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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ

>> まほうの映画館1のアーカイブへ(別ウィンドで開きます)

第41回「少女のころの私、さよなら、またね。パスト ライブス」

2024.4.22 upload

『パスト ライブス/再会』(2023年:アメリカ・韓国)
原題:Past Lives
監督・脚本:セリーヌ・ソン
キャスト:グレタ・リー/ユ・テオ/ジョン・マガロ ほか
公式サイト:https://happinet-phantom.com/pastlives/
全国順次公開中


みなさん、こんにちは。
少し間が空いてしまいましたが、お元気でしたでしょうか?
私はというと新作のレコーディングをしたり、ありがたいことに映画主題歌の歌唱を担当させていただき、その宣伝活動などをしていました。
(映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』公開中です! ぜひっ)

さて、今回はアカデミー賞®にもノミネートされ、とても気になっていたこちらの作品を観に行ってきました。

『パスト ライブス/再会』(原題:『Past Lives』)
2023年、アメリカ・韓国の合作。
監督は今作が長編映画監督デビュー作となるソウル出身のセリーヌ・ソン。
出演はグレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ。

韓国・ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソンは、お互いに淡い恋心を抱いていましたが、ノラの海外移住により突然に離れ離れになってしまいます。
12年後、24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいた二人は、オンラインで再会を果たしますが、互いを思い合っていながらも再びすれ違ってしまいます。
そしてそのまた12年後の36歳、ノラは作家のアーサーと結婚していました。
ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れ、二人は24年ぶりの再会を果たすのですが……。
12年ずつ時を経て、それぞれ変わりながらもどこかでつながっている、そんな二人の物語です。

いやもう……すんごくよかったです。めちゃくちゃ泣いてしまいました。
実は最近、まじめなラブストーリーって、あんまり観てないなぁと思っていたのですが、この映画を観て久しぶりに涙が止まらなくて。でも今までにはなかったような感動で、とにかく素晴らしかったです。

まず、映像がすごくすごく美しいです。
俯瞰で撮られたソウル、NYの街。メリーゴーランド、船。
モントークの一軒家(劇中でモントークが出てくる映画『エターナル・サンシャイン』の名が! 一番好きなラブストーリーなので嬉しくて鳥肌たった……)。
どれもすごく繊細で丁寧で、その場の空気のにおいまで感じられるみたいでした。

24年ぶりに二人が再会するシーン、ヘソンは明らかにニューヨーカーではなくて韓国から来た人!って感じで、リュックを背負ってぎこちなくキョロキョロしてノラを待っている。
もうこの感じからリアルで、彼の緊張が手に取るようにわかってすでに泣きそう。
そしてノラが彼の名前を呼ぶ。ニューヨーカーらしい、颯爽としている彼女。
そこからの二人、嬉しさと感動と、同時に初恋に引き戻されたような感覚で何か言おうにも言葉が出ない、その空気がもう、たまらないのです……。

二人が訪れるNYの観光地、海辺の観覧車や、自由の女神を見に行く船。
なんか東京に遊びに来た友達や家族を案内するときに感じるような、なんとも不思議な時間の流れ方、と似たものを映像そのものから感じました。
たまに急にぽっかり現れる、ぼんやり幸せな時間、みたいな。
記憶の奥の方にいた人と、24年ぶりに共に過ごす時間、一瞬のようで永遠のようでもあるだろうな。

韓国時代の実家からして、ノラの家はお父さんが映画監督、お母さんが画家というアーティスト一家で、書斎ではレナード・コーエンのレコードがかかってるしおしゃれ。
対してヘソンの実家では家族3人が小さめサイズの食卓テーブルにぎゅっと集まって、お米と味噌汁?みたいな朝ごはんを食べてる。韓国の一般家庭って感じ(なんだと思う)。
ノラは両親に似て?なのかとても野心家で、成績も良くて子どもの頃から文学で賞を取る夢がある。
でも少女時代の彼女は泣き虫で、ヘソンがいつもそばにいたんだよね。
12年後の24歳でスカイプを通じて再び話したとき、彼女はもう泣き虫ではなくなっていて、ヘソンが「なぜ、もう泣かないの? NYでは泣けない?」と聞くの、ぐっときた……。

そして忘れてはいけないのがノラの夫、アーサー。この人がまたいい人……。
ノラの寝言が韓国語だけなので、彼女の中に自分は知ることのできない世界がある気がしてしまう、だから迷惑かもしれないけど韓国語を勉強してるんだ、なんて、なんて健気で素敵なんだ……。
再会したノラとヘソンが通訳もせず韓国語で仲良さそうに話していても、静かにその様子を見ている、僕には怒る権利なんてないよ、と言う。

そしてヘソンも彼のノラに対する愛情をしっかり感じ取っていて、移住して、アーサーと出会えてよかったね、いい人だから苦しいよ、なんて言う。
ノラが席を外してるときの男ふたりの会話もよかったなぁー。
とにかくこの3人はそれぞれお互いを深く思いやっていて、自分が!ってならないのが本当に素敵だなぁと思いました。
パンフレットにセリーヌ・ソン監督のインタビューが載っていたのですが、「愛というのは、見返りを期待しないもの。(略)その人の人生がリアルなものとして存在すると、理解してあげること。そこには守る価値がある、存在する価値があると理解してあげることです。」という言葉がとても刺さりました。穏やかで、大人だなぁ。

バーでノラとヘソンが話すシーン、そしてラストのUberを待つシーン。
大げさに感情的になってもいないし、劇的なことが起きるわけでもないのですが、言葉と眼差しや、二人の距離感、間から伝わる繊細な心情にもう本当に涙が止まりませんでした。

この作品のキーとなる韓国の言葉「イニョン」(縁、というような意味)。
本当に、人と人とが出会うことって奇跡だなぁと改めて思いました。
きっと誰もが(特に大人)この映画を観て自分の過去に出会った人、今そばにいる人のこと、それぞれの思いに胸がいっぱいになると思います。

いやーこの映画はめちゃくちゃ推したいです……。
とにかく観てほしいな。音楽も素晴らしいです。
なんか不思議なんだよなぁ、全体を通して魔法のような時間の流れかたをしている気がします。

ではまたね!


© 2024 DONUT



中野ミホ「Breath」インタビューを掲載

INFORMATION


サウンドトラック『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』宮田岳
2024年2月28日リリース
中野ミホが主題歌・挿入歌で参加(M2 待つわ/M15 まだみぬ果ては)
映画公式サイト:http://www.wakamatsukoji.org/seishunjack/
3月15日テアトル新宿ほか全国ロードショー



配信シングル「TAPES」
2023年3月29日(水)リリース
収録曲:01.国境/02.Turn



1stEP『Breath』
2022年8月17日(水)リリース
収録曲:01.My friend/02.不思議なぼくら/03.電源/04.Good morning to you/05.ハウ・アー・ユー/06.Mabataki
販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/

■ ライブ、イベントの最新情報は公式サイトをご確認ください。
https://nakanomiho.tumblr.com

中野ミホのコラム「まほうの映画館2」ARCHIVE

第1回:「そう、絶対に、愛が勝つ! ジョジョ・ラビット」
第2回:「きみとぼくだけの本当は、誰も知らない。ジョン・F・ドノヴァンの死と生」
第3回:「どんなに暗く冷たい雨だって、いつかは止むだろう。ブラック・レイン」
第4回:「ゾンビだらけの世の中でも、やさしく、ちょっと笑おう。デッド・ドント・ダイ」
第5回:「雨の街はいつもより、悩ましくロマンチック! レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
第6回:「どうしようもなくても、そばにいて。ハニーボーイ。」
第7回:「夢かもしれない、でも残ってるあの夏の熱。真夏の夜のジャズ」
第8回:「ふたりの居場所は、湖だけ。鵞鳥湖の夜」
第9回:「あきらめるなよ、の言葉は優しさ。ぼくの家族。ヒルビリー・エレジー」
第10回:「ちょっとずつ繋がる、わたしと、わたし! パリのどこかで、あなたと」
第11回:「善悪なんてない、愛だけでいいはずなのに。聖なる犯罪者」
第12回:「その涙は、ほんものの恋! マーメイド・イン・パリ」
第13回:「大切な根っこは、いつもこころの中にある。ミナリ」
第14回:「言葉にならない、胸の奥にある音楽のようにふるえる。メリークリスマス!ミスターローレンス。」
第15回:「愛しているから、つらい。でも笑顔でいてね、ファーザー」
第16回:「それぞれを必死に生きてる、街はどこかやさしい。名も無い日」
第17回:「その光だけが命、たとえ海になってしまっても。ライトハウス」
第18回:「きっと、大丈夫。走り続ける、ドライブ・マイ・カー」
第19回:「小さくても、愛おしいひかり。歌ってよ、スウィート・シング」
第20回:「かっこ悪くても、そのままの自分を歌え! 愛は続いてく、チック、チック...ブーン!」
第21回:「どんなときだってずっと、家族は家族。大丈夫。パーフェクト・ノーマル・ファミリー」
第22回:「なんてしあわせな体験。リアルな魔法でできている世界のはなし。フレンチ・ディスパッチ」
第23回:「きみが居ないくらいなら、星になってしまおう。ガガーリン」
第24回:「マイナーキーで人生を歌おう。アネット」
第25回:「誰も予想できない、未来について話そう。前へ、前へ。カモン カモン」
第26回:「潮風と肌、悩ましい海辺の歌。夏物語」
第27回:「前も後ろもみなくていい、今だけ、あなたのためだけに走る。リコリス・ピザ」
第28回:「どんな世界でも、あなたはずっと歌っていて。ディーバ」
第29回:「それは私たちだけの、時代をも変える合言葉。アムステルダム」
第30回:「永遠なんてないから、今日は手をつないで眠ろう。ホワイト・ノイズ」
第31回:「光と影、永遠の魔法にきらめくさみしさ。美女と野獣」
第32回:「潮が満ちて、永遠に解けない彼女のミステリー。別れる決心」
第33回:「愛がくるしくても、捨てられなかった日記。僕の巡査」
第34回:「どんなわたしも、結局はわたし。ジュリア(s)」
第35回:「赤と青、盲目の恋の行方は果たして…? 苦い涙」
第36回:「キラキラしてなくてもいい、わたしはわたしなだけ! バービー」
第37回:「その夜のすきまに、星は見える? 白鍵と黒鍵の間に」
第38回:「おいしさの秘密は、あったかいハートにある。ウォンカとチョコレート工場のはじまり」
第39回:「自分なりのしあわせと、これから。枯れ葉」
第40回:「フィルムの中だけの永遠を、もう一度。瞳をとじて」
第41回:「少女のころの私、さよなら、またね。パスト ライブス」

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