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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Drop's)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/2009年に北海道・札幌で結成されたDrop’sのvo&gt。Favorite→映画、喫茶店、Tom Waits、Chet Baker。
公式サイト:http://drops-official.com
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第8回「ふたりの居場所は、湖だけ。鵞鳥湖の夜」

2020.10.21 upload

『鵞鳥湖の夜』 (2019年/中国・フランス合作)
原題:『南方車站的聚会/Nan Fang Che Zhan De Ju Hui/The Wild Goose Lake』
監督・脚本:ディアオ・イーナン
キャスト:フー・ゴー、グイ・ルンメイ、リャオ・ファンほか
公式サイト:http://wildgoose-movie.com
—————

みなさんこんにちは。
一気に秋が深まってきた気がする今日このごろですが、お元気ですか?
私は寒い季節が大好きなので、毎年この時期の朝の空気を吸うと、生き返るーって気持ちになります。
とはいえ、寒いよね。温泉とか行きたいなー。

いやー先月から今月にかけて、観たい映画がたくさん公開されすぎて困る! 嬉しい!
今回は予告編サーフィンで見つけこれは絶対観たい!とずっと思っていた作品を観に行ってきました。

『鵞鳥湖の夜』(『南方車站的聚会 The Wild Goose Lake』)
2019年、中国・フランス合作の作品。
監督はディアオ・イーナン、主演はフー・ゴー、グイ・ルンメイ。

舞台は2012年、中国南部。再開発から取り残された鵞鳥湖(がちょうこ)周辺の地区では、ギャングたちの縄張り争いが激化していました。
刑務所を出て古巣のバイク窃盗団に戻った主人公チョウ(フー・ゴー)は、対立組織との争いに巻き込まれ、逃走中に誤って警官を射殺してしまいます。
たちまち全国に指名手配された彼は、自身にかけられた報奨金30万元を妻のシュージュン(レジーナ・ワン)へ何とか残そうと画策し、妻に会おうとします。
そんな彼の前に、謎の女性アイアイ(グイ・ルンメイ)が現れ、「奥さんは来ないわ」と告げます。
鵞鳥湖の水辺で水浴嬢(海水浴に付きあう風俗嬢)として生活する彼女と行動をともにするチョウでしたが、警察や報奨金強奪を狙う窃盗団に追われ、追い詰められていきます……。
というお話。

なんか、すごいものを観た……という感じでした。めちゃくちゃよかった! 濃かったなぁ。

まず冒頭のタイトルが出るところが日本の昔の映画みたいで、うぉぉ、かっこいい。
そして雨、顔に傷を負ったチョウ(フー・ゴー)と赤い服を着たアイアイ(グイ・ルンメイ)が順に姿を現す最初のシーンがもう完璧!!
二人とも昭和の日本の映画スターみたいなお顔立ち(個人的感想ですが)で、美しくてものすごく引き込まれました。
この二人はどういう関係なのか、これからどんな物語が始まるのか。

そしてそこから回想シーンも交えて進んでいくのですが、ずっと漂う緊張感。少し緩んだり、また張り詰めたり。
チョウが所属するバイク窃盗団の集会での乱闘シーンでまず、わ!この映画はただものではない……と直感。
とにかく光、音、色の使い方が刺激的で抜群にかっこいい。

ストーリーはそんなに複雑ではなく、追われる男と謎の女をめぐるお話なのですが、終始映像にゾクゾクさせられました。
雨、チープなネオン、廃墟のような家や路地、そして赤い血。ほとんどが夜。
無法地帯のような場所の、危うさとその退廃的な魅力がすごく伝わってきました。
夜中の動物園のシーンや、光る靴を履いた人々が踊るシーン、見世物小屋、さびれた食堂。
物語とは直接関係がなくとも、印象的で頭に焼きつく映像がたくさんありました。これは現実?と思うような。
最後の方でチョウと追手の影が壁に映って、それが大きくなっていくところが個人的にしびれたなぁ。
照明監督はウォン・カーウァイ監督の『花様年華』も手がけた方らしい! 納得!

あと個人的には音が独特というか、斬新な感じがしました。
突然「ドーン!」とか大きな音がなるんだけど何の音なのか謎だったり、食事の音や水の音、音楽が少ないゆえにさらに妖しい緊張感が増していて、この作品の世界観を盛り上げていたなぁ。

そしてもちろん! 俳優さんも最高でした。
チョウは一見タフでクールで、いつまでも逃げ続けそうなんだけど、部屋で銃を天井に向ける場面、あとラスト近くで無心で麺をすする場面、虚ろな表情がものすごくリアルで怖かった。切なかった。
でも基本的には、何をしても、血まみれになってもめちゃくちゃ男前です。。
アクションシーンも見ごたえあり!
アイアイを助けて二人で歩くところとか、かっこよかったなぁぁ。
逃げてる途中でなぜかサッカーのアルゼンチン代表のユニフォームになってるところも謎でナイス!笑
一気にフー・ゴーのファンになってしまいました。。

そして何と言ってもグイ・ルンメイの美しさよー。
ベリーショートに華奢な体で、赤い服や紺のワンピース、水浴嬢の白い帽子、オレンジの水着。
今まで出会ったことない美しさというか、とても儚げで危うくて、刺激的でした。
チョウの奥さん役のレジーナ・ワンもきれい!
ラストシーンの二人の女性とてもグッときた。

タイトルにもなっている「鵞鳥湖」、ここで夜に二人が船に乗るシーンすごく良かったなぁ。
湖だけが静かで、それゆえに二人の孤独をあぶり出していて、美しかった。
追い詰められいつ殺されてしまうかわからないチョウの最後の光というか、つかの間の安らぎのような。
二人の絶妙な距離感がすごく良かった。
海じゃなく湖っていうところもなんか、切ないよね。
それぞれの登場人物が少しでも救いを求めようとしてる。

中国という国の、闇の部分というのかな、都市部と田舎の間のような街、人知れず生き、死んでゆく無数の人々の存在、熱っぽい風。
自分の常識とか全く通用しないような世界がきっとあるんだろうなということを感覚的に感じる映画でした。
ショッキングな描写も多くてヒイィッ!てなるところもありましたが、、この異世界に浸れてすごくゾクゾクした!!
久しぶりに、観終わっても映像が頭から離れず、眠れないくらいドキドキが続いていました。

実は中国の映画はあまり観たことがなかったのですが、ディアオ・イーナン監督の作品や他の中国の作品も観てみたくなった! 知らない世界がまだまだあるなぁ。 映画館で観て大正解でした。

というわけで、今月はここまでですー。
みなさんあったかくして元気でね。秋の夜長に、家でぬくぬく映画もイイね。

それではまたー。

© 2020 DONUT


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