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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Drop's)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/2009年に北海道・札幌で結成されたDrop’sのvo&gt。Favorite→映画、喫茶店、Tom Waits、Chet Baker。公式サイト:http://drops-official.com

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第4回「ゾンビだらけの世の中でも、やさしく、ちょっと笑おう。デッド・ドント・ダイ」

2020.06.13 upload

『デッド・ドント・ダイ』 (2019年/スウェーデン・アメリカ合作)
原題:『THE DEAD DON’T DIE』
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
キャスト:ビル・マーレイ、アダム・ドライバーほか
公式サイト:https://longride.jp/the-dead-dont-die/
—————

こんにちはー。
6月、少し間が空いてしまいましたが、みなさんいかがお過ごしですか?
まだまだ、不安なことも多いですが、少しずつ、世の中が元に戻りつつあるのかな?と感じたりもします。
映画館も少しずつ、ルールを守りながら再開されています。

今月は、4月の公開予定が延期になっていたこちらの作品を観に行ってきました。
そう、これはもう、実に去年の春から日本での公開をずーっと、首をながーくして待ちわびた、ジム・ジャームッシュ監督の新作なのであります!! うぉぉぉーーー!! ゴゴゴゴゴーー。(急に爆発)

『デッド・ドント・ダイ』(『THE DEAD DON’T DIE』)
2019年、アメリカとスウェーデンの作品。
監督はジム・ジャームッシュ。主演はビル・マーレイ、アダム・ドライバー、クロエ・セヴィニーなど。
以前、『ダウン・バイ・ロー』の紹介の時にも書きましたが、わたしにとってジャームッシュ監督は特別な存在。超好き。
そして今作はまさかのゾンビ映画、そして主演がこれまた大好きなアダム・ドライバー、そしてトム・ウェイツも出てるというのだから最高に違いない! 最高しかない! と鼻息を荒くしながら行ってまいりました。
ですのでこの先の感想もかなりの贔屓目&ネタバレありかもですのでご了承ください。笑

舞台はアメリカの田舎町センターヴィル。町の小さな警察署の署長クリフ(ビル・マーレイ)と巡査のロニー(アダム・ドライバー)は、いつものようにパトロール中、町の異変に気付きます。
夜になっても沈まない太陽、壊れる電子機器、動物たちの異常行動……。
ニュースではエネルギー企業による北極での工事が地球の自転に影響を与えているのでは、との報道。
そして翌朝、ダイナーで無残な姿の死体が発見されます。野生動物の仕業かとも思われましたが、ロニーは一言、「ゾンビかと」と言い放ちます(!)
その夜、彼の予想は的中し、町中にゾンビが溢れかえってしまいます……!
センターヴィルの町はどうなってしまうのか……。
というまさかのゾンビ映画! ひぇー!

いやぁ、もう、個人的には、やっぱり最高でした。
とにかく冒頭から、アダム・ドライバーとビル・マーレイが眼鏡かけて、あんまりビシッとしてない警官の制服着て、森の中でトム・ウェイツ演じる謎の世捨て人と会話するというところでもう、嬉しくて嬉しくてたまらなかったです……。涙
ジャームッシュの映画が、まだ観たことないのが始まったというだけで興奮。

登場人物がみんな、なんか愛せるんだよなぁ。
ビル・マーレイとアダム・ドライバーの最強のコンビ、この二人のシュールな会話が最高!
え、そんなにゆるくていいの!?ってくらいです。
最初の犠牲者が出たときに、警官三人が順番に死体を確認しに行くシーンとか、また無駄に時間が使われていてよかったなー。三人の男が並んだ画とか、セリフの間とかがあー、ジャームッシュの映画観てる!って感じがして心の中でワーーー!となりました。

アダム・ドライバー本当によかったなぁ。観るたびどんどん好きになっていきます。
『パターソン』で好きになったので、またジャームッシュの作品で観られて本当に嬉しい! ありがとう! 涙
あの大きな体で、オープンカータイプになってる赤いスマートでビューンって現れるのとか、もう愛おしい。ものすごく冷静な今回の役も似合ってたなー。

スティーヴ・ブシェミが白人至上主義のちょっと意地悪な農夫だったり、ティルダ・スウィントンがミステリアスな葬儀屋の女主人だったり、セレーナ・ゴメスが68年製のポンティアックに乗るヒップな都会の女の子だったり、もう新しい登場人物が出てくるたびワクワク!
(セレーナと一緒に旅行している男の子の一人が、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で個人的に注目していたオースティン・バトラーだったのでまた静かに興奮。このまま常連になって欲しいぃ)
青い囚人服の少年拘置所の三人も素敵だったな。
みんなジャームッシュの世界の色の中でそれぞれの魅力を発揮していて見事です。
一人として、そんな人いたっけ?みたいにならない。
でも特別に感情移入したり、深入りしたりせず、すーっと観られる感じもいいな。
行ったことないけど、アメリカの田舎町のコミュニティやひとの感じってこんななのかな、とワクワク。
ジャームッシュが撮る、人のあんまりいない町大好き。ずっと観ていたくなるなぁ。

そして忘れてはいけないのが音楽!
今回は「テーマソング」があるのです。
前半、クリフとロニーがパトロール中、夜なのになぜか外は日が沈まず、なんか変ですね……となっているときにカーラジオから流れるその曲、「The Dead Don’t Die」。
アメリカの田舎町によく似合うカントリーソング、とてもいい声。
だけどなんだか気の抜けたような、芯をついているような、さみしい歌詞。
本当に昔に作られた曲なのかなぁと思っていたら、グラミー賞を受賞したカントリー歌手、スタージル・シンプソンによる書き下ろしなのだそう! なんか、隠れた名曲感がすごかった!
この曲が物語の中で繰り返し登場します。
「なんか聞き覚えのある曲だな……」とつぶやくクリフに、「テーマ曲だからですよ」と答えるロニー。笑

この映画のゾンビたちはみな、生前の活動や欲望に引き寄せられています。
コーヒーゾンビ(あの人です!!)、ギターゾンビ、テニスゾンビから、Wi-FiゾンビやBluetoothゾンビまでいます。
監督はスマホに夢中になって歩いているような、現代の人々の自分のことしか考えられない振る舞いがゾンビのようだと感じてこうしたのだそう。そうかー。
劇中で唯一、人々とゾンビの様子をじっと観察している世捨て人ボブ(トム・ウェイツ)は、そんな人間の愚かさを憂います。確かに、物質や情報に執着してしまっているなーと思うよね。
死んで蘇ってもそれを捨てられずに彷徨っているのはなんだかかわいそうだな……。うーん。
っていうちょっとしんみりした気持ちにもなりますが、観終わったあとはうふふふ、やっぱり大好きだわー。
となりました。

毎回いろんなシチュエーションで楽しませてくれるけど、やっぱりジャームッシュにしか撮れない、唯一無二の作品になるんだなぁ。
まあまあグロかったり、残酷だったりもするのだけど、なんか終始やさしくて、くせがあって、おだやか。おだやかなゾンビ映画ってなに。笑
やっぱり細かい会話のクスッと笑える感じと、えっ、で、それどうなったの!?っていう謎を放置しておく感じとか、ファンにはたまらなかったなぁ。ですよね!?
うん、たまらなかったー。ジワジワくる。

と同時に、今までゾンビ映画というものを好んで観たことはなかったのだけど、なんかとても深いのでは……と今更気づきました。

こうやって大好きな監督や俳優さんの新作が映画館で観られるのは、この上ない幸せだなぁと改めて感じました。
日々の生活の中で、好きなシーンをちょっと思い出すだけで、わたしにはあんなに好きな、素敵な世界があるんだよーと思えます。
あぁ、同じ時代に生きて映画を撮ってくれて本当にありがとう……。

わー、みなさん、こんな偏愛コラムを読んでくださって本当にありがとうございます。笑
長年のジャームッシュファンはもちろん、普通に面白い映画っていう気分じゃないなーというあなたにもぜひ観てほしいー。
わたしはしばらくサントラ聴いたりパンフレットを何回も読んだりして余韻に浸ることにします。うふふ。
わたしはきっと、ドーナツゾンビになるなぁ……。

それではまたね、暑くなってきたので体調には気をつけてくださいね。

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