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betcover!! インタビュー
『サンダーボルトチェーンソー』〜シングルときて、この『中学生』で一応終わらせた感じはあります
――ヤナセジロウ

betcover!!が7月の終わりにメジャー・デビュー・アルバム『中学生』をリリースした。とてもメジャーの最初の作品とは思えないタイトルだ。しかもジャケット・アートにはバンド名もアルバム・タイトルもない。大人の事情を全部排除した潔さは作品そのものにも反映されていて、すべての楽曲が1曲のなかで自由に姿を変えながら疾走する。前回のインタビューで強く影響を受けたフィッシュマンズから、そのルーツであるダブ・サウンドに行き着いたという話をしていたが、すでにそれにすら囚われていない。リリックは心の闇を描いてはいるものの、もがいている様子が感じられないのは、彼がすでにそこから脱却し、闇を対象化できる地点へ到達したからだ。つまり、このアルバムは、20歳になったヤナセジロウが描く『中学生』というひとつの物語なのだ。だからポップ・ソングとしても、ちゃんと響いてくる。WEB DONUTを始めて7号めだけれど、betcover!!のインタビューが掲載されるのはこれで三度目。しかも今号はbetcover!!単独号となった。計り知れないヤナセジロウの才能を少しでも多くの人に届けるのがDONUTの役割だと思っている。

●取材・文=秋元美乃・森内淳

―― 2017年に『high school!! ep.』を出して、今回のメジャー・ファースト・アルバムが『中学生』というタイトルで、高校から中学に戻ってしまいましたが。

  ヤナセジロウ 『中学生』ってこのアルバムにつけてから『high school!! ep.』に似てるな、と思ったくらい関係なくて、まったくつながりはないです。単純に「あ、似てるわ」って思ったぐらいで。前、お話したみたいに『中学生』は『サンダーボルトチェーンソー』の流れなので、『high school!! ep.』とは関係ないです。

  ―― 今、『中学生』というタイトルをつけた心情を教えてください。

  ヤナセ えーと……そうですね……。

  ―― なぜそこが気になったかというと、全体的にメジャー・ファースト・アルバムとは思えないヘビィな聴き心地というか……

  ヤナセ そうですね(笑)。

  ―― サウンドの方は前回のインタビューでも話されていたダブな方向性もあるんですけど、歌はさらに、さらっとは聴き流せないものになっていますよね。それをタイトルに結びつけて考えると、中学生のときに感じていた気持ちが今のヤナセくんに何かしら影響をしていて、そこから生まれたタイトルなのかな、と思ったんですけど。

  ヤナセ タイトルは『中学生日記』からとったんです。ぼくの中学生時代を振り返るっていうことではなく、一般的に見た中学生です。

  ―― 一般論としての中学生のイメージをこの作品に落とし込んだ、と。

  ヤナセ そうです。中学像というか。自分も含めつつ。

  ―― この作品の最後に12分に及ぶ「中学生」というタイトル・ナンバーがどーんと控えていますが、あの曲はどういう経緯でつくっていったんですか?

  ヤナセ 元々、3分くらいの曲だったんです。それを作っていくうちに12分になったんですけど、なんか流れですね。作曲の流れで、ここは必要だな、ここも必要だな、ここはこう来てこうすればいいかなってやっていたら12分になりました。で、この曲の名前をアルバム名にしました。

  ―― 「中学生」という曲で歌っている内容に関してはどうですか?

  ヤナセ 歌っている内容に関しては……

  ―― そこも一般的な中学生の心情を描こうと思ったんですか?

  ヤナセ アルバムを通して、自分ではないんだけど、ひとりの人のストーリーがあって。それをアルバムとして見たときには一般的な中学生像となるんですけど、曲に限ってもアルバムを通しても、誰かひとりのストーリーがあって、それをなぞって、最後のところでぶわーっと広がる感じ。X-MENのセレブロ(※X-MENのプロフェッサーXがかぶっている世界中のミュータントを識別する機械)みたいな感じですね。超意識みたいな。

  ―― このアルバムの物語に出てくる人物とはどういう人物なんですか?

  ヤナセ 自分ではないけど、自分のような誰かですね。その人の話をコンセプト・アルバム的なかたちで表しました。

  ―― 自分で自分を俯瞰して見ているような感じなんですか?

  ヤナセ うーん、曲をつくっているときには、そんなに考えてないんですよね。つなげるときにこういう感じで、じゃあこっちはこうしようみたいな、それくらいで。これがこうなるからここをこうしようとか、自分の考えがこうだからこうだじゃなくて、一曲一曲でつくったものを、どうつなげていくかということですよね。

  ―― ただ曲で語られている登場人物の心情は、ヤナセくんの心情ともリンクしているんですよね。

  ヤナセ そうかもしれないですけど、そこもあまり意識してないですね。前よりも意識してないんですよ。

  ―― あ、そうなんですか?

  ヤナセ だけど意識してるっぽい感じにはしてます。

  ―― 意識してるっぽい感じになってますよね。

  ヤナセ 前作をあんまり自分の感情を意識してないっぽい感じにつくったから、もっとしてるっぽくつくってみようと思って。前回は、そのまましてないっぽい感じで受け取る人が多かったので、なんかしてるっぽくした方がわかりやすくていいかな、と。意味深な感じにして、そんなに意味深じゃない、みたいな。

  ―― じゃあこのアルバムで描かれている心の風景みたいな場所には、今現在のヤナセくんはいないっていうことですか?

  ヤナセ いる部分もあるし、いない部分もある。20歳になったので、最近、けっこう成長しました。いろいろ。精神的にも。だからわりと、そういうものを残しつつも変わってますね。この半年くらいでだいぶ変わりました。

  ―― 中学生的な心の風景からある程度脱却できたからこそ、中学生的な心の風景が描けたわけですね。

  ヤナセ ああ、たしかに。それもあるかもしれない。うん、たしかに。そうですね。ちょっと俯瞰してるというか俯瞰できるというか。第三者的な見方でつくっている部分もあったかもしれないですね。歌詞とか、とくに。

  ―― そういう心情をメジャー・ファースト・アルバムに焼き付けたかった、残したかった理由は何なんでしょうか?

  ヤナセ その理由はなんとなくあって。メジャーっていうのも関わってきているんですけれども、メジャーに行ったから変わるっていうのも、なんかダサいじゃないですか。ダサいっていうか、お客さん的にも「ああ…」ってなりそうな気がしたので、変な曲をいっぱい入れようと思いました。今回のレコーディングに関しては本当に何もいわれてなくて、制作に関してはレコード会社はノータッチなので、めちゃくちゃ自由にやれたんです。メジャーっぽい雰囲気のフレーズをあえて一瞬入れたり、まったく入れなかったり。このあと、わりといろんなことをやりたいので、一応いつでも戻れるように、根っこというか、そういうものを最初に出しておこうと思ったんです。意思があるよってところを見せておきたかった。

  ―― 過去のインタビューを読んでもらえるとわかるんですが、ヤナセさんにとってこの心情というか考えや思いが音楽活動のスタート地点ですからね。

  ヤナセ そうです、そうです。そういうのをここで出しておいた方がいいのかな、と思いました。保険じゃないけど。

  ―― 描ききった手応えはありますか?

  ヤナセ 『サンダーボルトチェーンソー』〜シングルときて、この『中学生』で一応なんとなく終わらせた感じはあります。これをつくることによって、気分的にも変わったし。

  ―― 『中学生』は第一期betcover!!の総括みたいな感じなんですね。

  ヤナセ そんな感じですね。ファーストだけど「終わった」って感じ。終わった感じじゃないですか? ジャケットも地味だし。地味っていうか暗い。ファーストっぽくない。タイトルも。なんか終わり感を出したかったですね。

  ―― 今までの経緯を知っていると、たしかにここはスタート地点ではあるけれど、今までの到達点でもあるということがわかりますよね。

  ヤナセ うん、そうですね。次の作品をめちゃポップな、カラフルな感じにしてもいいように。これを出しておけば、何をしても大丈夫かなって。

  ―― たしかにメジャー・ファースト・アルバムでいきなりカラフルでポップなものを出すと「あれ?」って感じになりますよね。

  ヤナセ そうですね。だからそこは我慢して、こういう作品をやろうと思いました。変えてやりたいっていうのもあったんですけど、今やっちゃうと、ダサいなあというのがあったんで。   ―― 今回のアルバムをつくるにあたって産みの苦しみ的なものはあったんですか?

  ヤナセ たいしてないですよ。楽しくやれてました(笑)。

  ―― 今回もめちゃくちゃアイディアを詰め込んでますよね。

  ヤナセ だけど「うーん……」みたいな感じじゃないです。「イエー!」みたいな感じで(笑)。大変っぽい感じにしてるだけです。なんか、うーってやってるっぽい感じにしてるというか。全然、普通にいつもどおりつくってました(笑)。

  ―― じゃあ曲は次から次にできたんですね?

  ヤナセ そうですね。前につくった曲も入れてるし。あと、5曲くらいほかにも曲があって、テーマに沿って選んだり削ったり。その作業はけっこうしっかりやりました。

  ―― 「ゆめみちゃった」と「海豚少年」のアルバム・バージョンも収録されていますが、思い通りのミックスになりましたか?

  ヤナセ なりました。逆に前のテイクもいいなあと思ったり。うまいことこのアルバムに2曲ともハマったと思います。

  ―― サウンド面でこだわったところはありますか?

  ヤナセ 今作は音像としてローの部分をすごく持ち上げています。低音にかなりこだわってもらって。めちゃくちゃ出してます。あとは音の配置ですね。音空間が前作よりもすごくはっきりしていて、粒立ちがすごくいいんですよ。前作はもっとぎゅっとしているんで。今は“ここ”にちゃんと音があるのがわかるというか。だからボロが出るっていえばボロが出るんですけど、生の空気感みたいなものがすごく出せた。そこですね、わりと考えましたね。上手い下手とか聴きやすいとか聴きやすくないとかよりも、リアルな音像で。誤魔化しをしないようにしましたね。だからけっこう「大丈夫か?」みたいな部分とかもあって。でもそれも隠さず仕上げました。みんな、それをプロツールスで修正しちゃうところがよくないと思うので、ほとんど修正してないです。

  ―― 今の時代、珍しいですね。

  ヤナセ ドラムとかもあんまり修正してないですね。ボーカルも。なんか緊張感みたいなのも音源に入っているし、その揺らぐ綱渡りみたいな感じが中学生の不安定な感じと結びつくというのはどうでしょうか。今、思いついたから、いうんですけど(笑)。

  ―― 今はすぐ音をいじっちゃいますからね。

  ヤナセ いじりたいですけどね。ちょっと我慢しよう、と。日本の音楽はちょっといじりすぎですよね。そこをいじらなさすぎぐらいのことをやってみたんです。まったくいじらないで出してみたらどうかな、とも思います。面白いかな、と思って。メジャーで未完成感を残した感じって。余白をすごい残しているというか。曲とかも聴きやすい感じだったのをどんどん音数を減らして、聴きにくいくらいにして。例えば1曲目の「羽」のイントロとかも音が3つしかなくて。コードとかも鳴らしてないくらい。最初はもっと聴きやすいように、音をいっぱい重ねていたりしたんですけど、なんか余白が欲しいなって。それは意識しました。

  ―― それはbetcover!!のオリジナリティにつながっていますよね。こんなサウンドを出す日本のアーティストはいないですからね。

  ヤナセ そうですね。そういう意味では前作よりもシンプルですよね。構成とか。

  ―― シンプルなのに一筋縄じゃいかないところがbetcover!!の不思議というか魅力というか。ただ一方では、以前のインタビューでは売れたいという思いもあるという話でしたけど。

  ヤナセ やや、なくなってきました(笑)。まぁどっちでもありますね、そういう気分のときもあるし、そうでない気分のときもあるし。生活できればいいかな、とか。わからないです(笑)。だけどこれをつくったときにはめちゃくちゃ頑張ろうとか、売れようとかは思ってましたね。最近ですね、なくなってきたのは。

  ―― なんでだろう?

  ヤナセ わかんないです(笑)。なんか楽観的になったのかな。成人して、なんか大丈夫だ、みたいな。自分ひとりなんとか生きていけば、それでもいいのかな、みたいな。じゃあ売れなくてもいいのかな、みたいな。いや、売れたいですよ。普通に売れたいんですけど、売れることに執着しなくても、もっと自由にやっていればいいのかなと思っています。

  ―― 以前のインタビューで、まわりのアーティストに対するジレンマがあるというお話もされてましたが。

  ヤナセ それもないですね。

  ―― それも消えてきた?

  ヤナセ はい。好きにやってくれ、みたいな。

  ―― 余裕が出てきましたね(笑)。

  ヤナセ 出てきましたね(笑)。わりと変わりましたね、最近。どうでもよくなっちゃった、まわりの人たち。評価される・されないというのをすごい気にしてたんですけど、別に評価されているから作品がいいっていうわけでもないのがはっきりわかったので。会社の力とかいろいろあるじゃないですか。それでなんか一喜一憂しててもなんかね。そこで闘っているわけじゃないしなって。

  ―― いい意味で余計なものが目に入らなくなった?

  ヤナセ そうですね。全然、興味がなくなってますね。まったく気になってない。

  ―― ひたすら自分がつくる音楽に向き合うだけって感じなんですね。

  ヤナセ そうですね。好きな曲を聴いて好きな曲をつくって。

  ―― 新曲もどんどんできていたりするんですか?

  ヤナセ ガンガンつくってます。まただいぶちがう、聴きやすい感じの曲になっています。聴きやすいのかどうかはわからないけど(笑)。『中学生』で個人的な表現は終わったので、外に向かっていく感じもあって。基本的には変わってはいないんですけど。

  ―― それを考えると、外に向かうためにも『中学生』はやらずにいられなかったアルバムではありますよね。

  ヤナセ そうですね。通過点としては絶対……

  ―― 必要なアルバムですよね。

  ヤナセ そうなんです。それに、最初の『high school !! ep.』はbetcover!!のイメージと全然ちがうので、そこを変わったっていうのをわかってもらうために3つくらいリリースしなくちゃいけないという思いもありました。前作の『サンダーボルトチェーンソー』の流れをくみつつ、今の感覚を入れて『中学生』をつくって、とりあえず終わらせたので、今は次にっていう感じですね。どうしてもここは『中学生』のようなアルバムが一作必要だったという。

  ―― 8月23日はWWWでワンマンをやるんですが、このアルバムをライブでやるのは大変そうですね。

  ヤナセ ライブはアルバムとは別物ですから。アレンジも変えつつ。とはいえ、あまり変えないようにして。アレンジを変えすぎるとお客さんがついてこれないというのを感じて(笑)。

  ―― あ、そうなんですね。

  ヤナセ そうなんですよね。

  ―― あれはあれで素晴らしいですけどね。

  ヤナセ いいんですけど、賛否がちょっとはっきりわかれちゃうので。あの感じでいくことはいくんですけど、アレンジの根本を変えないというか。まったく別の曲につくりかえちゃうみたいなことはやらないで。アレンジは変えはしますけど、コード進行を変えちゃったりとかはしないです。

  ―― ワンマンではこんなことをやろうというのはあるんですか?

  ヤナセ 8月のワンマンは『中学生』を全曲やります。しっかりたっぷり。そこで完結っていう感じなんです。CDではなく、そのワンマンライブで完結というか。ライブを見てもらえればもっとわかりやすいというか。表現したいところももっとあるんですよね。音源ってわりと無感情っていうか、あんまり感情を音に込めない感じになるんですけど、ライブは正反対なので。ガッと詰め込むみたいな。肉付けしていくみたいな。だからライブが楽しいんですよね、最近。

  ―― ライブはすごくエモーショナルだから、今のbetcover!!の気分により近づける感じはしますよね。

  ヤナセ はい。なんかちゃんと人が見えるし。人対人っていう感じで、伝えたいことも伝わりやすいです。CDだと誰が聴いているかわかんないですもんね。なんとなくはわかりますけど、ライブは半径何メートルかのなかに聴いている人がいるわけじゃないですか。

  ―― ちゃんと聴いてくれてるんだっていう手応えがある?

  ヤナセ うーん、わかんないですけどね、ライブ中は。ただ楽しいなあっていうだけで(笑)。ライブは楽しいです。普段、人とあまり会わないから。遊びにいったりとか、そんなにしないから、たくさんの人がああやって、歌を聴いてくれるなんて、そんな幸せなことはないですよね。なかなかないことなんで、ちやほやされたいです(笑)。

  ―― betcover!!のライブはすごいですからね。楽しみですね。

  ヤナセ 次のライブは自信たっぷり。3ピースでやるんですよ。

  ―― あ、そうなんですか? ドラムとベースとヤナセくん。

  ヤナセ 3人でやります。なかなかいい感じですよ。ほんと、削ぎ落としてやります。

  ―― このアルバムを3ピースでやるんですね。すごいなあ。3ピースでやろうと思った理由ってあるんですか?

  ヤナセ 単純に前のギターがいなくなって、今、ずっと3ピースでやってるんですけど、すごいやりやすくて。3人という人数がわりと黄金のトライアングルじゃないでけど、コミュニケーションがとりやすいんですよ。横並びなんですけど、ドラムの(岩方)ロクローが左にいて、横を向いてて。だからもうバンドみたいな感じです。バンドの結束みたいなものが強くなってきていますね。前はサポート感があったんですけど、ふたりともバンド・メンバーっぽい感じで。全然、前回のワンマンとはちがう感じになってますね。だってロクローは毎回上を脱いでますからね(笑)。上裸で汗だくでドラムを叩いてる(笑)。すごいそれがよくて。遠征とか一緒に行って、またグルーヴがよくなって。

  ―― たしかにMVとかも必ずロクローくんが出てきますよね。

  ヤナセ そうですね。けっこう出てきますね。それから最近はロクローに任せる部分をしっかりつくるようにもしていて。ほんと頑固なので、こーしろあーしろって今まではいってたんだけど。それでサポート感があったんですけど、今はほとんどロクローに任せてやっているので、それでめちゃくちゃよくなりましたね。それに、その方がしっかり楽曲に入り込んでいけるんで、そっちのほうがいいなって。

  ―― 他のふたりもやらなきゃっていう責任感が増しますよね。

  ヤナセ そうですよね。ひとり一人が前に出ないといけないので。

  ―― ひとり一人がみんな成長しているんですね。

  ヤナセ そうですね。アンサンブル的にもちゃんと聴けるような感じになってるので面白いと思います。3ピースなんで、たまにめっちゃ音が薄いところがあったりするんですけど(笑)。だけどそれがちゃんと面白い感じになってるので楽しんでほしいです。

  ――アコースティック1本でも面白いですからね、betcover!!のライブは。

  ヤナセ そうですね。

  ―― そういえば『中学生』からはそういうものも感じました。

  ヤナセ フォークですか?

  ―― そうそう。

  ヤナセ けっこう影響を受けてます。フォークをいろいろ聴いてたんですよ。どこにジャンルを置くとかは全然意識してないですけど。印象として伝わればいいな、と。

  ―― 日本のフォーク感というか。

  ヤナセ はい。日本感は出したいな、と思っていて。曲のタイトルも今回は全部日本語だし。『中学生』ってなんかいいですよね、字面が。

  ―― ヤナセくんっぽいですよね。この大胆さこそbetcover!!というか。

  ヤナセ ありがとうございます(笑)。

  ―― フォークに興味をもったきっかけはあるんですか?

  ヤナセ (忌野)清志郎とか前から好きだったんですけど、じゃがたらとかのファンク系もいろいろ聴くようになって。ボ・ガンボスとか聴いていると、フォークとかアコースティックのイメージが変わってきました。だからアコギとかもけっこう『中学生』には入れてたりするんですけど。野生の、血肉っていうか、土着的な感じにしたかったんですよ。わりとデジタル主流の時代だから、そこもカウンターとしてやれたらいいなあ、面白いかなあと思って。そういえば、このあいだ町田康さんとも対談させてもらって、その辺もいろいろ聴いてます。

  ―― そうなんですね。

  ヤナセ その時代がなんか好きですね。みんな活発な時代。何かメッセージを歌にのせようとしていた時代っていうか。

  ―― まさにINUとか。

  ヤナセ INUとか。そうです。その辺の空気は今に通ずるところがあるなと思って興味が湧いたんです。だからそういうのも流行るかなあと思って。

  ―― ヤナセくんと同年代の人たちが『中学生』を聴いて、音楽の捉え方が変わるようなきっかけになったらいいですね。

  ヤナセ そうなったらいいんですけど。ジャケットとかデザインとかも歳が近い人にやってもらってるんですよね。写真がひとつ年上の人で、デザインが22歳とか。ふたりともめちゃくちゃ今、ぐぐっと来ている人で、そこの若者の力を集結して何かやりたいなあ、と。何かっていうか一緒にやってもらいたい。その辺を中心にして動かしていけたらいいなあ、と。ぼくの作品に対して、あっちからも好きだといってくれて、ぼくも好きだっていうふうに、相手の創作物に対してのリスペクトがあるっていうところでつながっていて。みんなやっぱちょっと反骨的なタイプなので、今の時代感なのかも。ちょっといろいろと飽和しちゃってるから。だから攻めてますよ。CDの帯をとると、ジャケットにはタイトルがないんですよ。

  ―― あ、ほんとだ。

  ヤナセ CDとかもわりと日本だけじゃないですか、売られてるのって。そこにデザインとしてのよさとかビジュアルとしてのよさがないと買わないと思うんです。このアルバムを商品として売るっていうのがもう限界で。だからブックレットだけでも置いておけるように。

  ―― 商品としてのCDではなくて、ヤナセくんの表現の一部としてのCDっていうことですよね。

  ヤナセ 商品的な扱いでつくらないようにして、「作品」としてちゃんと出せるようにしてますね。だってこれはメジャー・デビュー盤のビジュアルじゃないですよね。

  ―― かっこいいですけどね。

  ヤナセ 渋いです。

  ―― ジャケットもそうですけど、表題曲からして12分ですもんね(笑)。

  ヤナセ spotifyの再生数とかめちゃ少ないんだろうなあ(笑)。12分あるとなかなか再生数を稼げないですよね。なかなかきびしいですね(笑)。

  ―― 他にも、9分、6分っていう当たり前のように長い曲が収録されてますからね。

  ヤナセ それこそ次のアルバムには短い曲をいっぱい入れると思います。そういうのもあるから、今やりたいことをやる。

  ―― だけどこれがbetcover!!の世界観ですからね。

  ヤナセ 『中学生』でそれができたなあって思いますね。どうしても逃れられないですよ、betcover!!っぽさからは。たぶん。だけどこれで大丈夫だなあと思いました。

  ―― 世間で流行っている何かに寄り添ってもしょうがないですからね。

  ヤナセ だから今は何も考えてないです。

  ―― 以前のインタビューで「いい音楽」の定義って「考えること」と話してくれましたよね。

  ヤナセ そこは変わってないです。ちゃんとリスナーが考えられるような意味のあるものはつくりたいし、考えさせる余白も必要だし、そこだけは変わってないですけど。逆に考える必要がない曲とかもつくりたいですけどね。まじでどうでもいい曲をつくるとか。

  ―― そこだけ軸としてあれば何をやっても大丈夫?

  ヤナセ そうです。言い方は難しいですけど、曲とかアルバムとか全体像として見ていて。歌詞とかでも全体像がちゃんとキャッチできるものであれば、途中にどんなふざけた要素が入っていようが、例えば、変な声が入っていようが、問題ないっていうのがぼくの持論なんで。だからけっこうふざけてるんですよ、今回のアルバムは。シャウトとか、あれは別にふざけてるだけなんですけど、それが影響を受けないような全体像を今回つくれました。できるだけ全体像のイメージをしっかり持って、できるだけ面白い、ふざけたことをしたいんです。ただ、自分の確立した世界観でいろいろ曲をつくってアルバムに入れちゃうと何がしたいのかわからなくなることもあると思うので、ちゃんと曲やアルバムに対してしっかり考えて。

  ―― しっかりとしたテーマを作品に与えるんですね。

  ヤナセ 与えることもあるし後付のこともあるし。

  ―― 今回はどうだったんですか?

  ヤナセ 今回はイメージはありました。テーマはないけど。テーマっていうのが難しいんですよね。テーマっていうと、「アルバムをわかりやすい一言でいってください」というようなイメージもあるので。ふわっとならいえるけど、テーマというのがいろいろありすぎて。音像に対するテーマとか歌詞に対するテーマとか。全体のテーマっていうのがなかなか答えるのが難しい。だからテーマはなかったんですけど、イメージはありました。イメージ先行でこういうものにしたいっていうのはけっこう早い段階で決めていて。そんな時間はかからなかったですね、今回は。

  ―― 朝があって昼があって夕方があってというアルバムにしたいと、イメージを語っていましたが。

  ヤナセ あ、いってた。このアルバムはそのときのイメージです。リード曲の関係とかあって曲順は変えちゃったんですけど、最初の構成だと、ほんとそういう感じです。そこもなんか自分なりにプレイリストをつくって聴いてもらえたらいいな、と思います。自分のイメージで曲を並び替えて聴いてもらえたら嬉しいな、と思います。

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INFORMATION


betcover!! 『中学生』
2019年7月24日(水)Release
CD+DVD 3,300円(+税) / CD only 3,000円(+税)
収録曲:1.羽 2.水泳教室 3.異星人 4.決壊 5.雲の上 6.世界は広いよ 7.ゆめみちゃった 8.海豚少年 9.素直な気持ち 10.中学生

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