2019.12.09 upload
THIS IS JAPAN インタビュー
イズムとしてオルタナティヴはつづいていくけど「ギターが2本で歪んでいればオルタナなのかよ?」っていう話になると、どうなのかな、と
――杉森ジャック
2019年11月 27日、THIS IS JAPANが3rdEP『WEEKENDER』をリリース。EP発売に先行して公開されたミュージック・ビデオ「グルメ」はギターを持たずにボーカリストとしてパフォーマンスする杉森ジャックの姿が映し出されていた。これまでTHIS IS JAPANは小山祐樹とのツイン・ボーカル、ツイン・ギターというスタイルを軸にしてきた。今年のライブでは杉森がギターを置いて、ハンドマイクで歌う場面も見られるようになっていたが、そのスタイルを前面に押し出したのが「グルメ」の映像だ。この映像からはスタイルの変化だけではなく、今まで蓄積してきた経験を糧に次のレベルへ上がろうとするバンドの決意が立ちこめていた。その決意の正体が『WEEKENDER』という作品のなかにある。THIS IS JAPANがロック・バンドとしての可能性を探った末、新たなスタート地点に立ったことを示す内容になった。今回はここに至った経緯を杉森ジャック (vo,gt) 、小山祐樹 (gt,vo) 、水元太郎 (ba) 、かわむら (dr,cho)に訊いた。このインタビューの後、THIS IS JAPANのメジャー・デビューが発表された。
●取材・文=秋元美乃/森内淳
―― THIS IS JAPANの最近の大きな変化といえば、杉森さんがギターを弾かない曲が増えてきたということなんですけど、これには何か理由があるんですか?
小山祐樹 4人で『FROM ALTERNATIVE』を作り終わって「次はどうしようか?」みたいな話をしてるときに、ドラム、ベース、ギター2本というところからもう一回チェックしてみたんですね。そのときに「ギターが本当に2本いるのかな?」というふうに考えた結果、「1本の方がスッキリしてていいんじゃないか?」みたいな話も出たんです。逆に杉森さんは自由にさせて、ライブも動きを増やしていくと、面白いことができるんじゃないかなっていう話の流れからですね。
―― 杉森さんも同じ意見だったんですか?
杉森ジャック とはいえ、全く弾かないわけではないので。ギターを弾かない曲があることで、あらためてギターが好きなんだな、と思うようになりました。離れてわかる大切な人みたいな(笑)。だから、ライブでここぞというときにギターを弾くと上がりますよね。前よりもすごく上がるようになりました。
小山 楽曲として一回音圧を下げてみて、そこから杉森さんのギターが爆発して上がるっていう方が勢いが出るんじゃないかっていう話だったんですよね。
―― 前作は爆音で振り切ったような性格の作品でしたが、ということは、楽曲に向かう気分やモードが変わってきたということですか?
小山 そうですね。
かわむら 今回のEP『WEEKENDER』に収録されている曲を作り始めたくらいからそうなりましたね。ただ、それは「変えていこう」っていう意思よりも、サウンドありきの変わり方だったんですけれど。例えば前作とか、ギター2本で、とにかく振り絞ってやろうっていうところから、一回、自分のやりたいことを整理した方が、言いたいことをすっきり言えたりとか、やりたいことがすっきりやれるっていうのに気付いていったというか。
水元太郎 それがみんなのなかに徐々に浸透していった感じはありますね。
―― そういう気持ちの変化は『WEEKENDER』に色濃く反映されていますよね。
かわむら (2019年の)1月から曲を作ろうという期間を定めて、1ヶ月で10曲ずつ作っていって、それが3ヶ月続いたんです。本当に4人がやるべきことをやっていかないと30曲なんてできないんで。それをやっているうちに意識が変わっていったというのはありますね。自分がやりたいこと、やらなければいけないこと、バンドにとって一番かっこいい形。それを4人が考えた結果だと思いますね。
―― それで『WEEKENDER』には、いろんなタイプの曲が収録されているんですね。
小山 今作だけを聴くと、いろんな曲があるように感じるかもしれないけど、やってることはあんまり変わらなくて。気分的に「面白いことをやってるね」くらいの感覚で作ってたんですけどね。
―― とはいえ、『FROM ALTERNATIVE』とはちがうものにしたいという気持ちはあったんですよね?
杉森 それについては『FROM ALTERNATIVE』の後に、俺が曲の書き方がわかんなくなっちゃって。それはたぶん『FROM ALTERNATIVE』で自分がやりたいこととか、考えたものは全部、詰め込んだと思っていたんで、「じゃその次に何をしたいかな?」っていうのが、そのときはわからなくて。
かわむら このフォーマットで振り絞ってやることだとか、それこそ前作ではオルタナっていう言葉を多用したりとか、「自分たちのスタイルはこれだ!」っていうのを、知らないうちに言葉で限定してしまったなかで、「ここから何をすればいいのか?」「これって次はどこにいくんだろう?」っていう状態にはなってしまったのは事実ですね。
―― 今作はロック・バンドとしての可能性が広がった作品になっていますよね。オルタナティヴにこだわるのかもしれないけど、オルタナティヴという呪縛からは解放されたのかな、と思いました。
杉森 オルタナティヴな音像でやりたいことは前作でやったんで、イズムとしてオルタナティヴであることは、もちろん今後もつづいていくと思うんですけど、「ギターが2本で歪んでいればオルタナなのかよ?」っていう話になると、どうなのかな、と。シンプルな音にしていった方がより長く、気持ちよく聴けるし。ひとりひとりの音の強さを信じって恐れずにやってみようっていう意識はあったと思いますね。
小山 『DISTORTION』から『FROM ALTERNATIVE』まで作って、自分たちが出す音に自信が持てたんですよね。ギターの音やベースの音、ドラムの音だけでもディスジャパっぽくなったというか。そうなった分、単体でもディスジャパを伝えることができるんじゃないかな、と思って。前までは、ギターを足さないと落ちつかなかったり、音数を減らすのがどこか怖かったところもあったんですけど、例えば、ベースとドラムだけの時間が長くても、全然、楽しめるし、ギターを弾いてなくても楽しめるっていう。そうやって、出す音に自信を持てたからこそシンプルにできたと思います。
―― 引き算していった結果、ギターや歌の艶やかさが際立って、ひとりひとりの楽器の音がよりくっきりと伝わってくるようになりましたよね。
小山 それをやろうとしてやってましたからね。
かわむら それに『FROM ALTERNATIVE』を出した2年前と状況も変わっていますしね。オルタナティヴっていうのは何かに対しての姿勢だと思うんですけど、たしかに2年前は敵がいた気がするんですよね。
小山 ギラついてたからね(笑)。
かわむら じゃその敵って今どこにいるんだ? とか、自分たちが敵とするものに怒りをぶつけるのがかっこいいのか? とか。もちろんやりきれないことや気に入らないことはロック・バンドのエネルギーだと思うし、我々もそういう性格ではあるんで、ロック・バンドをやっているとは思うんですけど、「何に対してのオルタナティヴなのか?」っていうことを考えざるを得ない状況になってるのかなって思うし。
―― そういう心境の変化も影響しているわけですね。
かわむら 例えば、今年、フジロックに出演したときに、4人ともいろんなバンドをいろんな大きさのステージで見たんですね。その結果、ものすごく刺激を受けたんです。本当にかっこいいバンドはものすごく大きいステージでも、ものすごく尖っていた。「あの大きなステージで演奏したら、我々は何ができるのか?」とか。それはけっこう心境の変化に役立った気がするんですよ。怒りというエネルギーとはちがうことを考えさせられたというか。
杉森 前向きになったよね、最終的に。怒りとかを通り越して、単純にバンドを4人でやるっていう楽しさとか、そういうことにけっこう感謝したな、最後の方は。普通にめちゃ楽しいなって、俺はけっこう思ってた。その前までは本当に殺気だってたからね(笑)。最終的に前向きになれてよかったです。
かわむら 選曲にしても、以前はライブでやりたい曲だとか、そういうものが原動力になって、ライブと共に曲を作っていたところがあるんですね。ただ、今回の曲の作り方を考えると、そういうわけにもいかないというか、そういう部分から解き放たれようとして作っていったので、言い方は難しいんですけど、例えば、大きなステージで多くの人たちに見られているなかで、自分たちのよさを最大限に発揮する曲はどれなのか、というような目線で選んだような気がします。
―― 収録曲のなかで、『WEEKENDER』への突破口を開いたような曲ってあるんですか?
杉森 個人的には3曲目の「apple me」ですかね。俺が作ったトラックにかわむらが初めて歌詞をつけた曲なんですけど、そういうやり方は今までやったことがなかったんです。「apple me」で初めてやったときに、意外とスッと歌に気持ちを乗っけられたから、「これはいいぞ!」ってなって。だから、ボーカルをやってて変化があった最初のきっかけは「apple me」ですね。そこから「グルメ」とかできたし。
―― ライブではすでに『WEEKENDER』から何曲もやっているんですよね?
杉森 「手紙」以外はライブでやってるんですけど、あんまり違和感はないよね。
かわむら 今までの強みがより際立ったっていうイメージだよね。すごく革新的な変化をしているというより、ちゃんと必要な部分を気持ちよく出せてるんで、ライブ自体の勢いは前よりも増しているという。前作の曲もやってるんですけど、より効果的に、気持ちよく杉森がギターを弾けたりとか、みんなでバーンと音を出したときに、自分の音をちゃんと意識しながら出せてるというか。そういうイメージはありますね。
杉森 引き算によってダイナミズムが広げられたから、爆発したときに、前より高く飛べているような気持ちよさがありますね、歌ってて。
―― で、ライブを見れてない人はぜひ「グルメ」のミュージック・ビデオを見てほしいんですが、何よりもこのMVを見ると、バンドの決意が見て取れますよね。
かわむら その辺を山田(健人)監督が汲み取ってくれたという感じもありますね。こちら側が全力で作った曲を聴いて、我々ひとりひとりを見て、どんなふうにしようって考えてもらった結果がこの映像で。「こんなふうに突き抜けたかった」っていうことを具現化してくれたような、我々にとっても道標になるようなMVだと思います。
―― では最後にコンピレーションCDの第2弾『NOT FORMAL~NEW CHALLENGER~』についてお聞きしたいんですが、前回はそれこそオルタナティヴを前面に掲げたコンピだったんですが、今作はどうでしょうか?
杉森 根本的なスタンスはそんなに変わってなくて、自分たちのやりたい音を突き詰めているバンドに、今回も参加してもらっているんですけど。前作より濃いというか、距離が近いというか、ディープなものになったかな、とは思ってますね。前回はオルタナという名の下に作ったんですけど、今回はライブ・ハウスの状況もけっこう変わってきたし、面白いバンドがけっこう出てきたので、ジャンルもいろいろな方に参加してもらいました。
―― ライブ・ハウス・シーンの若いバンド、けっこう面白いですよね。
杉森 今、俺らより若いバンドがやりたいことをやっている上に、それがきちんとお客さんに突き刺さってるなというのを感じてました。コンピのタイトルが、今回“NEW CHALLENGER”に決まって、いろんなバンドとタッグを組ませてもらったんですが、個性があるアーティストがぶつかり合ったからこそ1枚の作品になったと思います。
―― 今回もいいメンツですね。
杉森 ありがとうございます。12月22日の日曜日、THIS IS JAPAN presents『NOT FORMAL Vol.10』と題して、下北沢 BASEMENTBAR とTHREEでコンピレーションのレコ発をやるので、より生々しく楽しんでいただけたらな、と思います。
© 2019 DONUT
>> go to Back Number
INFORMATION
THIS IS JAPAN 『WEEKENDER』
2019年11月27日(水)Release
01グルメ/02ストロボ/03apple me/04Yellow/05手紙/06悪魔とロックンロール/07SUNNY
V.A. 『NOT FORMAL〜NEW CHALLENGER〜』
2019年11月13日(水)Release
<参加アーティスト/収録曲>
01.THIS IS JAPAN / FREEMAN
02.aoni / FIELD
03.1980YEN / 電子通貨
04.Emily likes tennis / Space power(Galaxy edition)
05.錯乱前戦 / 君のハートはブルーだよ
06.The Whoops / 天気予報
07.SEAPOOL / Brainwashed wow wow
08.時速36km / スーパーソニック
09.xiangyu / プーパッポンカリー
10.空きっ腹に酒 / グッドラック飢渇
11.逃亡くそタわけ / イーグルイーグルイーグル
12.FRSKID / NINJA MONKEY
13.奮酉(FURUTORI) / BYE
14.Bearwear / Decay
15.勃発 / 新世界
16.MASS OF THE FERMENTING DREGS / New Order
17.揺らぎ / Unreachable
18.RiL / IGGY & BIGGIE
19.ROKI / ポリア
※ LIVE INFORMATION は公式サイトでご確認ください。
OUR WORKS