊園地は遠い』
2020年2月5日(水)Release
01. つまんないね/02. 愛は不健康/03. カールフリードリッヒの時間旅行/04. ハミングバードちゃん/05. あそぼ/06. 絵と空の事/07. 孤立した街/08. feel empty/09. 着地/10. Daydream old dog


※ LIVE INFORMATION は公式サイトでご確認ください。


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