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歌王子あび「ソファベッド宇宙旅行2」

歌王子あび(VERANPARADE)「ソファベッド宇宙旅行2」
歌王子あびが思い巡らす“夢うつつ”連載コラム。
●プロフィール:歌王子あび/宮崎在住のロックバンド、VERANPARADEのボーカル。2021年3月に新ギタリストを迎え3人体制に。同月デジタルシングル「ラインマーカーズ」を発表。
公式サイト:https://veranpara-de.com
最新ライブ情報:https://twitter.com/veranparade


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歌王子あび「ソファベッド宇宙旅行2」

歌王子あび(VERANPARADE)「ソファベッド宇宙旅行2」
歌王子あびが思い巡らす“夢うつつ”連載コラム。
●プロフィール:歌王子あび/宮崎在住のロックバンド、VERANPARADEのボーカル。2021年3月に新ギタリストを迎え3人体制に。同月デジタルシングル「ラインマーカーズ」を発表。
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第17回:「平熱ボタン」

2023.06.12 upload

最近、短歌を詠むようになった。つい二週間前のことである。

まるという友人がいる。年齢は僕の弟と同い年で初めは弟の友達という認識だった。10年ほど前、僕のバンドのライブの日、併設されたリハーサルスタジオで時間を潰していると学生服姿のまるが虚しそうな顔をしてスタジオの待合室に入ってきた。まだそこまで親しいわけではなかったがあまりに覇気がない顔をしているのでその日対バンだったARTIFACT OF INSTANTのたつろーと声をかけた。何かに落ち込んでいる様子だが特に何に落ち込んでいるかを話し出す気配もなかったので「ライブ見にくる?」と尋ねた。彼はさらに淀んだ目で「お金がないっす」と答えた。
なんとなく放っておけない気がして、おそらくたつろーも同じだったんだろう。どちらから言うでもなく二人でチケット代を奢るから見においでよと言った。
その日のステージから見えたものは今も鮮烈に覚えている。舞台袖で出囃子が鳴るのを聴き、良いタイミングでステージに駆け上がると最前列のど真ん中にまるの姿があった。彼はすでにもう泣いていた。大音量の出囃子の中でもしゃくりあげる声が聞こえてきそうな泣き姿だった。その日の1曲目は「ナイトウォーリー」という曲だった。なぜかわからないが彼のその日の虚しさが僕の中に流れ込んでくるような感覚になり歌いながら涙が止まらなくなっていた。良し悪しは抜きにして本当にまともに歌えていなかったと思う。
はっきりとは覚えていないが僕とまるが急速に仲良くなったのはこの日からだったような気がする。
先日まると、まるの家の近所を歩いているときに1匹の野良猫を見かけた。すると、まるがその猫を見つけて「この前までは2匹でいつも一緒に居たんですよね。で、あの猫がいつももう片方の小さい猫に意地悪というかちょっかい出してて、心配はしてたんすけど居なくなっちゃったんすよね」と言った。その話が数日たってもなんとなく心に残っていて何気なく短歌にしてみた。


見かけなくなりし仔猫の片割れの行方を案ず 君の片割れ


なんとなく心がすっとするのがわかった。内弁慶で仲良くなるほどに熱々の豆腐を頬に当てたりしたくなってしまっていたあの頃の僕ともいつも一緒に居てくれたまるがもしいなくなったらそのときの僕は間違いなく片割れだろう。この歌ができて僕は短歌を作っていこうと決めた。

現代短歌との出会いは9年程前に遡る。22歳の頃、当時アルバイトをしていたヴィレッジヴァンガードで本棚を整理しているときに見つけた穂村弘のエッセイ本だった。読んだとき、頭に閃光が駆けるような感覚になったのを今でもよく覚えている。それから現代短歌をどんどん好きになっていった。
今まで短歌を自分で詠もうと思わなかったのは音楽活動をしていたこともひとつの要因かもしれない。作詞作曲を元々していたので短歌と出会う中で得た感動は音楽にしたいと考えていた。

短歌に出会って9年、大げさに言うと僕の短歌デビュー。かなり時間がかかったけれどこういった経緯があり作歌を開始したわけである。
とにかくはじめてみると楽しくてしょうがない。何がというところまで書くとあまりに長文になりそうなので今回は割愛するがとにかく短歌を作るという行為にすぐに魅了された。

作歌の最中、先日のツアーで札幌に行った際に来てくださったお客さんのことを思い出した。10年前に初めて札幌でライブをしたとき、バンドが生まれたてほやほやの状態から見てくれているお客さんである。ツイッターのアカウント名は「is」という不思議な名前で短歌を詠まれる方だとのちに知った。それから約3年後、札幌にソロでライブをしに行ったときに差し入れで文庫本をいただいた。『ショートソング』という題の本だった。悲しさや虚しさや怒りの中に、いや、表面をとてつもないユーモアでつつんだような、おまんじゅうのような本だった。今回の札幌はコロナもあり6年ぶりだったのでやっと本のお礼を伝えることができた。
自分で作歌するようになって、ふと、isさんの短歌をしっかり読んだことがないことに気が付いた。僕が知っているのは『ショートソング』に引用されていたいくつかの歌だった。
DMにてご連絡をし歌集を送っていただくことになった。到着するのを待ちながらまた短歌を作った。

この数日間、熱中するあまり自分でも信じられないペースで歌ができていった。二週間ほど経って自作の短歌が250首を超えていた。頭がずっと5,7,5……とカウントする。昔から僕を知る親しい友人に自慢げに短歌を作っていることをラインで報告した(僕はすぐに調子に乗るところがある)。すると「あなたは没頭しやすくて、すぐに冷めるところがあるからほどほどに向き合った方がいいですよ。あと不健康そうなので赤い肉を食べるか牛乳を飲みなさい。まあ聞かないでしょうけど」というような返信がきた。僕の耳にタコがいることを知っている人である。
でも本当にそうですよねと思い、今日は帰り道でマックスバリューに寄って牛乳などを買って帰った。夜中に帰宅しポストを開けると札幌から届いた歌集があった。部屋で落ちついてから封を開けると僕が歌詞を書く際に使っている分厚いメモ帳と同じ、あのバネみたいなので纏められた不思議な本が入っていた。『平熱ボタン』という題の本だった。そして短い手紙が添えられていた。手紙にはこうあった。

「短歌楽しみにしています。無理せず、できるとき(短歌が自然にできたとき)に続けていけるとよいなと思います」

新しい歌集を開くとき、僕は初めのページからではなく適当なページから開く。もちろん作者は順番だとか全体の風合いまで熟考の末、歌集が作られていることは重々承知だがおみくじを引くような気持ちで好きなページを開いてそこに書かれている歌を読むのが好きなのである。今回もそうした。開くと見開きの左側に歌が一つ載っていた。


走ったら休んでしまう結局は歩いたほうが を証明したい (is)


という歌があった。1日に3度「じっくりやれよ」と言われた気がした。数日間でヒリヒリとしていた脳みそがスーッと落ち着きを取り戻してゆくのを感じた。休んでもいいかもしれないがそれでやめてしまっては意味がない。いや、やめても意味がなかったことにはならないだろうがもったいない。せっかく僕は言葉と音楽に魅了されて生きてきたのだし、バンドも短歌も今までのようにじっくりやってみようと思う。「焦らずにね、楽しくね」と10年ほど前に書いた短歌をまだ知らない自分の歌も歌っていた。僕もその先の未来を信じていきたい。


札幌が蒲公英の地と知りつつも雪のはるめく便りを待った (歌王子あび)


VERANPARADEのインタビューを掲載中!

© 2023 DONUT

INFORMATION:VERANPARADE

VERANPARADE 1stフルアルバム『VERANPARADE』
2022年8月24日(水)リリース
販売サイト:https://veranparade.thebase.in/items/64551032
収録曲:01.Ichi/02.空中翼船/03.ラインマーカーズ/04.FRIENDS/05.girls by poolside/06.たまにいたい/07.記念日/08.memories(VERANPARADE.ver)/09.BASE BALL/10.幽霊です/11.love you tender/12.いち


INFORMATION:SOLO

歌王子あびソロアルバム『百年』
2022年2月10日(木)リリース
収録曲:1.虎/2.ベリーロマンチック(月面砂漠cover.)/3.メルビイ/4.おいしいごはん/5.街/6.やさしい人/7.ひかりのまち/8.百年
販売サイト:https://utaouzi.thebase.in

最新のライブ情報はこちらをご確認ください。
■公式ツイッター:https://twitter.com/veranparade
■公式サイト:https://veranpara-de.com

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