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歌王子あび「ソファベッド宇宙旅行2」

歌王子あび(VERANPARADE)「ソファベッド宇宙旅行2」
歌王子あびが思い巡らす“夢うつつ”連載コラム。
●プロフィール:歌王子あび/宮崎在住のロックバンド、VERANPARADEのボーカル。2021年3月に新ギタリストを迎え3人体制に。同月デジタルシングル「ラインマーカーズ」を発表。
公式サイト:https://veranpara-de.com


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第3回:「昨日来た僕の背骨」

2021.07.05 upload

連日続いたほぼ徹夜のレコーディングの疲れが出たのか、今日のお昼過ぎに急に背骨が痛くなり身体をひねるのも難しい状態になったので久しぶりにかかりつけの整骨院に行った。入ると受付に先生が居て「久しぶり、元気でしたか?」と声をかけてくれた。

背骨が急に痛くなったと伝えると、姿勢が悪い状態で座りっぱなしはダメだよと言いながらいつもより入念に施術をしてくれた。僕しか患者さんは居なくてFMからフィンガー5の「恋のアメリカン・フットボール」が流れていた。あいつはでっかいライバル。揉みほぐされてリラックスしきった頭の中に僕よりひと回りもふた回りも大きい巨漢の男が浮かんでいた。顎がしゃくれているでっかいナイスガイ。

施術が終わる頃、無口な先生が僕の肩を揉みながら「昨日来てくれてたら初診の金額じゃなくて安い金額に出来たんだけど今日だと初診の金額になっちゃうから、昨日来たってことにしていいかな?」と言った。そんなこと出来るんですかと聞くと「曲がった事は嫌い?」と尋ねられたので「好きです」と答えて、いつもの金額の370円を払って帰った。僕の知る中で最も価値のある370円の使い道だ。

レコーディングがとんでもなく疲れるけど大好きだ。ドラム、ベース、ギター、歌と少しずつ曲の全貌が見えてくる感じがたまらない。
一緒にバンドをしていると演奏中は当たり前ではあるが僕は歌ってギターを弾いているのでそこまでメンバーを見ることができない。なのでレコーディング中、真剣な顔でベースを弾くゆりえちゃんやギターを弾くやすよしを見ているとめちゃくちゃかっこいいメンバーとバンドをしているんだなということをはっきりと再確認することが出来る。メンバーが演奏する姿はいつまで見ても飽きない。一生見ていたい。

少し前までは宅録なども全くしてこなかったので、弾き語りの状態の新曲を携帯のボイスメモに吹き込んでメンバーに送り、メンバーと1からバンドアレンジしていくという曲の作り方だったがここ1、2年で宅録を覚えて、ある程度のバンドサウンドまでイメージを作れるようになった。ライブハウスで歌うことより家で1人で歌うことの方が圧倒的に増えたので微妙な歌い方の違いで大きくニュアンスが変わるみたいなことも少しずつではあるけど体感としてわかるようになってきた。音楽って面白い。ライブがなかなかできない状況は苦しいことだったけど間違いなく今までで最高の音源を作れるという確信がある。おれたち、めっちゃいい感じ。早くみんなに聴かせたい。ライブハウスでめちゃくちゃに鳴らしたい。

整骨院を出て帰り道のドラッグストアで豆乳とノンアルコールチューハイを買って、そばに置いてあるベンチでしばらくぼーっとしていた。目の前の交差点で1人で信号待ちしてる女子高生がいてなんとなく見ていると、突然手を変わった形の見たことのないピースみたいなのにして空に掲げた。変な形のピースを掲げた先を目で追うと歩道橋の上に女子高生が1人立っていて全く同じ形の変なピースをしていた。信号が変わると何事もなかったように女子高生は歩いていった。意味のない愛おしさがきっとすべてで最強だ。最強のお裾分けを勝手にもらって家に帰った。さっきまでと別人になったのかと思うくらい身体がすごく軽くなっていた。

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